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格闘家な紋章術士  作者: 愉快な魔法使い
第六章「世界会議」編
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第百七話「世界会議 上」


「それでは、会議を始めよう」


 バルゼンド帝国の城の一室、厳重な警備が行なわれた部屋の中に各国の代表が集まった。


 アーセル王エリュディオ、バルゼンド新皇帝ジョアン、リディア共和国代表ミラ、北ハイロウ代表ウルコン、南ハイロウ代表バルザック。


 彼らは円卓の机に座り、その脇にはリカルドが司会として控えている。既に会議の資料は配られており、会議が始まる前に一通り目を通している。


 これより、人類の道標を定める会議が始まる。






 ジョアンの戴冠式は無事に終了した。バルゼンド帝国は深夜までお祭り騒ぎが続き、一夜明けても、酒場では乾杯を繰り返している者もいた。


 そんな興奮冷めやらぬ中、ひっそり世界会議は開始された。


 まずは自己紹介から始まった。それぞれが各国の代表であることを知ってはいるが、会話をしたことは殆どない。


 前回の世界会議に参加している者はこの中にいない。また、国家間の戦争は無いとはいえ、外交は殆ど行なわれていない。

 中には今名前を知った者もいるほどだ。


 そんな状態で具体的な話し合いをしても上手くいかない。まずは互いを少しでも知ることが重要である。


 順番に名を名乗っていき、ハイロウ両国の番になった。


「ハイロウ代表ウルコン・ローだ」


 北ハイロウの代表ウルコン・ローは腕を組み、低い声で名乗った。


 ウルコンは筋肉が身体を覆った様な男で、鍛え抜かれた身体に黒い肌は相手に威圧感を与える。剃り上げた頭には幾つもの傷があり、身体のあちこちにも傷がある。歴戦の戦士様な風格だ。


 ウルコンは北ハイロウにあるゴブ砂漠で生活しているハイラ部族の出身で、部族を治める族長であった。


 北ハイロウは部族間の争いが激しく、南ハイロウと冷戦状態であっても、部族間には一触即発の雰囲気が漂っていた。

 そんな北ハイロウをウルコンは力で持って他部族を屈服させ、一つに纏めた。そして、北ハイロウの代表に納まった。


「ハイロウ代表バルザック・ドルスンです。よろしく」


 南ハイロウの代表バルザック・ドルスンは右手の人差指で眼鏡を押し上げながら名乗った。


 バルザックは北ハイロウ代表のウルコンとは正反対な人物だった。眼鏡を掛けた細身の男はウルコンの横に座っていると、まるで大人と子供の様な対格差を感じさせる。


 彼は元々学者だった。ハイロウや他国の歴史を調べており、政治とは無縁の人生を送っていた。バルザック自身も関わることなく人生を終えると考えていた。


 しかし、内戦が始まって生活が一変した。自分の家族が信仰していた宗教と他宗教間の争いに巻き込まれ、内戦に参加せざるをえなかった。学者をしていたということで参謀役に抜擢され、様々な交渉を行なった。


 そうこうしているうちになぜか先頭に立たされ、知らずの内にトップに立ってしまった。


『…………』


 ウルコンとバルザックは自分がハイロウという国の代表であることを主張するように、北や南と言わなかった。


 今は戦争を行なっていない両国だが、それでも小さな争いは頻発している。自分たちこそがハイロウであると主張し、北や南という表現を使わない。


 ピリピリとした空気が部屋の中を支配する。


 ウルコンとバルザックに対して、エリュディオ達は何も言わない。この問題は国同士の問題であり、下手に口出しをすれば国家間の問題にまで発展してしまう。


「…………それでは、議題に入ります」


 そんな空気を気にすることなく、リカルドはゆったりとした口調で会議を進行させていった。






 大半の議題が終了し、最大の議題に突入する。


「さて、現在各国を脅かす魔族の問題だが…………リカルド、報告してくれ」


「了解しました」


 リカルドは控えさせていた部下に資料を配らせ、資料に書かれている内容を口頭で報告していく。


 アーセル王国での魔物の大襲撃、バルゼンド帝国の国家転覆、リディア共和国での武術大会襲撃など、ここ1年ほどで魔族の関わる事件が続いている。


 当初アーセル王国を襲った魔物は魔族の関わりは確認できなかったが、ギルドの調査により魔族が関わっている可能性が出てきた。


「魔族に対してどのように対処していくか。それがこの会議の課題だ」


「ふん、ハイロウは被害を受けていない。俺の国には関係ないな」


「こいつと同じというのは気に食わないが、関係ないですね」


 お互いを毛嫌いしているが、意見は一致したウルコンとバルザック。魔族の被害が無い彼らにとって、エリュディオ達の問題は対岸の火事でしかない。


 今は自国の経済を立て直すが最優先だ。


「魔族の目的は、封印の破壊だろう。残された封印はバルゼンドとハイロウ。それを考えれば、君達の国も無関係とは言えまい」


「封印? なんだそれは」


 エリュディオが魔族の目的を推測する。しかし、封印という言葉にウルコンとバルザックは怪訝な表情を浮かべる。


 そんな二人に説明するようにエリュディオは封印に関して説明を始めた。


「戦神アルサムの封印、といえば分かるかね」


「!? 魔王の封印ですか!!」


 戦神アルサムの封印、という言葉を聞き、バルザックは目を見開いて驚いた。しかし、ウルコンはよく分かっていない表情をしている。


「遥か昔、戦神アルサムは魔王を神の力で封印した。だが、人間には神の力は強力すぎた。そこでアルサムは封印を各地に分割したのだ」


 全員がエリュディオの説明に聞き入っている。その顔には初めて聞く話に驚く表情をしていた。


「…………まさか、封印がハイロウにあるなんて」


 これまでバルザックは様々な歴史を研究してきた。戦神アルサムの封印に関しても研究成果の中にあったが、まさかハイロウに封印があるとは思っていなかった。


「一般の資料では記載などされていないが、各国には第一級の資料として保管されているはずだが…………」


「過去のことには興味ねえからな。読んだことはねえな」


「国の重要な本はこいつらが持っていきましたからね。返して貰いたいものです」


「あれは俺達のものだ。てめえらに渡すぐらいなら、燃やしてやるぜ」


「やめるんだ!! 今は争っている時じゃない」


 互いを罵るように主張するウルコンとバルザック。一触即発の雰囲気にジョアンが口を挟む。

 今は国同士で争っている時ではないのだ。


「後ほど簡単な概要を資料として渡そう。読み終わったら必ず破棄するように」


「……少し休憩でも挟もうかね」


 ヒートアップしている会議を眺め、ミラは司会のリカルドを見ながら休憩を提案する。それに同意したリカルドは15分ほどの休憩を行なうと宣言した。


 会議はまだまだ終わりそうになかった。



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