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【推理〔文芸〕21位】霧都ヴァル・ロンドリア探偵事件簿ー怪物に戸籍のある街で  作者: 虫松
吸血鬼歌劇場連続殺人

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第5話 舞台の演出血液

ヴァル・オペラ劇場。

誰もいない舞台。


巨大な舞台機構が沈黙している。


回転舞台。

王座昇降機。

霧発生装置。


そして


血液噴射装置。


舞台裏で装置を調べているのは

星霧探偵事務所。


オズワルドが装置の下に潜り込んでいる。


オズワルド

「うわぁ……すごい機械だ」


金属の配管が迷路のように走っている。


圧力ポンプ。

調整バルブ。

分岐パイプ。


オズワルド

「これ全部、舞台の血しぶき用なんですか?」


ヘンリー技師が説明していた内容を思い出す。


舞台で剣が刺さる演出。

胸から血が吹き出す演出。


すべてこの装置が行う。


その時。


オズワルド

「……あれ?」


一本のパイプに気づく。


舞台方向ではない。


客席方向へ伸びている。


オズワルド

「アレクシス師匠!」


舞台図面を眺めていたアレクシスが振り向く。


オズワルド

「師匠ここを見てください。変な配管があります!」


アレクシスが装置を見る。


そして


図面を見る。


視線が止まる。


アレクシス

「……」


パイプの分岐。


舞台→ 血液噴射


しかし


もう一本


客席へ。


ほんのわずかな変更。


アレクシス

「なるほど」


ミレイア

「何かわかったんですか?」


アレクシス

「これは舞台装置ではない」


静かに言う。


「暗殺装置だ」


オズワルド

「え?」


アレクシスは図面を広げる。


血液タンク

圧力ポンプ

分岐パイプ


一本は舞台。


もう一本は


客席のある座席の下へ。


アレクシス

「この劇場の血液は人工血液だ」


ミレイア

「はい」


アレクシス

「舞台では毎回使われている」


オズワルド

「そうですね」


アレクシス

「だが今回は違う」


静かに言う。


「人工血液に毒が混入されていた」


オズワルド

「!」


ミレイア

「毒入り……」


アレクシスは客席の床を指す。


小さな噴射口。


アレクシス

「血液はポンプで客席へ送られる」


「しかし」


「それだけでは殺せない」


ハロルド

「その通りだ」


後ろから声。


振り向くと

ガルム警部補とドクター・ハロルド。


ハロルド

「血が飛んだだけでは」


「毒は体内に入らない」


オズワルド

「じゃあ……どうやって」


アレクシスは椅子を見る。


ソフィアが座っていた席。


アレクシス

「ここだ」


座面を調べる。


指先が止まる。


小さな穴。


オズワルド

「穴?」


アレクシス

「極小の針穴だ」


ハロルドの目が鋭くなる。


アレクシス

「この椅子には」


「注射針の機構が仕込まれていた」


ミレイア

「……!」


アレクシス

「舞台の演出」


「血が噴き出す瞬間」


「ポンプが作動する」


アレクシスは配管を指す。


血液ポンプ

分岐

客席の椅子


アレクシス

「ポンプ圧力で」


「椅子の装置が動く」


座面の内部。


バネ機構。


細い針。


アレクシス

「座っている人物の」


「臀部に針が刺さる」


オズワルド

「……!」


ミレイア

「傷は小さい」


アレクシス

「観客は舞台を見ている」


「誰も気づかない」


ハロルドが小さく笑う。


ハロルド

「なるほど」


アレクシス

「そして」


「針は」


「人間だけが死ぬ毒入り人工血液を注入する」


オズワルド

「だから……」


「カーペンターとモーリスとソフィアが死んだ」


アレクシス

「そう」


アレクシスは舞台を見る。


赤い幕。


巨大な劇場。


アレクシス

「犯人は」


「舞台装置を改造し」


「血液に毒を混入させ」


「椅子の注射機構を作った」


ハロルド

「実に精密だ」


ガルム警部補

「つまり」


「この劇場は」


アレクシスが言う。


「巨大な人間殺害用の毒の血液の注射器だった」


静寂。


オズワルド

「そんなトリック……」


アレクシス


ゆっくり言う。


「できます」


舞台を見上げる。


「ここは」


「劇場だからです」


赤い幕が揺れる。


機械の劇場。


舞台。

客席。

配管。

音楽。


そのすべてが

一つの殺人装置だった。


そして


まだ残っている。


最も美しい仕掛け。

犯人の動機。

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