第百十五話「幽霊探し」
「…………二人とも」
「な、なんだ!?」
「なに?」
「歩き難いんだが……」
薄暗い屋敷の廊下をスレッドとその両脇でスレッドの服を掴んでいるミズハとブレアが歩いている。
その足取りは遅く、両脇の二人は怯えきっていた。
ヒュウゥゥ。
「ひっ!?」
「ブルブル」
突然聞こえてきた風の音にミズハもブレアも身体を縮こまらせ、動けなくなってしまう。そんな二人を無視して進むことはスレッドには出来なかった。
今回彼らが受注したクエスト、それはある屋敷の内部調査だった。
無事に猫探しのクエストを成功させたスレッド達は、次のクエストを求めて再びギルドを訪れていた。
三人でバラバラにクエストを探していると、スレッドが一つのクエストを発見した。
「…………これ、どうだ?」
スレッドの提示したクエストを横から覗き込んだミズハとブレアは、クエスト内容を確認して動きが止まった。
「それなりに報酬も良いし、取得出来るポイントも多い」
『…………』
「よし、これでいこう」
『ちょっと待った!!』
スレッドは二人の意見を聞くことなく、さっさとカウンターにクエストを受注に行ってしまった。
二人は必死になってスレッドを止めようとしたが、間に合わなかった。
そんなミズハとブレアが嫌がったクエスト。それは使われていない屋敷に現れるという幽霊を調査するクエストだった。
探索する屋敷に着くまでミズハとブレアは黙ったままだったが、屋敷に入ると二人はスレッドの服を掴み、スレッドの身体に自分達の身体を密着させた。
「なあ、三人で見て回ると非効率だし、分かれて探索しないか?」
『いや!!』
「…………」
二人のあまりの勢いにスレッドは何も言えなかった。そのままの速度で屋敷内を進んでいく。
一部屋一部屋確認していくが、二人が役に立たないせいか時間が掛かる。
今回のクエストは、屋敷内全てを見回り、問題が無いことを依頼主に報告する。以前から周囲の人間が何かいる影を目撃している。売家なのだが、そのような噂が広まっては売れなくなってしまう。
そこで所有者がギルドに依頼し、スレッド達が請け負った形である。
一通り捜索して、何も無ければ終了の楽なクエストだが、誰もこのクエストを受注していない。
(何かあるな…………)
受付した職員の女性は今まで数組の冒険者が挑戦したが、全員が途中でクエストを放棄したと話していた。
クエストを放棄した冒険者は中堅クラスばかりだ。クエストのランク自体は彼らでも問題ないが、それでも失敗したのだ。
冒険者達は全員が幽霊にやられたとギルドに報告した。どういうことかと尋ねても、どうやら恐怖であまり覚えていなかった。
この屋敷には何かがある。スレッドは辺りを警戒しながら進んでいった。
一階を捜索し終えたスレッド達は二階へと上がった。二階に上がる際にミズハとブレアの足取りが遅くなったが、それでも二人で待つのも嫌でスレッドに更に密着して付いていった。
『…………』
誰も言葉を発しない。光の射さない屋敷内は独特の雰囲気を醸し出し、スレッドもなんとなく二人に話しかけることが出来なかった。
二階には五部屋ほどの小部屋と一部屋の応接室がある。
小部屋は既に探索を終え、残るは応接室だけだ。応接室を探索し、何も無ければそこでクエスト終了だ。後は依頼人に報告するだけだ。
「…………行くぞ?」
『…………』
行きたくはない。だけど、行くしかない。二人は僅かに首を縦に振った。
依頼人から借りた鍵を鍵穴に差しこみ、ゆっくりと回す。
ガチャン。
鍵が開き、扉を開けた。
「!?」
扉を開けた瞬間、スレッドの目に飛び込んできたのは闇の中に煌めく刃が迫って来る光景だった。
刃を振るっていたのは、一体の鎧だった。全身を鎧で覆っている為、中の人物の顔は全く見えない。
瞬間的に手を出そうとしたが、ミズハとブレアがスレッドの腕を掴んでいる為動かせなかった。すぐさま我を取り戻し、片方の足裏に紋章を展開させた。
「おら!!」
鎧の腹に蹴りを入れ、直撃する瞬間に紋章を発動させる。発動した紋章術の衝撃で鎧は吹っ飛び、反対側の壁に激突した。
「…………」
かなりの衝撃を与えた筈だが、兜の奥からは呻き声すら聞こえなかった。どうやら中に入っているのは人間ではないようだ。
「あれは…………ゴーストアーマー」
先に我を取り戻したブレアが鎧を観察し、鎧の正体を見破る。
鎧の正体はゴーストアーマー。長年放置され続けている鎧に魔物の思念が取り憑き、出会ったもの全てに襲いかかる。ゴーストアーマーには意識は無く、人間だけではなく魔物も敵とみなす。
ゴーストアーマーは思念だけで動くので、食事と睡眠を必要としない。その為ゴーストアーマーの中には百年以上動き続けているものもいる。
「スレッド、ゴーストアーマーには核がある。それを破壊すれば…………」
「動かなくなる、か!!」
優しく二人を引き剥がし、スレッドはゴーストアーマーに迫る。倒し方さえ分かれば、後はいつも通りにぶっ倒すだけだ。
依頼人には出来るだけ物を壊さないようにと注意を受けているが、魔物が取り憑いている鎧なら遠慮する必要はないだろう。
スレッドは氣を纏わせた拳を鎧に叩きこもうとした。
「ッ!?」
だが、スレッドの拳はゴーストアーマーに当たらなかった。ゴーストアーマーは先ほどまでとは違い、スレッドの捉えきれないほどの動きで攻撃を回避した。
更にあり得ない方向に関節が曲がり、思ってもみないところから刃が振るわれた。
紙一重で刃をかわし、今度は蹴りを入れようとするが、素早い動きでゴーストアーマーは人間では不可能な動きで鎧の一部だけを横にずらす。
しかし、スレッドは回避されることを予想していた。回避されたところで展開させたまま待機させていた紋章を発動させる。圧縮された空気が爆発し、ゴーストアーマーを吹き飛ばした。
「!? ミズハ、危ない!!」
吹き飛ばされたゴーストアーマーはそのまま移動し、ミズハの近くに降り立った。剣を振り上げ、近くにいたミズハに向かって振り下ろそうとした。
「駄目…………当たっちゃう」
ブレアは咄嗟に紋章術を放とうとするが、攻撃することが出来ない。下位の紋章では意味が無いし、中位以上の紋章ではミズハを巻きこんでしまう。
「いやーーーー!!」
ヒュン!!
未だにゴーストアーマーと認識できずに幽霊だと思っているミズハ。身体を縮こまらせていたが、すぐ近くに気配を感じ、反射的に抜刀した。
その動きはいつも以上で、ゴーストアーマーも殆ど反応的ないほどだった。刀は鎧の胴体を斬り裂き、偶然にもゴーストアーマーの核を斬った。
鎧は動きを止め、崩れ落ちようとした。
「もう、いやーーーー!!」
魔物の気配が無くなったにも関わらず、ミズハは凄まじい早さで刀を振り続け、鎧を細切れにしていった。
『…………』
今のミズハを止めるには、かなりの勇気が必要だ。下手をすれば、気付かれることなくバッサリいかれそうだ。
いつまでも気が付かないミズハをどうやって止めようか、考え込む二人だった。
えー、活動報告でもお知らせしましたが、
今回は更新が少し遅れました。
更新するペースは決めていないのですが、
第七章は二日に一回というペースを保っていました。
しかし、土曜日の午後仕事終りに映画を見るため弾丸ツアーを敢行してきました。
地元ではやっておらず、また先着の入場者特典もあるので、
ついつい片道3時間もかけて観に行ってきました。
ちなみに家に到着したのは深夜1時半です(-_-;)
いつもなら休日に書き溜めたりするのですが、
今回は疲れもあってこの話数を書きあげるので精一杯でした。
ですので、次の更新も2日では厳しいかもしれません。
それでも何とか更新できるように頑張りますので、
次の更新を気長に待ってやってください。