第6話 現場検証とアリバイ確認
ロウニン事務所。
執務室前の廊下。
黄色い規制線。
警官たちが慌ただしく動く。
そこへ
重い足音。
コツ。
コツ。
現れたのはガルム警部補。
灰色の毛並み。
鋭い目。
狼の獣人。
刑事コートの襟を立て低く鼻を鳴らす。
くん。
くん。
ガルム
「……血の匂い」
静かに言う。
「人狼だ」
部屋へ入る。
床に倒れている
ロウニン。
胸に突き刺さる
銀のナイフ。
ガルムの眉がわずかに動く。
「銀か」
人狼の警官に指示する。
「素手で触るな」
「袋を使え」
「人狼には毒だ」
人狼警官
「はい!」
ガルムは部屋を見回す。
ドア。
窓。
床。
机。
その時。
部屋の壁際に立つ男。
黒いコート。
静かな目。
アレクシス。
ガルムは一瞬だけ目を細める。
ガルム警部補
「……来ていたか」
アレクシス
「あなたに呼ばれていないがな」
短い沈黙。
ガルムは頷く。
長い付き合いの空気。
警官が説明する。
「ドアは内側施錠」
「窓は閉鎖」
「侵入形跡なし」
ガルムは窓を確認する。
カチャ。
鍵は閉まっている。
ガルム
「警備は?」
前に出る男。
グレゴール。
人狼の警備責任者。
直立姿勢。
グレゴール
「このフロアは私が警備」
「不審者はいない」
ガルムは鼻を鳴らす。
くん。
「軍人だな」
グレゴール
「元軍人です」
ガルム警部補
「なるほど」
警官が三人を集める。
ロウニン事務所。
応接室。
長机の上に
事件資料が並ぶ。
ガルム警部補は腕を組み
壁際に立つ。
アレクシスは椅子に座り
静かに資料を見ている。
その隣にはミレイア。
人の感情を読み取る力を持つ。
静かに周囲を見ている。
ガルム警部補が低く言う。
「白亜党の関係者のアリバイを整理する」
警官が読み上げる。
■①バルク議員
白亜党急進派のリーダー。
怪人排除を公言する強硬派。
警官
「犯行推定時刻は午後八時前後」
「その時間」
「バルク議員は白亜党本部の党会議に出席」
会議室には
党幹部
議員
秘書
十数人。
複数証言あり。
ガルム
「アリバイは固いな」
■②エリザ・クレイド
白亜党広報責任者。
警官
「犯行時刻」
「クレイド氏は演説原稿の最終調整」
党本部の広報室。
スタッフ三名が同席。
原稿の修正記録も残る。
ガルム警部補
「こちらも難しい」
アレクシスは黙って聞く。
■③モルガン神父
怪人排斥を説く宗教指導者。
警官
「モルガン神父は」
「聖ルミナ教会で夜の祈祷会」
信徒二十名以上。
祈りの儀式。
時間は
午後七時半〜九時。
ガルム
「抜け出すのは無理だな」
■④ダルゴ・マーシャル
白亜党の資金提供者。
大実業家。
警官
「ダルゴ氏はホテルの晩餐会」
市の経済人たちとの会食。
場所は
グランドクラウンホテル。
来賓多数。
会場記録あり。
ガルム
「政治家の宴会か」
■⑤ドクター・ハロルド
白亜党政策顧問。
思想家・科学者。
警官が少し声を落とす。
「ハロルド博士は」
「大学研究室で講義」
テーマ
『人類文明と進化論』
学生三十名。
講義記録あり。
終了は
午後八時三十分。
ガルムは低く言う。
「……なるほど」
警官
「つまり」
「白亜党幹部も」
「全員アリバイがあります」
応接室が静かになる。
ガルム警部補は腕を組む。
低く言う。
「全員無理か」
その時。
ミレイアが小さく呟く。
「……変」
アレクシスが視線を向ける。
「何が」
ミレイア
「ロウニンの死」
「怒りが残ってる」
静かな声。
「すごく強い」
アレクシス
「誰の?」
ミレイアはゆっくり指を向ける。
サイファーの尻尾が
ゆらりと揺れる。
ミレイア
「この子」
「怒ってる」
「悲しい」
「でも」
「決めた人の感情」
ガルムの目が鋭くなる。
アレクシスは静かに言う。
「つまり」
資料を閉じる。
「外の連中は」
「完璧なアリバイ」
ガルム
「なら?」
アレクシスは
マーサとサイファーを見る。
「答えは」
「ここにある」
霧の街。
政治殺人。
そして
密室の真実はすぐそこまで来ていた。




