第九話「武器屋」
「いらっしゃい」
「刀を見せてほしいのだが」
ギルドを出た二人は、ミズハの武器と防具を新調するために武具店に入った。
ちなみにライアは店内に入店禁止の為、外で待っている。数分後には子ども達が集まって、じゃれつかれていた。
二人が入った武具店は、モルゼンにある武具店の一つで、一番有名な店である。品ぞろえも豊富で、店内もかなり広い。所狭しと武器・防具が並んでいる。
二人が店内に並んでいる刀を眺めていると、にやけた顔をした小太りの店主がミズハに話しかけてきた。
「紋章武器かい?」
「ああ。だが、予算があまりない。その辺りを考慮してくれ」
「そうなると――――こいつなんてどうだ? 中位のフレイムの紋章が入った鋳造式の刀だ」
「鋳造式……いくらだ?」
鋳造式と聞き、顔をしかめる。
店主が店の奥から刀を持ってきた。その刀をミズハが受け取り、刀を鞘から抜いて、軽く掲げる。刀身は綺麗だが、あまりに綺麗過ぎて観賞用にしか見えない造りだ。
金属を叩くことによって強度の高い刀を造り出す鍛造式に比べ、鋳型に熔かした金属を流し込む鋳造式ではどうしても質に差が出てしまう。
その分、金額にも差が出てしまう。普通の刀であっても、鍛造式は値段が高い。
出来るなら鍛造式が欲しいが、買えなければ意味がない。
「そうだな、こいつなら金貨10枚といったところだ」
「金貨10枚!! ぼったくりだ!!」
「失礼な姉ちゃんだ。それが一番安いんだよ。気にいらないなら帰りな!!」
あーだこーだと言い合う二人を後目に、スレッドは店内を見て回る。真剣な目つきで武器を観察していく。
「…………ふーん」
飾ってある剣を持ち、鞘から抜いて掲げる。部屋の明かりで照らしてみるが、輝きが鈍い。刃は微かだが歪みがある。
素人ならともかく、冒険者ならこの程度の物で騙されるとは思えない。
(造りが悪いな。大量生産品だろうが、これで…………金貨50枚!?)
ファルスは様々な武器を所有していた。どれも冒険者時代に手に入れた物で、中には最高級の武器もあった。そういった武器を見ていたスレッドは、それなりに武器を見る目を鍛えていた。
また、フォルスはスレッドが武具で騙されない様に真贋の眼を鍛えていた。その為、手に持っている剣が大したものでないことが分かった。
値段を見たら、明らかに金額が見合っていない。お金の価値がまだいまいちなスレッドであっても、この金額は高いと感じてしまう。精々一か月も使えれば御の字の剣が金貨50枚。
「お、にいちゃん、お目が高いね。そいつは名工ヴォルドルが造った名剣だ。買っていくかい?」
「いらん、こんなガラクタ」
「なに!!」
剣を元に戻し、武具屋を後にする。ここにいるだけ時間の無駄だ。さっさと切り上げた方がいい。
後ろでは店主が罵詈雑言を吐いていたが、完全に無視する。
外に出ると、ミズハも慌てて追いかけてきた。
「スレッド。どうしたんだ?」
「この店は駄目だ。あの程度の武器を名剣などと言っているんだ。程度が知れるよ」
「確かにぼったくりだが、ここ以外ではあまり良い店がないぞ」
大通りを歩いていく。道すがら露店などを眺めていくが、掘り出し物がそうそうあるわけもない。
仕方なくその後も色んな店を見て回っていく。しかし、どこも最初の店と似たり寄ったりだ。
結局最後まで求める様な武器は見付からなかった。
「それで、どうするんだ?」
確かに武器は大事だが、購入しないわけにはいかない。どこかで妥協するしかないのだ。
「…………普通の刀でいいから、良い刀を売ってる所を知ってるか?」
少し考えて、スレッドはミズハに普通の刀で良い店が無いかを尋ねる。どういうことかと困惑しながらも、ミズハは自分の記憶を思い出す。
「一応知ってるが、そこは紋章武器を扱っていないぞ」
「構わない。そこに案内してくれ」
スレッドの考えは分からないが、とりあえず案内することとなった。
「ここだ」
案内された場所は表通りの武具店とは全く違い、今にも潰れそうなほど店が佇んでいた。
「掘り出し物がありそうだ」
そう言って、入口の扉をくぐった。この店は魔物を入れても問題なさそうと勝手に判断し、ライアも一緒に入っていく。
「……いらっしゃい」
無愛想な老人がカウンターの奥から出迎えた。右手には小型のハンマーが握られている。
店の中は一見すると、乱雑に武具が転がっている。
しかし、そこにある武器をいくつか見てみると、紋章武器ではないがかなり良い出来であることが分かった。
「店主、見せてもらって構わないか?」
「……好きにしな」
店主の許可を貰い、二人は店内の武器を拝見していく。
店内には様々な武器が置いてある。刀は勿論のこと、両刃の剣、ダガー、槍、ハンマー、ブーメラン、果ては鎌すら置いてある。
そのどれもが一級品の武器ばかりだ。
店内の刀を調べていくと、ライアがある一本の刀を見つめていた。
その刀には、何か言い知れぬ雰囲気が漂っていた。妖刀という感じではないが、なんとなく眼が離せなくなる。
試しに鞘から抜いてみる。
「…………」
刃を見た瞬間、スレッドは眼を見開いた。様々な角度から眺め、更には店内で素振りする。
店内でそのような事をすれば、店員に怒られるどころか叩き出されるだろう。
しかし、この店の店主は、スレッドがこの刀に目を付けた瞬間からじっとスレッドの動きを眺めていた。
しばらく刀を確認した後、鞘に納める。その刀を持ってカウンターまでやってきた。
「店主、この刀いくらだ?」
「あんた、分かるのかい?」
「……これほどの刀は俺の爺さんも持ってなかった。良い刀だ」
べた褒めの刀に笑みを浮かべる。それほどまでに良い刀だった。
輝くほどに磨かれた刀身。厳選された玉鋼を匠の技で叩き上げ、限界まで薄く、鋭い刃。それでいて決して折れることのないほどの強度を誇る。
店主は目を細めてスレッドを見ていた。その顔は微かに嬉しそうだった。
これまでも自分の武器を褒めた者は多くいた。目利きのきく商人は数多くいたが、武器を使う冒険者が自分の武器を理解した者はいなかった。
だからだろうか。スレッドの言葉に嬉しくなった。
「今日は気分が良い。持ってきな」
「いいのか?」
タダで構わないという店主。スレッドはこれほどの刀をタダで良いというのが信じられなかった。
むしろこの刀なら金貨50枚を支払ってもいいぐらいだ。
驚いているスレッドに、店主は嬉しそうに頷く。
「あんたのような、理解出来ている人間に貰ってほしい」
「……使うのが俺じゃなく、彼女でもか?」
突然話を振られ、店主の視線を浴びるミズハ。睨む店主に身体を硬直させた。
「あんたの仲間なら大切に使ってくれるだろう。構わん」
「そうか。なら貰ってく」
「ありがとう」
店主に礼を告げ、スレッド達は店を後にした。
その後、ミズハの防具を新調するため、装飾屋へと向かっていった。