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格闘家な紋章術士  作者: 愉快な魔法使い
第五章「魔女の試練」編
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第百一話「特訓」


「…………ん、んん?」


 暖かな感触を全身に感じながら、ミズハは意識を取り戻した。


 起きた瞬間は自分が何処にいるのか分からなかったが、しばらくして自分がベッドに寝ていることに気付く。


「起きたようだね」


 意識がはっきりしたところに声が掛かる。声のする方に視線を向けると、温かい飲み物の入ったコップを持ったカロリーナの姿があった。


「……負けた、のか」


「ああ、あんた達はまだまだ未熟だってことさ」


 差し出されたコップを受け取りながら、先ほどの模擬戦を思い出していた。


 ミズハの攻撃は全く当たる気配がしなかった。能力まで全開にして、自身の全力で戦ったが、カロリーナに遊ばれている様なものだった。


「達ってことは、ブレアもか?」


「ああ。ブレアは先に特訓を始めているよ」


「特訓?」


「負けっぱなしは嫌だろう? だから私が課題を与えて、それをこなしているのさ。ミズハ、あんたはどうする?」


 模擬戦が終わった後、カロリーナはブレアに特訓を提案した。

 二人の実力は決して低くはない。冒険者としてそれなりの実力を備えている。


 だが、これからはそれなりでは駄目なのだ。これまでとは違い、高い知能を持った魔族との戦いが待っている。


 二人は強くならなければならない。


「勿論、私にもお願いする」


「なら、早速特訓開始だ」


 そう言って、カロリーナはミズハに向けて紋章術を発動させた。紋章術が手首足首に発動し、ミズハは手首と足首に重力を感じる。


「手首と足首に負荷を掛けた。それで日常も過ごしてみな」


 ベッドから立つと余計に重力を感じる。腕を上げるのに力を入れないと上がらない。歩くのにも足が重くていつも通りに動けない。


 この状態でいつも通りに動ければ、相当パワーアップ出来るだろう。


「よし、まずは外でも走ってきな」


「…………この状態で?」


「勿論。時間は待っちゃくれないよ」


 カロリーナは動きの鈍いミズハを強引に外へと放り出した。






 ミズハより先に特訓を始めていたブレアは、外で延々と紋章を展開し、解除することを繰り返していた。


 ブレアの紋章の展開速度は紋章術師の中でも早い方だが、それでもカロリーナに言わせればまだまだ早くなる余地がある。


 展開している紋章は下位だが、展開するごとに属性を変えることで難易度が増す。


「はあ、はあ…………」


 属性を次々変えることで毎回一から紋章を組み上げる。地味な作業だが、これに慣れていけば咄嗟の紋章展開もスムーズに行える。


 精神的な疲れを感じるが、それでも訓練を止めることはしない。


 強くならなければならない。仲間の為にも。






 カロリーナに課題を言い渡されたミズハは、森の中を走っていた。しかし、手足に紋章術が施されている為、いつも通りのスピードは出ない。そのスピードはそこらにいる動物よりも遅い。


 全身に力を入れ、一歩一歩意識しながら進んでいく。


 能力を使用して身体強化をすることはできるが、カロリーナから使用は禁止されている。自身の身体を強化させなければ成長は見込めない。


 重たい身体を引き摺りながら二時間走り続け、ミズハは小屋へと戻ってきた。


「ふう…………」


 今すぐにも倒れ込みたいところだが、カロリーナからの課題はまだ終わっていない。これから筋トレと素振りが待っている。


 息を整え、筋トレを開始する。腕立て、腹筋、スクワットとゆっくりだが順調に行う。


「1、2、3…………」


 筋トレが終了したら、カロリーナから渡された刀を振る。その刀の重さは30kg近くあり、持ち上げるのも一苦労だ。さすがにこれは持ちあがるまで能力の使用を許可されている。慣れてきたら少しずつ重くしていく予定だ。


 これだけの無茶をすれば、身体を壊してしまうかもしれない。下手をすれば、冒険者としてやっていけないほどの怪我をするかもしれない。

 特訓とはいえ、ここまで無茶するものではない。


 それでもミズハはやると決めた。リディア共和国での悲劇を繰り返さない為に。






『ガツガツガツ!!』


 特訓を終え、ミズハとブレアはカロリーナの用意した夕食を勢いよく貪っていた。修行の大変さに二人のお腹は限界を迎えており、話をすることなく食べ続ける。そんな二人にカロリーナは苦笑を洩らす。


「そのままでいいから、少し話を聞きな」


 二人の正面に座ったカロリーナは真剣な表情で二人に話しかけた。


「まもなく薬が完成する」


『ッ!? ゲホ、ゲホ!!』


 カロリーナの言葉を聞いた二人は食事をする手を止め、動揺して同じようにむせた。カロリーナは二人に水を差し出し、落ち着いた二人は食い気味に身を乗り出してきた。


「それじゃあ!!」


「ああ、準備が揃い次第リディア共和国へ出発するよ」


 遂にスレッドを治療するための薬が完成した。二人は手を取り合って喜んだ。


「喜ぶのはまだ早いよ」


 喜んでいる二人に対して、カロリーナは冷静だった。


「確かに薬は完成した。だけどね、これで確実に治る保証はない。それに数か月氷に封印されているのがどういう影響を与えているか分からない。覚悟しておきな」


「…………ああ」


「分かった」


 スレッドが助かるかどうか、三人には分からない。神のみぞ知る、である。


「準備が整うまでは特訓を続けるからね。しっかり食べて体力を戻しておきな」


 スレッドとの再会に向け、ミズハとブレアは強くなることを決意し、明日からの訓練に向けて食事を再開した。体力をつけなければ、カロリーナの特訓にはついていけないのだ。


 二人は無理をしてでも食べ続けた。



おそらく次か、その次にスレッドが復活します。


追記

ご指摘があり、本編の刀の重さを変更しました。

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