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格闘家な紋章術士  作者: 愉快な魔法使い
第七章「日常」編
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第百十四話「猫探し」


「うーん…………違うな」


 屋根の上で見つけた猫の特徴をしっかりと観察し、探している猫と一致する点を探す。だが、全く一致しなかった。


 猫をそっと屋根の上に降ろす。猫はすぐさまスレッドから離れ、違う屋根の上に逃げていった。


 周囲を見渡すが、他に猫はいないようだ。


「さて、次は何処を探すかな」


 スレッドは落ち込むことなく、次の探索を開始した。






 スレッドがなぜ猫を探しているのか。それは数時間ほど前に遡る。


 訓練を行なっていたスレッド達だが、たまには息抜きも必要だ。スレッド達はカロリーナに勧められてクエストを受注することにした。


 さすがに病み上がりのスレッドに魔物の討伐関係を行なうのは少々危険だ。今のスレッドにそう簡単に勝てる魔物は少ないだろうが、少しでも危険は減らしたい。


 ミズハとブレアはスレッドのリハビリも兼ねて街中で行なえる雑用を受注することにした。


「これなんか良いんじゃないか?」


 掲示板を眺めていた三人。どれがいいかと眺めていると、ミズハが一つのクエストを発見した。


 それは、飼い猫を探してくれというクエストだった。






 三人は依頼人に会い、猫の特徴を聞いてから探索を開始した。


「もう~、何処に行ったのかしらミーちゃんは!! あの猫は病弱でね、でも世界で一番可愛くてね…………」


 延々と愚痴と猫の自慢を聞かされ、げんなりしながらも相槌を打っていた。依頼人を怒らせるわけにはいかない。


 固まって探しては効率が悪い。スレッド達は別々に猫を探すこととなった。


「ニャー、ニャー…………」


 猫の鳴き声を真似ながら、ブレアは街中を歩いていく。その隣ではライアが地面の臭いを嗅ぎながら歩いていた。


 このところ三人が分かれて行動する際、ブレアとライアが行動することが多い。スレッドとミズハは接近戦を行なえる戦士タイプだが、ブレアは後方での戦いを得意とする紋章術士だ。


 賊に襲われた際、簡単に負けるはずがないが、それでも紋章を展開する時間は必要だ。


 そこでライアが前線役として同行しているのだ。


「猫、いた…………」


「ワウ」


 探している猫に似た猫が塀の上に丸くなりながら眠っている。ゆっくりと近づき、もっと近くで観察してみる。しかし、近くで見ると、どうやら違う猫だと分かった。


「何処に行ったんだろう」


「ワウゥ…………」


 依頼人の話では、それほど遠くに行けるほどの体力はないとのこと。街の外には出ていないはずだ。


 ブレアとライアは他の場所を探すために再び猫の鳴き声を真似ながら移動していった。






 スレッドとブレアが猫を捜索している頃、ミズハは街の人々から情報収集しながら猫を探していた。


 猫の特徴と似顔絵の描かれたメモを片手に、道行く人々に話しかける。親切に情報をくれる者もいれば、ミズハの容姿に引かれてナンパする者もいる。

 だが、ミズハの刀を見て、すぐさまナンパ男達は足早に去っていく。冒険者に一般人が力で敵うはずが無い。


 そんな風にして情報を集めていくが、有益な情報は手に入らない。


「どこにいるのやら…………ん?」


 次はどの人に尋ねようかと考えていると、ミズハの耳に微かな鳴き声が聞こえてきた。


 辺りを見渡すが、見える範囲には猫はいない。物陰に隠れているほどの距離から聞こえてくるほどの声量ではない。


 しばらく耳を澄ませ、裏通りの方から聞こえてくることが分かった。


「こっちか」


 ミズハは猫の鳴き声が聞こえてくる裏通りへと入っていった。






「オラオラ!!」


「ギャハハ!! やり過ぎだぜ!!」


「ニャーー!!」


 ミズハが裏通りを進んでいくと、角の先から複数の男の声と猫の悲鳴が聞こえてきた。猫の悲鳴を聞き、急いで角を曲がった。


「!?」


 角を曲がるとそこには、探していた猫を手に持った木の枝などで苛めるチンピラ達の姿があった。


「おい、やめろ!!」


「ああん?」


「なんだ、こいつ?」


 その光景に怒りを覚えたミズハは、チンピラ達を止めるために大声を上げた。ミズハの姿に気付いたチンピラ達は顔を歪めて声のする方に視線を向けると、ミズハの容姿にすぐさま下卑た笑みを浮かべた。


 ニヤニヤしながら、リーダー格の男がミズハに話しかけてきた。


「俺達に何の用だ?」


「その猫を渡して貰おうか」


「ん? これはお前のか?」


「お前達には関係ない」


 余裕の笑みを浮かべたまま、男はミズハに質問する。ミズハは憮然とした態度で男達に猫を渡す様に要求する。


「まあいいや。おい、お前達!!」


「へえ、良い女だな」


「今日は楽しくなりそうだ」


 リーダーの男の合図でチンピラ達はミズハを取り押さえようと、じりじりと近づいてくる。男達の顔にはこれからのことを想像して、にやけている者たちが大半だ。


 ミズハはいつでも戦えるように刀の柄に手を添える。


「おっと。こいつがどうなってもいいのか?」


「…………」


 抵抗しようとした瞬間、リーダー格の男が手に掴んだ猫を見せびらかす。その姿を見て、ミズハは動きを止めた。


 その事に気を良くした男達は更にミズハに近づいてくる。


(くそ!! どうする。下手に動けば、猫がどうなるか分からない。だが、このまま良い様にされるわけにはいかない)


「諦めな。大丈夫、俺達が楽しませてやるよ。存分に楽しんだら、こいつは解放してやる」


「へへ、久しぶりの女だ」


「リーダー!! 早いとこやっちまおうぜ!!」


 刀を抜けないミズハ。どうにか打開する策はないかと考えを巡らすが、思いつかない。しかし、このまま男達の良い様にされるわけにはいかない。


 チンピラの一人がミズハに触れようとした瞬間、




「俺の大切な仲間に何している?」


『ッ!?』




 上の方から聞こえてきたスレッドの声に、その場にいた全員が動きを止めた。その一瞬で屋根の上にいたスレッドは地面に降り立ち、リーダー格の男の首筋に手刀を加えた。


「うぐっ!?」


 男は意識を失い、地面に崩れ落ちた。スレッドは崩れ落ちる男の手から猫を奪い取った。


「野郎!!」


「やっちまえ!!」


 リーダーがやられたチンピラ達は、怒りを露わにしてスレッドに襲いかかってきた。


 その動きは明らかに素人で、スレッドからしたら遊んでいるように見える。その一人一人をあっさりと気絶させていく。


「こっちを忘れてもらっては困るな」


 スレッドの反対側では、ミズハが刀を鞘に納めたままチンピラ達を峰打ちしていく。


 ミズハの攻撃に、男達は大きな痣を作っていく。どうやら男達への怒りがいつも以上の力を加えているようだ。


 数分もしない内にチンピラ達は全員気絶させられた。






「助かったよ、スレッド」


「気にするな」


 男達を縛り上げ、道の端に放置する。罪を犯したわけではないが、何もせずに放置するのではミズハの気が納まらない。簡単に解けない様に念入りに縛り上げた。


「それに、その…………ありがとう」


「ん? 何か言ったか?」


「な、なんでもない!?」


 ミズハが小声でつぶやいた言葉に、スレッドが反応する。ミズハは顔を真っ赤にしながら、両手を振って誤魔化した。


(スレッドの口からあんな言葉を聞けるなんて……)


 ミズハは助けてもらったことも嬉しかったが、それ以上にスレッドの口から「大切な仲間」と言われたことが嬉しかった。


 惜しむらくは女性としてではなく、仲間として大切だと言われたことだ。


「とう」


「うおっと!!」


 なんとなく甘ったるい感じのする空気を破るように、ブレアは屋根の上から飛び降りた。頭上に落ちてきたブレアをスレッドはお姫様抱っこで受け止める。


 スレッドの腕の中に納まったブレアの表情はとても嬉しそうだった。


「…………ブレア、そろそろ降りたらどうだ?」


「いや。もう少し」


 心の中で悔しさをにじませながら、ミズハはブレアに降りる様に提案する。だが、ブレアは更にスレッドに密着して、そっぽを向くように反抗した。


 二人の姿にライアは首を振り、その横では猫が毛繕いをしながらあくびをしていた。


 その後もミズハとブレアの女の戦いが続いていった。



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