第3話 観客席の死体
ヴァル・オペラ劇場の観客席。
舞台では悲劇オペラが上演され、霧発生装置が淡く白い煙を流している。
豪華なシャンデリア。
観客は皆、舞台に見入っていた。
しかし
上演の第二幕が終わったとき、
観客席の中央で一人の男が倒れているのが見つかった。
新聞記者である人間のモリース
顔は青白く、口から血を吐いている。
検死結果。
毒殺。
しかも、奇妙なことに。
吸血鬼には無害で、人間だけが死ぬ毒
そして、
毒の正体が判明する、それは鉄分に反応する毒。
人間の血液は鉄で酸素を運ぶ。
しかし吸血鬼は違う。
吸血鬼の血液は魔力代謝型で鉄に依存していない。
だから毒は人間だけ殺す。
ガルム警部補
「毒の正体が人間が明らかになった。人間だけを殺せる毒だった。」
その発表で、劇場は騒然となる。
容疑者 ヴァルド・ドラクロワ伯爵
劇場の最大スポンサー
吸血鬼。
人間を嫌っていることで有名。
貴族的で冷酷な性格。
当然、疑いが集中する。
天才科学者
ハロルド・ヴァン・エーデル
が先に口を開く。
「仮説だが、犯人は」
「ヴァルド伯爵ではないか。」
劇場がざわめく。
伯爵は微笑む。
「理由は?」
ハロルドは説明する。
「毒は吸血鬼だけ無害」
「つまり犯人は吸血鬼だ」
そして続ける。
観客席には
霧発生装置の煙が流れていた。
ハロルドは言う。
「毒は霧に混ぜられた」
つまり
劇場全体に毒が拡散した。
だがその毒では、吸血鬼は死なない。
「だから伯爵だけが安全だった」
そしてさらに。
「観客席中央で死んだ男」
彼は
伯爵の会社を批判していた新聞記者だった。
ハロルドは断言する。
「完全犯罪のつもりだったのだろう」
「だが人間にしか効かない毒の性質が犯人を示している」
「犯人は吸血鬼である伯爵だ」
劇場の空気が凍る。
伯爵は静かに笑う。
「幼稚な推理だ」
「だが」
「私は霧装置には触れていない」
そして市長も言う。
「確かに伯爵はずっとここにいた」
アリバイは崩れない。
事件の時間
伯爵は
貴賓席で市長と会話していた。
数十人が目撃している。
しかも伯爵自身も
観客席の毒を吸っているはずなのに
平然としている。
ハロルドが目を細める。
「ヴァルド伯爵が犯人ではない。劇場トリックか」
アレクシスは舞台を指差す。
「そう」
「この劇場最大の仕掛けだ」
アレクシスは言う。
「この事件」
「まだ終わっていない」
「本当の劇場トリックは」
舞台の下にある。
霧がゆっくり舞う。
観客席の奥で誰かが静かに笑っていた。




