第百十話「会議の後」
「何とか無事に終了したな」
「幾つか議論が紛糾しましたがね」
どっしりと椅子に座るエリュディオの言葉に、対面に座るジョアンが苦笑いを浮かべながら答える。
会議は一日で終了したが、様々な意見で会議は紛糾した。魔族への対策で一致しても、国家間の問題はそう簡単に解決できるものではない。特にハイロウ両国の問題はなかなか折り合いが付かなかった。
それ故、実際の時間よりも長く感じられた。
会議終了後、エリュディオやミラはゆっくりとバルゼンドに滞在していたが、ウルコンとバルザックは会議が終わると慌てて国へと帰っていった。
「あれは確実に封印探しだね」
「石像を確保した方が主導権を握りそうですね」
メイドが用意した飲み物を味わいながら、ミラがウルコンとバルザックの後ろ姿を思い出して笑う。
ジョアンが語った様に、彼らは相手より先に封印である石像を探し出そうとしているのだろう。先に見つけることで、主導権を握ろうというのだ。
「確保したところで利益には繋がらないだろうがな」
「それでも、相手を悔しがらせたいんじゃないかい?」
封印は魔族に狙われているのだ。守り通せれば良いが、破壊されれば他国の信頼を失いかねない。
ハイロウは内戦でかなり疲弊している。その為軍隊を編成することはできない。下手に見付かって、魔族に襲われたら更に疲弊してしまう。
出来るならば、相手国にあった方が被害は少ないだろう。
「この問題は人類全体の問題だ。彼らだけに任せることはない。我々も力を貸すべきだろう」
「しかし、彼らが簡単にそれを受け入れるでしょうか?」
内戦を続けてきたハイロウ両国は、他国の干渉を極端に嫌う。内戦の理由が宗教的な問題を孕んでいることもあり、他の価値観を受け入れ難いのだ。
これまでもアーセル王国やバルゼンド帝国が調停を行なおうとしたが、両国は頑なに拒んできた。
「受け入れさせるしかないでしょう。些細なことで争っている場合ではありません」
ジョアンの問いにリカルドが答える。
魔王の復活は必ず阻止しなければならない。その為には全ての国の協力が必要なのだ。
「しかし、彼らの意向を考えずに決めてしまって良かったのかね?」
エリュディオは主語を言わなかったが、冒険者派遣のことであることはその場の誰もが分かっていた。
「彼らにはギルドを通して私から話しをつけておきますが、確かに事前の話しが無かったのはまずかったかもしれませんな」
「しかし、彼らほどの実力がある冒険者がいないのも事実じゃないかい」
「確かに、所在を掴めている者は少ないですな」
この世界にはスレッド達以上に実力のある冒険者は少なくない。中にはたった一人でクエストをこなし、危険な場所から無傷で帰ってきたほどの冒険者もいる。
しかし、全ての冒険者の所在をギルドが管理しているわけでない。冒険者によっては数年間音信不通で、久々に表れたと思ったらランクAクラスほどの実力を身に着けていた者もいた。
そして、実力が高いものほど所在が掴めない比率が高い。実力があるからこそ長期間クエストをこなし、全てが終了してからギルドに報告するからだ。
「大丈夫ですよ、彼らなら」
他の者が真剣な表情で話し合っている中、ジョアンは笑顔を浮かべながら自身のある言葉を放った。
「彼らの実力なら問題なく必ずやり遂げてくれます」
ここにいる殆どがスレッド達に助けられたのだ。その実力は確かであり、信じているのだ。
魔王領の調査は様々な準備や申請があり、実際に行なわれるのは早くても数ヵ月後だ。それまで忙しくなりそうだ。
「…………」
「ねえ、まだー?」
光の射さない地下にある部屋の床一面に紋章が刻まれ、その中心には一冊の本が置かれている。その本に施されている封印を解除するためにラファエーレは集中して解除作業に入っていた。
部屋の隅ではエヴァが退屈そうにラファエーレの作業を眺めていた。
「…………」
ラファエーレはエヴァの言葉を無視して、慎重に封印を紐解いていく。封印が解除されるにつれ床に刻まれた紋章が小さくなっていき、最終的には本の大きさからおよそ一回りほどの大きさへと変化した。
パキン!!
何かが割れる音がして、本に施されていた封印が解除された。ラファエーレは本を拾い上げ、ページをめくり始めた。
「どれどれ…………何これ?」
「…………フィレノス文字だ。特殊な配列で記されている人間の生み出した暗号の様なものだ」
「で、読めるの?」
「問題ない」
その後はエヴァを無視し、ラファエーレは次々ページをめくっていく。
本の内容には、ラファエーレ達が求める封印の位置以外にも多くの情報が記されている。ラファエーレはフィレノス文字を完全に理解しているわけではないが、ページに記されている内容を少し読んではめくっていく。
「…………これか」
あるページで手が止まる。そこには幾つかの図形と地図、それらを説明するための文章が記されていた。
黙々とページを記憶し、読み終わるとラファエーレは本を闇の中に突っ込んだ。
「説明は無し、なわけね」
いつものことかと肩を竦めるエヴァ。ラファエーレが説明しないことなどいつものことだ。怒っても仕方が無い。
ラファエーレはすぐさま空間に歪みを生み出し、移動を開始する。
「行くぞ」
「はいはい…………でも、たまには説明してよね」
全く期待することなく、ラファエーレに続いてエヴァも歪みの中に入っていった。
いかがだったでしょうか。
第六章はもう少し長くなるかなと思いましたが、
意外と早く終わってしまいました。
まあ次章の日常編を早く書きたかったというのもありますが(-_-;)
さて、第七章ですが、以前予告していた通り
久々にほのぼのではないですが、
日常的な話を中心に書いていこうと思っています。
普通のクエストを行ったり、修行を行ったりと
あまりシリアスにするつもりはありません。
どの程度の話数になるかはまだ分かりませんが、
それなりに長くなるといいなと考えています
(まだプロットを考えていないのがバレバレですね^^;)
明日からプロットを作り始めますので、
次の更新は少し先になると思います。
それまで少々お待ちください。
その次の第八章で魔王領の調査を行わせる予定です。
まだまだ先は長いですが、これからも頑張っていきますので
応援よろしくお願いいたします<(_ _)>