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格闘家な紋章術士  作者: 愉快な魔法使い
リクエスト企画
107/202

リクエスト企画 第一弾

明けましておめでとうございます。

旧年中はこの拙い作品を読んでいただき、

誠にありがとうございました。

今年も頑張ってまいりますので、よろしくお願いいたします<(_ _)>


と、まあ堅苦しい挨拶は終わりにして、

皆様年末年始いかがお過ごしでしょうか。

自分は執筆とゲームで大忙しでした。


まあここでぐだぐだ話しても仕方ないですね。

それでは本編をお楽しみください。


 この話は、フォルスがスレッドを拾う二十年ほど前の話である。


 当時はギルドが創立されて時間も経っておらず、冒険者の地位は高々知れていた。市民の中には冒険者をチンピラほどに見ている者もいたほどだ。


 それでも冒険者達は小さなことからちょっとずつ仕事をこなしていき、徐々に認知されるようになっていった。


 そんな冒険者の中でもそれなりに実力があり、かなりの問題ばかり起こすパーティが存在した。


 それが紋章術師であるフォルスをリーダーとした戦士リカルド、紋章術師カロリーナのパーティだった。






「次は壊すなよ、カロリーナ!!」


「善処するわよ」


「心がこもっていなよ……」


 強い口調で注意するリカルドに棒読みで反省の言葉を口にするカロリーナ。二人の間に挟まれるように座っているフォルスは二人の喧嘩に疲れ果てていた。


 机に杖を立てかけて、ゆっくりと食事をしているフォルス。黒い髪に黒い瞳。優しそうな顔はカロリーナの態度に疲れた様な表情をしている。

 一般的な紋章術師の様な軽装をしており、出来るだけ金属類を装備しない様にしている。フォルスは基本的に後方支援が役割だ。


 フォルスの眼の前では、厳つい鎧を着たリカルドとフォルスの様な軽装を着たカロリーナがいる。金髪に碧眼のリカルドの顔や体には幾つもの切り傷などがある。前線で戦うリカルドはフォルスの盾になることもある。その為傷を負うことが多い。


 フォルスと同じ黒い髪をしたカロリーナは、フォルスと恰好が似ているが、その理由は少し違う。カロリーナは前線で戦う紋章術師だ。回避することが基本であるカロリーナは、スピードを求めて軽装になった。

 またカロリーナは杖を使用しない。紋章術師にとって杖は補助的なものであり、カロリーナにとっては無くても問題ないのだ。


 三人は先ほどまでクエストで街を離れており、一応成功させて帰ってきたところだ。


 今回のクエストは森の奥に住む魔物の討伐であり、三人の実力からして全く問題ないレベルだった。無事にクエストを成功させ、今頃は成功報酬で食事をしているはずだった。


 しかし、人生はそう上手くいかない。

 順調に進んでいた討伐だが、途中からカロリーナが暴走し、強力な紋章術を放った。放たれた紋章術は森の半分近くを破壊し、魔物は退治したが報酬は受け取れなかった。


「全く、お前はいつもいつも…………」


 反省の色が全く見えないカロリーナに、リカルドのいつもの説教が始まった。だが、カロリーナは話を聞かずに目の前のテーブルに運ばれた食事を頬張っていた。


「モグモグ…………で、次のクエストは?」


 リカルドを完全に無視してフォルスに次のクエストが何なのかを尋ねる。フォルスもいつものことだと諦めているのか、溜息一つで説明を開始した。


 こんな二人だが、戦闘になるとなぜか息が合う。破壊具合は違うものの、リカルドもそれなりに物を破壊することがある。

 その度にフォルスが謝罪し、二人の後始末をしているのだ。


 それでも彼らはパーティを解散させない。今の状態で意外と上手くいっているのだ。


「この街から南に数日行ったところにある遺跡の調査。まあ二人の出番はそれほどないよ」


 フォルスが差し出した書類には、遺跡調査のクエストが記載されていた。遺跡調査と聞いて、二人は微妙な表情をしていた。


 リカルドもあーだこーだと言ってはいるものの、基本的には戦いが好きなのだ。二人とも調査では殆ど役に立たないのだ。


 反対にフォルスは二人ほどの実力が無いが、知識の量が半端ない。更に頭の回転も速く、知識の部分だけ見れば宮廷紋章術師にも負けることが無い。

 実際に幾つかの国から研究者として勧誘を受けたりもしている。


 フォルスはそれらの勧誘を全て断り、冒険者を選んだ。危険が多い職業ではあるが、それ以上にフォルスの求める物が大きかったからだ。


「簡単な仕事だし、報酬もそれなりだよ」


「仕方ないね」


「仕事は仕事。割り切るさ」


 二人の態度に苦笑しながら、フォルスは二人を連れて南にある遺跡へと向かった。






 三人が滞在しているバルゼンド帝国。最近新皇帝が戴冠し、富国強兵を目指すと宣言している。勢力を伸ばそうと水面下で活動し、軍備を整えている。


 その中で騎士団の力は絶大なものになっている。最大の権力は皇帝にあるが、実働部隊である騎士団が国の中で力を持っている。


 現在も他国の領土に進攻するため軍を編成し直しており、騎士団の仕事である魔物の討伐や遺跡の調査などがおろそかになっていた。


 そこで冒険者達の出番だ。バルゼンドでは国民が依頼をする際には、騎士団より先にギルドに飛び込んでいく。

 騎士団としては気分の良いことではないが、手の回らない部分を冒険者が補ってくれることは有り難かった。また、ギルドや冒険者としても次々仕事が舞い込んでくることは喜ばしい。


 そんな中でフォルスが受注したクエストは、バルゼンド帝国の首都ガンガールドの南に位置するバルズール遺跡の調査であった。


「ここだね」


「…………何も無いところだね」


「危険が無い方がいいに決まっているだろう」


 眼を輝かせながら遺跡を見つめるフォルス。その後ろでは無駄口を叩きながらもリカルドとカロリーナが周囲を警戒している。いつ魔物が飛び出してきても対応できるように気を張っていた。


「早くいこう!!」


「あ、こら!! 一人で先走るな!!」


 二人を置いていくようにフォルスは遺跡に走り込んでいく。それを止めようとリカルドが後を追う。


「…………全く、まるで子どもだね」


 二人の姿を眺めながら、カロリーナは苦笑いを浮かべながら呟いた。






「うわー…………」


 遺跡に侵入し、フォルスは更に眼を輝かせた。


 遺跡の中は様々な彫刻が施されている。壁や地面には彫刻で絵や文様が描かれ、遺跡を支える柱にも守護神の様に獣の彫刻が刻まれていた。


 確かに見事な彫刻だが、それら全ては単なる石で出来ている。特別な鉱石を使っているわけではなく、宝石などが散りばめられているわけでもない。しっかりと調査したわけではないが、財宝が隠されているようには見えない。


 はっきり言って、普通の冒険者には魅力を感じられない。


 しかし、フォルスは違った。冒険者であり、同時に研究者の一面も持っているフォルスにとって、目の前の遺跡は宝の山に見える。


 遺跡とはその国の歴史を示す重要な資料である。それを紐解いていくだけで、必ず何かしらの発見が得られるのだ。


「気を付けろよ、フォルス…………って、聞いちゃいない」


「いつものことだね」


 遺跡になど興味のない一般的な冒険者であるリカルドとカロリーナにとって、遺跡とは罠の宝庫である。侵入者を阻む罠は死をもたらすものしかあり得ない。


 遺跡の調査になるとフォルスは必ず我を忘れたように調査を進める。二人はいつもその世話をしながら先に進める様罠を解除していく。


 二人は辛抱強くフォルスの世話をしながら進んでいった。






「…………」


「ふわあぁぁ…………」


「カロリーナ、気を抜くなよ」


「気をつけてはいるけどね、こうも暇だと眠くもなるさ」


 フォルスは食事も忘れて遺跡を調査していく。調査は既に数時間が経過しており、罠も大抵解除し終わった二人は暇を持て余していた。


「…………これは」


「ん、どうした?」


 壁を調べていたフォルスは、壁の一部に疑問を感じた。リカルドの問いには答えず、手探りで壁を調べていく。


「…………」


 手触りを確認したり、叩いてみたりと他との違いを確認していく。そしてある一点に集中する。


「これ、かな?」


 壁にある突起を捻る。突起は簡単に回り、からくりが回る音がした。


 ガコン!!


 大きな音と共に壁の一部が開き、紋章術が発動する。開いた部分に紋章が覆われ、入口を封印している。


 フォルスは驚くことなく解析を続けていく。遺跡にはこういった仕掛けはつきものだ。それにこれだけ厳重なら奥にあるものは貴重な物が眠っているだろう。


 逸る気持ちを抑え、慎重に解除していく。リカルドとカロリーナはフォルスの邪魔をしない様に静かに見守っていた。


「これで……終了」


 自らの紋章と封印の紋章を重ね合わせ、紋章を解除した。三人は罠に注意しながら、奥へと進んでいった。






「これは…………」


「凄い…………」


「なかなか豪勢だね」


 封印されていた奥へと進むと、そこには様々な財宝とその中央に置かれた石像があった。リカルドとカロリーナは財宝を手に取り、フォルスは財宝には目もくれず、中央に置かれた石像に近づいた。


「…………」


 石像に触れると、紋章が発動する。何かを封印している紋章なのか、攻撃を加えてくるものではなかった。


 一体この石像は何なのか。気を引き締めて調べる必要がある。フォルスは一冊の本を取り出し、石像に刻まれた古代文字を解析していく。


「あまり時間を掛けるなよ、フォルス」


「無駄無駄。フォルスはああなったら何も聞いてないし、梃子でも動かないよ」


 解析に入るフォルスを後目に、二人は財宝を纏めていく。


 本来遺跡にある財宝等は遺跡を発掘した者に所有権がある。だが、今回はバルゼンド帝国からギルドへの依頼であり、依頼者であるバルゼンド帝国にも所有権がある。


 そこで、こういう場合の取り決めがある。それは依頼者とギルド、冒険者での山分けである。割合としては依頼者とギルドの方が大きいが、それでも冒険者にもいくらか手に入る。


 割合の少ない冒険者は発見した際に割合分を先に選ぶことが出来る。


「さっさと纏めて、帰るよ…………誰だい?」


 財宝を纏めているカロリーナは、何かの気配を感じ取り、手に持っていた財宝を床に置いた。


 いつでも動ける様に軽くリラックスし、幾つもの紋章を展開させる。


 一見すると、その場には三人以外いない。普通の人なら本当にいるのか疑問に思うだろう。


 しかし、フォルスもリカルドも一つも疑問に感じていない。こういった場合のカロリーナの感覚は獣以上のものがある。




「まさか、人間程度に見付かるとはな…………」


『!?』




 上空の空間が歪み、そこから全身にフードを被った人物が現れた。フードの奥は見えないが、如何にもな怪しさがある。

 フードの中は全く見えないが、声からして男の様だ。


「まあいい。さっさと仕事を終わらせよう」


 フードから右手を出し、紋章を展開した。フォルスもカロリーナも見たことのない紋章だったが、危険であることは理解出来た。


 紋章から黒い光が発生し、一直線に石像へと向かっていった。このままいけば、フォルスごと吹っ飛んでしまうだろう。


 だが、リカルドとカロリーナがそれを黙って見過ごすわけがなかった。


 ザン!!


 黒い光はリカルドの剣によって斬り裂かれ、二つに分かれて壁に直撃した。


「ああー!! 貴重な遺跡が!!」


 自分が助かったのは二の次で、フォルスは遺跡の壁が破壊されていくことを嘆いていた。


 そんなフォルスは放っておいて、カロリーナがフードの男に迫る。紋章術師とは思えないほどの速度で間合いを詰め、その動きにフードの男は驚きを示す。


「!?」


「私達を舐め過ぎだ!!」


 大量の魔力を込めた拳がフードの男を殴り飛ばす。フードの男は壁に激突し、またも壁が破壊され、フォルスが嘆いているが気にしない。


 カロリーナは手を緩めない。更に待機させていた幾つもの紋章を発動させ、激突した位置に炎の槍を打ち込んだ。


「…………ふん、この程度か」


 舞い上がった煙が晴れ、そこから傷一つ付いていないフードの男が現れた。


「ちっ、あれは人間じゃないね」


 一旦後ろに下がり、リカルドと並んだカロリーナが呟く。


 普通の人間なら、今のカロリーナの攻撃で重傷は確実だろう。下手をすれば死んでいる。

 だが、フードの男は無傷の様だ。フードの中は見えないが、怪我を負っているようには見えない。


 何かを用いて防御していないのなら、人間であるはずが無い。


「人間でないなら、なんだというんだ?」


「おそらく――――」


「暢気におしゃべりか?」


『ッ!?』


 ゆっくりと迫ってくるフードの男。このままでは三人共殺されてしまう。


「…………二人とも、時間を稼いでくれ。石像に封印を施す」


「逃げた方がいいんじゃないか?」


「石像をこのまま破壊されるわけにはいかない。嫌な予感がするんだ」


「……何分だ?」


「5分。頼む」


「なら、10分は稼いでやるよ」


 フォルスが提示した5分に、リカルドは10分稼ぐと告げた。


 嫌な予感がしていた。このまま石像が破壊されれば、何か悪いことが起こるのではないか。フォルスは言い知れぬ予感がしていた。


 ならば、破壊されない様に封印を施すしかない。


 二つの戦いが始まろうとしていた。






 時間を稼ぐと宣言したリカルドとカロリーナはフードの男に向き合った。


 カロリーナが自分とリカルドに強化の紋章術を掛け、各々武器を構える。対するフードの男は何もせずその場に立っている。二人に対する余裕が窺える。


「死ぬ準備は出来た様だな」


「ああ、あんたが死ぬ方だけどね!!」


 先ほどまでとは違い一つの大きな紋章を展開し、発動した紋章が巨大な炎の鳥を生み出した。羽ばたくたびに激しい風を発生させ、火の粉が空中に舞う。


 鳥はゆっくりした動きでフードの男に向かっていく。


「舐められたものだな。この程度で――――ッ!?」


 簡単に避けられるような動きに、男はゆっくりと回避しようと横に歩いていく。


 しかし、突然炎の鳥は変化した。巨大な鳥は分裂し、無数の小さな炎の鳥に変化した。更に羽の部分が鋭い風の刃に変化し、スピードを上げて突っ込んでいった。


 フードの男は慌てずに地面に紋章を展開し、黒い影が手の形をして炎の鳥を握りつぶしていく。


 それを見たカロリーナは残った炎の鳥を操作し、炎を風で煽り、竜巻を発生させる。そこに大量の水を叩きつけ、水蒸気が辺りを覆い隠した。


「ふん、目くらましにもならないな」


 そう言って影の手で振り払おうとした瞬間、銀の光が煌めいた。


「俺を忘れてもらっては困るな」


「むっ!?」


 ガキン!!


 水蒸気の中を正確にリカルドは移動し、片手剣を横一線に振り抜いた。片手剣はフードの中から出てきた手に阻まれ、ダメージを与えることが出来ない。


 リカルドは驚くことなく、反対の手に持っていたもう一本の片手剣を顔があると思われる個所に突きを放った。


「惜しかったな」


 頭に突き刺さると思われた片手剣はフードの奥に飲み込まれていき、消えていった。


「これで終わったと思うか?」


 飲みこまれた時、リカルドは掴まれていた片手剣から手を離し、腰に差していた柄を握った。その柄には刃が無く、単なる棒のように見える。

 一見すると単なる棒だが、その柄は他の遺跡で発掘された古代武器で、使用者の意思で刃を己の氣で創り出すことが出来る。


 リカルドは腰の回転を利用して、氣の刃を形成しながら全力で振り抜いた。


 氣で形成された刃は普通の剣とは比べ物にならないほどの切れ味と威力がある。この刃ならフードの男にも通用するだろう。


「ふん」


 氣の刃を見ながら、フードの男は鼻で笑った。フードの男は影を操作し、自身を覆い尽くし、影は圧縮されるように小さくなって消えていった。


 空振りしたリカルドは相手の攻撃を警戒し、周囲を警戒する。警戒しながら移動し、カロリーナの隣に立った。


「逃げたと思うか?」


「…………まだいるね。気配を感じるよ」


「人間にしては、やるようだな」


 再び上空から声が聞こえ、見上げると先ほどと変わらぬ姿で浮かんでいるフードの男がいた。






「これで…………よし!!」


 リカルドとカロリーナが激闘を繰り広げている頃、フォルスは丁寧に、それでいて迅速に石像の周りに紋章を描いていた。


 石像には既に幾つかの封印が施されている。だがそれは石像を護るものではなく、何かを封じるために掛けられた紋章術だ。

 攻撃をされたら、石像は簡単に壊れてしまうだろう。


 それを防ぐために、まずは石像の強化を行なう。対物・対紋章を付属させ、石像を土の紋章術でかため、更にその周りを氷で覆う。


 後はこれを地中深くに沈めて封印するだけだ。地面の岩を紋章術で液状化させ、氷漬けの石像を沈めていく。


「そうはさせん」


 空中でその作業を見つけたフードの男は、フォルスの作業を遮ろうと右手を突き出し、黒い光を放とうとした。




「油断したな」


「なにっ!?」


 ヒュン!!




 突然現れた白銀の髪の男がフードの男の腕を手に持った剣でバッサリと斬り落とした。その切り口は剣で斬ったとは思えないほど美しい切り口をしていた。


 誰もがその光景を呆然と眺めていた。石像を沈めているフォルスも紋章を発動させつつも見惚れていた。


「ぐっ!! 人間が!!」


「人間を舐めないことだ。さて、腕を無くなっても、まだやるか?」


 白銀の男は剣で肩を軽く叩きながら、フードの男を睨んでいる。態度は軽いが、白銀の男が放つ覇気はフードの男を警戒させるに十分な質を誇っていた。


「この借りは必ず返す。貴様、名は?」


「カイザーだ」


「覚えていろ、貴様は必ず殺す」


 濃厚な殺気を放ちながら、フードの男は自身の影の中へと消えていった。






「助かったぜ」


「ふん、あの程度私だけでも十分だったさ」


「どうしてここに?」


 戦闘が終了し、白銀の髪をした男と自己紹介を行なう。


「カイザーだ。激しい戦闘音がしたからな。気になってきてみたら、苦戦したようだから、手を出してみた」


 リカルドの握手に応え、笑顔で自己紹介をする。


 白銀の髪に蒼い瞳、女性の誰もが見惚れる様な整った顔は世の男性を嫉妬させるだろう。身長はリカルドほどだが、引き締まった筋肉が身長以上の迫力を感じさせる。

 腰には先ほどフードの男の腕を斬り落とした剣が差さっている。何の変哲のない剣だが、あれだけの切れ味があるなら名剣なのは間違いないだろう。


 カイザーは遺跡近くの森で魔物討伐を行なっていた。討伐も終了し、これから帰るかという時に遺跡がある方から激しい戦闘音が聞こえてきた。


 気になって遺跡に向かい、岩陰から様子を窺っていた。カイザーが到着した時、フードの男がフォルスに向かって黒い光を放とうとしていた。

 このままではまずい。そう思ったカイザーは氣で強化させた跳躍力でフードの男の近くに移動し、腕を斬り落とした。


「しかし、あいつは何者だったんだ?」


「僕たちにも分からないんだ。でも、人間ではないことだけは確かだ」


 地面に転がっている腕を手に取る。一見すると人間の腕だが、切り口から滴り落ちる血の色は緑だ。


「…………とりあえず撤収して、ギルドに報告しよう」


 ここでいくら考えても仕方が無い。フードの男が再び襲撃してこない内に荷物を纏めて撤収したほうがいい。


 カイザーも手伝いながら、財宝を纏めていく。袋に詰めていき、撤収する準備が出来た。


「…………」


「どうしたんだい、フォルス?」


「…………この手甲、僕が貰ってもいいかな?」


 フォルスが手に持っている蒼い手甲。紋章が刻み込まれた手甲は、遺跡にあったにもかかわらず、鉄の部分が全く錆ついていない。


「あんた、接近戦それも殴り合いなんて出来ないだろう?」


「うん…………でも、どうしてかな。これを持っていかなきゃいけない気がするんだ」


「…………隙にしな」


 フォルスとカロリーナの二人で遺跡全体にも封印を施し、街へと戻っていった。


 その後、ギルドと騎士団による本格的な調査が行なわれたが、詳しいことは分からなかった。石像も調査しようということになったものの、フォルスが沈めて封印した為調査が出来なかった。


 遺跡はバルゼンド帝国が管理することとなり、遺跡は修復されるとともに立ち入り禁止となった。

 ちなみに修復費用の半分は、フォルス達の取り分から支払われることになった。フードの男も破壊したとはいえ、大半はカロリーナの紋章術によるものだからだ。


 そして、これ以降数十年人がこの遺跡に侵入することはなかった。






「…………」


「どうしたんだ? 俺の手甲をじっと見て」


「何でもないよ…………」


 寝室から起きてきたスレッド。今に行くと、カロリーナが懐かしそうにスレッドの手甲を眺めていた。


 その姿はいつものカロリーナには見えず、スレッドは怪訝に思っていた。


「いや、でも」


「いいから、さっさ朝食でも食べてきな」


 スレッドを食事に追いやり、そのスレッドの後ろ姿を眺めていた。


「私より先に行くなんて、あいつは…………」


 言葉では怒っている様に聞こえるが、目に微かな涙を溜め、カロリーナは穏やかな笑みで涙を堪えていた。



いかがでしたでしょうか?

今回の話は以前から漠然と考えていたのものです。


当初はここまでのボリュームになるとは思っておらず、

書いていたらいつの間にかいつもの話の三倍近くに

なってしまいました^^;

数話に分けようとも思いましたが、

せっかくなので一話にまとめました。

楽しんでいただけると嬉しいです。


さて、今後の予定は前話でお伝えした通りです。

ただ流れが出来ているだけで、細かなところが出来ていません。

一応年始で考えていきますが、それでも多少時間がかかります。

最低でも1月半ばに更新をしていきたいと思います。

それまで少しだけお待ちください。


今年も「格闘家な紋章術士」をよろしくお願いいたします<(_ _)>

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