第8話 消えた容疑者とハロルドの正体
夜。
ヴァル・オペラ劇場。
舞台の上。
大演説の前にアレクシスがチェス盤を置く。
♕ クイーン
♖ ルーク
♞ ナイト
■ ボーン
✚ ビジョップ
並べられる駒たち。
劇団員、関係者、警察。
全員が呼び集められている。
オズワルド
「全員揃いましたか」
ヴィクトル・ハイド(劇団マネジャー)
「……いや」
周囲を見回す。
「一人いない」
ミレイア
「……」
アレクシス
「誰だ」
ヴィクトル・ハイド
「作曲家のルシアン・ヴァレンティです」
静寂。
オズワルド
「呼び出しには応じているはずでは?」
ヴィクトル・ハイド
「連絡は届いています」
ミレイア
目を閉じる。
そしてゆっくり言う。
「……嫌な感じがします。」
アレクシス
「逢いに行こう」
ルシアンの家へ。
夜の街。
街灯。
星霧探偵団が乗った、馬車が止まる。
オズワルド
「家の灯りがついてません」
ミレイア
「……」
アレクシス
視線を落とす。
道路。
何かがある。
オズワルド
「……」
ミレイア
「!」
街灯の下。
血だまり。
そして。
倒れている男。
オズワルド
「ルシアン……!」
アレクシス
膝をつく。
車輪の跡。
砕けた眼鏡。
アレクシス
「馬車の車輪だ。」
ミレイア
「……引き殺されている」
オズワルド
「事故?」
アレクシス
「いや」
首を振る。
「うつ伏せだ。背中を引かれているな。
後方へと逃げている。全速の馬車で引き逃げだな。」
ミレイア
「……」
オズワルド
「誰が」
沈黙。
二つの可能性。
ミレイア
「吸血鬼排斥組織」
オズワルド
「それとも」
アレクシス
「ドクター・ハロルド」
その時。
向こうの通りから
コツ
コツ
コツ
足音。
街灯の光の中に
一人の男が現れる。
白衣。
穏やかな笑み。
ドクターハロルド。
吸血鬼排斥組織のリーダー
であることは、誰も知らない。
ハロルドは倒れたルシアンを見る。
そして跪いて手腕の脈と息をしているか鼻のあたりを確認をする。
「死んでるな。」
そして静かに言う。
「……見事だ」
顔を上げる。
「アレクシス・グレイヴン」
オズワルド
「……」
ミレイア
「……」
ハロルド
「舞台装置の椅子のトリックを」
「見抜くとは」
「実に見事だ」
静かに立ち上がる。
アレクシス
「あなたが」
「舞台装置を設計した」
ハロルド
肩をすくめる。
「私は科学者だ」
「舞台血液装置の改良」
「圧力弁」
「噴射装置」
「機構の設計」
微笑む。
「だが」
「使い方までは責任を持たない」
オズワルド
「……」
ミレイア
「人が死んでるのに」
ハロルドはルシアンを見る。
そして
淡々と言う。
「革命が成功するまでは」
「いくつもの犠牲が必要だ」
「科学も同じだ、実験と失敗と再現の繰り返しだよ。」
静かな声。
沈黙。
アレクシス
「ルシアンは」
「あなたの仲間だったはずだ」
ハロルド
「優秀な駒だった」
オズワルド
「駒……」
ハロルド
チェス盤を見るように
ルシアンの死体を見下ろす。
「だが」
「役立たずだった。」
ミレイア
「……」
アレクシス
ハロルドを見つめる。
「あなたが殺したのか」
ハロルド
答えない。
ただ微笑む。
そして言う。
「この結末は」
「実に興味深い」
一歩近づく。
「ルシアンの結末」
「これは」
アレクシスの目を見て言う。
「君と僕が」
「同じ結論に至ったということだ」
静寂。
風が吹く。
ハロルドは続ける。
「彼は」
「捕まれば」
「すべて話しただろう」
「だから」
「盤面から消えた」
微笑む。
「自然なことだ」
オズワルド
「……あなたが消した!」
ハロルド
「証拠はあるかね?」
沈黙。
ハロルド
くるりと背を向ける。
「だが」
歩きながら言う。
「君は実に興味深い」
振り返る。
街灯の下。
その笑顔は冷たい。
「アレクシス・グレイヴン」
「次のゲームが」
「楽しみだ」
ハロルドは闇へ消える。
残るのは
石畳に倒れ
ひき逃げされた作曲家ルシアンの死体。
ミレイア
「……」
オズワルド
「逃げられました」
アレクシスは、そして小さく言う。
「盤面は」
「勝負は、まだ終わっていない」
遠くで
パトカーのサイレンが鳴り始めていた。
『吸血鬼歌劇場連続殺人』事件 終幕
つづく




