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【推理〔文芸〕21位】霧都ヴァル・ロンドリア探偵事件簿ー怪物に戸籍のある街で  作者: 虫松
魔女裁判

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第3話 誘拐のトリック

シュトレゴイカバール。


「魔女の村」と呼ばれる谷は、昼でも薄暗い。


霧が常に地面を這い、

もみの木の森が空を隠している。


村の中央。


古い教会。


その鐘楼が霧の中に突き刺さっていた。


――ゴォォォン


鐘の音が谷に響く。


重い。

低い。


どこか不快な響きだった。


その音を聞きながら、

アレクシスはゆっくり言った。


「……妙だな」


オズワルドが振り向く。


「何がです、師匠」


三人は村を歩いていた。


アレクシス。ミレイア。

そして弟子のオズワルド。


村長から聞いた話。

怪人女性が消える。


しかも。


全員、夜に失踪する。


アレクシスは言った。


「オズワルド」


「聞き込みの結果は」


オズワルドはノートを開いた。


「共通点があります」


指でページを叩く。


「失踪した女性」


「全員この地区」


彼は地図を見せた。


教会の周囲。


半径数百メートル。


「しかも」


「消えた時間もほぼ同じ」


ミレイアが言う。


「教会の鐘」


三人は同時に鐘楼を見た。


霧の中の塔。


アレクシスは小さく頷く。


「そうだ」


「鐘だ」


オズワルドが首をかしげる。


「でも鐘なんて」


「ただ鳴るだけじゃ」


ミレイアが静かに言う。


「……違う」


彼女は目を閉じた。


風を感じるように。


「音が」

「変」


アレクシスが見る。


「どういう意味だ」


ミレイアはゆっくり言った。


「普通の鐘の音じゃない」


「魔導波が混ざってる」


オズワルドが驚く。


「魔導?」


ミレイアは頷く。


「精神干渉型」


「意識を鈍らせる音」


オズワルドが息を呑む。


「つまり」


「眠くなる?」


アレクシスが言った。


「いや」


「もっと悪い」


鐘を見上げる。


「意識をぼやかす」


「判断力を奪う」


「抵抗力を下げる」


ミレイアが言う。


「だから」


「誘拐できる」


オズワルドが言う。


「でも」


「村全部に聞こえるだろ」


アレクシスは森の奥を見る。


霧の向こう。


丘の上。


そこに立っている。


黒い石碑。


高さ五メートル。


八角形の黒い石。


村の呪われた象徴。


アレクシスは小さく呟いた。


「なるほど」


オズワルドが聞く。


「師匠?」


アレクシスは言った。


「増幅器だ」


「鐘の音を」


「谷全体に広げる」


ミレイアが頷く。


「黒い石碑」


「共鳴してる」


オズワルドが驚く。


「じゃあ」


「村全体が」


アレクシスは言った。


「巨大な魔導装置だ」


沈黙。


霧が流れる。


そのとき。


オズワルドが言った。


「でも」


「誰がこんな装置を」


アレクシスは少し考えた。


そして。


小さく言う。


「一人だけいる」


ミレイアが言う。


「ドクター……ハロルド」


アレクシスは頷いた。


「魔導音波」


「精神干渉」


「社会心理実験」


彼は言った。


「全部あの男の専門だ」


オズワルドが顔をしかめる。


「また、あいつですか」


アレクシスは静かに言う。


「まだ確証はない」


「だが」


鐘の音がまた響いた。


――ゴォォォン


その瞬間。


ミレイアの顔が変わった。


「……来る」


オズワルドが驚く。


「何が?」


森の奥。

霧の向こう。

人影が動く。


数人の黒い影。

フードを被った男たち。


その肩には。


一人の女性が担がれていた。


猫耳の怪人女性。


意識がない。


オズワルドが叫ぶ。


「誘拐だ!」


アレクシスの目が鋭くなる。


「追うぞ」


三人は森へ走った。


霧の奥。


黒い石碑の方向へ。



シュトレゴイカバール。


魔女の村。

その地下で。

古代の魔女裁判が再び始まろうとしていた。

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