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薄紫  作者: 久田ふえ
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3月30日 今ちゃんが死んだ日

小学4年生の女の子の手が短いことを知った。

もっと長い腕と、もっと力が強い体が欲しいと思った。


後ろから今ちゃんを抱えるように、その短い腕で必死に抱きしめるように腕を回した。

今ちゃんの命がもうすぐ終わることが、確かな感覚として伝わってきたから。


「今ちゃん…!」


つないでいた手を離して、後ろに回り込んで、倒れそうになる今ちゃんの体を支えたとき、今ちゃんは左手で、私の左手をぎゅっと握った。死ぬことが怖いからじゃない。大丈夫だお前は心配するなと言う代わりに。


ありがとうと、よくやったと、私に対するすべての感情がそこに込められていた。


今ちゃんが、私が誰なのかわかっているということを、このときにようやく知った。ふるえるくらいに強く強く、私の小さな左手を、大きなしわしわの手で包んで、ぎゅっと力をこめて、すべてそこから伝わってきた。それが本当に、今ちゃんの最後の力だった。


カメラのフラッシュが光ったあと、今ちゃんの体からがくっと力が抜けて重くなった。

周りは一瞬気づかなかった。今ちゃんの魂が体を離れたその瞬間は一瞬のことだったが、私はその瞬間に備えることができた。最後まで良い格好をする男だから、今ちゃんは最後の記念撮影までをやりきって、そして人生を終えるのだとわかっていた。


あの一瞬のフラッシュが、消えた瞬間、今ちゃんの魂は体を離れた。


私は、今ちゃんを後ろから支えたあたりから泣いていた。本当の私だったらこんなふうに泣いたりしないが、子どもというのは本当によく泣くものらしく、涙は勝手に流れて、私はずっとしゃくりあげていた。


それでも全身の力を込めて、今ちゃんを後ろから抱きしめるようにして、立っていた。力尽きて今ちゃんの尻を地面につけて、私自身も尻餅をついたとき、周りの男たちは初めて、今ちゃんの様子に気づいた。


そこからは急に慌ただしくなり、泣きじゃくる私の存在を気に留める人間はいなかった。


この日、今枝耕吉は死んだ。

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