♯01 寝不足
「じゃあ今日はここまで。」
「起立。」
あたしは授業終了の号令にとびおきた。
ノートには寝ている間に自分でひいたであろう薄い線が何本ものこっていた。
「礼!」
「あざーしたぁー…」
なんとかみんなの礼には合わせることができたが、担任はあきれたように私を見ながら教室を出ていった。
まぁしかたないか。
50分間の数学の時間に40分以上寝ている生徒がいれば普通なら怒鳴るところだろう。英語の柴田先生なら間違いなく放課後呼び出しだ。
でもうちのクラスの担任はそんなことはしない。やりたい奴には教える、やりたくない奴は寝ていろ。そういうタイプだから。
「ユキ? あんた寝すぎだから。中間テストの初日数学だよー。」
『マジで… あたしなんもやってない。きのう全然眠れなくてさ。レイナのノートみせてくんない?』
「いいけど。大丈夫? 顔色悪いよ?保健室いく?」
『大丈夫。ただの寝不足だよ。』
「寝不足か・・ まぁ あんなの見ちゃったら仕方ないか…」
〝あんなの〟ってのは昨日目にしたイジメの光景。
昨日の放課後、部活の終わったあたしと麗奈は体育館の前の道を通って下校するところだった。
お腹すいたから近所のコンビニによって帰ろうよ。なんて話してた。
そんな私達の耳に入ったのは… クラスメイトのすすり泣く一人の声。それから酷く罵倒する、同じくクラスメイト四人の声だった。
私達は声のする体育館の裏にまわり、植木の隙間から五人を見た。
いじめられていたのはテニス部の芽衣子だった。髪を切られ、頬にはあざがあった。
芽衣子は端正な顔立ちに長い砂色の髪で、誰からも好かれるような優しいこだった。
ただ、好かれるといっても一部をのぞいてだ。
入学早々男子にも人気がありクラスでも目立つ存在だった芽衣子はそんな奴らの標的になった。
彼女をいじめていたのはクラスの不良グループ。
絵里香、美紀、加奈、杏奈。
どこにでも平気で他人を傷つける連中がいる。この四人はそんな奴らだ。
彼女達は学校ではやさしく明るく振舞っているが、男子がいない時の四人の会話は他人の誹謗中傷やひどく卑猥な話など、聞くに絶えない内容ばかりだ。それにあたしは四人が繁華街の如何わしい店に入っていくのをみたことがある。絵里香がヤバそうな男とつるんでいると話はクラスの女子達の間でも有名だったし、美紀に至っては援助交際をしているなんて噂もあるくらいだ。
あたし達は何もいえず立ちつくしていた。
四人は芽衣子を連れたまま校門を出て、大柄な男の運転する車に乗って何処かへいってしまった。
芽衣子は今日学校に来ていない。
To be continued