第百十六話「ライアの休息 前篇」
「ワフゥ…………」
スレッド達が幽霊屋敷を探索している頃。
木漏れ日が射す森の中、ライアはあくびをしながら身体を丸めて眠りについていた。そんなライアの周りには小鳥やリスなどの小動物が近寄り、穏やかな空気がその場を包みこんでいる。まるでお話の中の一ページの様だ。
いつもはスレッドと一緒なライアだが、今回はお留守番だ。
スレッドが封印されている数カ月、ライアはスレッドを護るためにたった一匹で戦い抜いた。
氣獣は核に蓄えられている術者の氣が無くならない限り、基本的には死ぬことが無い。怪我を負っても氣を使用して再生し、半永久的に存在し続ける。
しかし、決して疲労しないわけではない。
そこで、今回のクエストには同行せず、スレッドの氣の補充をした後に休息ついでにお留守番をすることになった。
「…………」
ライアが休んでいる場所は、カロリーナの家の近くの森だ。凶暴な魔物はおらず、カロリーナが展開させている結界が魔物の侵入を許さない。
また、結界によって人が近づき難くなっている。
結界によって凶暴な魔物や人間が入らないことで、森の資源は豊富だ。多くの果実や木の実が実り、小動物などがえさを求めて近づいてくる。
「ニャー…………」
静かに眠っていると、一匹の猫が近寄ってきた。草むらから現れたその猫は、まだ幼い子猫の様だ。つぶらな瞳でライアを見つめ、寝ているライアの横で一緒になって眠り始めた。
ライアは一瞬猫を見たが、すぐに問題ないと判断して眠りについた。
「…………ワウ?」
数時間が経ち、ライアは寝る前に感じていた猫の気配が無くなったことに気付き、辺りを見渡した。
辺りは寝る前と変わらず静かで、子猫がいないこと以外は変化が無かった。
集中して気配を探ってみるが、それらしい気配は感じられない。どうやら近くにはいないようだ。
ライアはゆっくりと起き上がり、軽く伸びをする。ライアの身体に乗っていた鳥は空へと飛んでいき、リスは草むらへと逃げていった。
「ガウ」
核に刻まれた身体強化の紋章を発動させ、全身を強化させる。軽く脚に力を入れ、次の瞬間にはライアの姿はその場になかった。
木々の間で風を切る様な音が聞こえる。一見すると音だけのように見えるが、ライアが凄まじい早さで森の中を駆けていく。
たまたま地面の上に頭を出していたモグラは驚いて穴の中に落ちていき、木に実っている果実が忽然と消える。ライアは口の中の咀嚼しながら猫の気配を探る。
子猫の足ではそれほど遠くに行くことはできない。大型の獣などに連れ去られたら、必ずライアが気付いているはずだ。
ライアが子猫を探す必要は無い。子猫は野生の獣であり、この先ライアが面倒を見続けることはできない。
しかし、弱々しい姿を見ていたら、どうしても気になってしまっていた。その為、散歩がてら猫を探しに出かけた。
周りの景色を楽しみながらも、ライアは猫の気配を探っていた。
「ニャー…………」
「!?」
震えるような鳴き声と共に、ライアは子猫を発見した。それと同時に子猫と対峙している巨大な獣を発見した。
「ガアアアア!!」
全身が毛で覆われ、約2メートル以上の巨大さ、鋭い爪と牙を持った魔物、グリードベアだ。
スピードはないが、鋼すら破壊する攻撃力を持っているグリードベア。肉食で、たった一匹のグリードベアで森の動物が半減すると言われている。
冒険者の間では、一人で出会ったら全力で逃げろと言われている。
どうやらこの辺りはカロリーナの結界から外れているようだ。ライアは後方に結界の魔力を感じていた。
「ガウ!!」
ライアは子猫とグリードベアの間に移動し、いきり立っているグリードベアを威嚇する。
右腕を振り上げるグリードベア。その動きはゆっくりだが、直撃すればライアの身体ごと子猫を肉の塊にすることが出来るだろう。
震えて動けない子猫を銜え、ライアは木の蔭へと移動する。
ドオォォン!!
激しい音と共にクレーターが出来上がる。たった一振りでこの威力だ。一撃でも当たることなど出来ない。
優しく子猫を見えない場所に移動させてからグリードベアと対峙する。
ライアの脚ならば、子猫を銜えたまま逃げきることは出来るかもしれない。
それでもライアは逃げなかった。このままグリードベアを放置すれば、穏やかなこの森は破壊尽くされるだろう。
それを防ぐためには、グリードベアに立ち向かわなければならない。
「ガアアアア!!」
「ガウ!!」
ライアの戦いが始まった。決して負けられない戦いが。
今回はいつもより内容量が少なくなってしまいました。
もう少し書こうかと思ったのですが、
中途半端なところで終わりそうだったので、
戦いの前に終わらせて、前後篇で分けてみました。
ただ、次が少し長くなるかも……(-_-;)




