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格闘家な紋章術士  作者: 愉快な魔法使い
第一章「アーセル王国」編
12/202

第十話「装飾屋」

新たに追加した話数です。


 刀を手に入れたスレッド達は、ミズハの防具を新調するために意気揚々と装飾店に向かっていた。


 なぜ防具店ではなく、装飾店に向かっているのか。それはミズハの身体にあった、しっかりとした防具を作るためである。

 確かに防具店で購入すれば、安価で手に入れることが出来るだろう。だが、防具店で売っている防具は大量に作る為に型を取り、決まった形で売り出されている。それでは身体と防具の間に隙間が出来てしまう。


 ちょっとした隙間でも戦闘中では邪魔になる。そこで、身体のラインをしっかりと調べ、それに合わせて造った方がいい。


 良い刀を手に入れて、嬉しそうに歩いていたミズハだが、装飾店に近づくにつれてどんどんテンションが下がっていった。


「? どうした?」


「クゥン?」


「…………いや、なんでもない」


 先ほどまで嬉しそうだったミズハの表情が曇る。どこか疲れている様な表情だ。

 スレッドとライアはどうしたのかと首を傾げるが、ミズハは大丈夫だと主張する。


 しばらく大通りを歩き、目的の装飾店の前までやってきた。


「…………」


「入らないのか?」


「…………ああ、行こう」


 一息吐き、ミズハはスレッド達を連れて店に入っていった。


 店に入ると、煌びやかな光が目に入ってきた。店内には多くの服や防具、アクセサリーが並んでいる。


 この店はミズハ御用達の店で、ここの店長とは冒険者を始めた頃からの付き合いである。以前装備していた防具もこの店で購入した。


「あ~ら、ミズハちゃん。いらっしゃい」


「!?」


「……久しぶり、店長」


 声のする方を向くと、そこには大柄で輝く装飾、ピンクの女性物の服を着た髭を生やした男が立っていた。


 その姿を見たスレッドは後ろに一歩後ずさり、ミズハはそんなスレッドに苦笑しながら店長と挨拶を交わす。


「まあ、ミズハちゃん。良い男連れてるじゃない」


「ッ!?」


 店長の舐める様な視線に背筋が寒くなる。引き攣った笑みを浮かべながら更に一歩下がる。それに合わせて店長も近づいてくる。


「店長、貴方の姿はとても刺激的なんだ。あまり私の仲間を怖がらせないでくれ」


「あら、私はそんなつもりはないわよ。挨拶のつもりよ」


「その挨拶が怖いんだよ」


 ミズハと楽しそうに話をする店長を見て、どうやら悪い人ではないようだ。スレッドは気を取り戻して、右手を差し出した。


「スレッドだ」


「店長のクリスよ。よろしくね」


 クリスの手は一般的な男性の手よりも大きい。だが、指一本一本は女性の様に細く、しなやかだ。その指から造られる装飾品の数々は多くの女性冒険者から高い支持を受けている。


 しかし、顔は濃く、がたいも良いクリスが女性物の服を着て、女性の口調で喋る様は初対面では必ず驚いてしまう。

 これをそのままスレッドと会わせて大丈夫か。それがここに来る前にミズハが不安に感じていたことである。


 だが、問題はなかったようだ。最初は引かれてしまったが……。


「それで、今日はどうしたの」


「防具を新調したいんだ。前のが使い物にならなくてね」


「あ~ら♪ また大きくなったの?」


「?…………い、いや、違うから!!」


 ミズハのある一部を見ながら、クリスは楽しそうに身体をくねらせる。傍から見るとっても気持ち悪い。


「それじゃあサイズを計りに行きましょう」


「ちょ、押さないで!!」


『…………』


 クリスはミズハの背中を押しながら、奥の部屋へと連れていった。スレッドとライアはそれを呆然と眺めていることしかできなかった。






 ミズハとクリスが奥へと消えた後、スレッドは店内のアクセサリーを見て回っていた。

 ちなみにライアは途中まで一緒に見て回っていたが、飽きたのか隅っこで身体を丸めて寝ていた。


「…………へえ~」


 ガラスケースに並ぶアクセサリーにスレッドは感心したように眺めていた。

 クリスが細工したアクセサリーは王族も身につけているほど大人気だ。クリスのアクセサリーは女性の憧れであり、女性に贈るだけで大変喜ばれる。


 それが事実であることを証明するように、その造りはとても繊細で素晴らしい。


 アクセサリーに詳しくないスレッドでもその美しさに目を奪われていた。


「どうかしら、私の作品は?」


 突然声を掛けられた。気付くと、クリスがスレッドの真横に立っていた。


「……どっから湧いて出た?」


「乙女に失礼ね。虫や何かじゃないのよ」


「いや、乙女じゃないから」


 不服そうに頬を膨らませるクリスについつい突っ込みを入れてしまう。どう見てもおっさんにしか見えない。


「ミズハの方はいいのか?」


「他の子に任せてるから大丈夫。それより、話でもしましょう」


 ミズハを他の店員に任せ、スレッドと話をするために戻ってきた。

 これまで一人でやってきたミズハが突然パーティを組んだのだ。気になって仕方なかったのだ。


 しばらく世間話をしていたら、クリスは至極真面目な表情で語り出した。


「……あの子はね、ああ見えて意外に弱い子なの」


「…………」


「女一人で冒険者になる。それはとても大変なことなの。だから…………あの子を支えてあげてね」


「ああ」


「ガウ!!」


 力強く頷くスレッドと元気よく吠えるライアを見て、クリスは嬉しそうに頷いた。


 その後も世間話を続け、ミズハの計測が終わるまで待ち続けた。二人は意外に気があったのか、楽しそうに会話が続けられていた。



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