第2話 舞台装置の死
霧都ヴァル・ロンドリア。
夜霧の中にそびえる吸血鬼の歌劇場。
ヴァル・オペラ劇場。
主演歌姫
ソフィア・ローゼンベルク毒殺事件。
その衝撃がまだ冷めない朝。
星霧探偵事務所の扉が勢いよく開いた。
入ってきたのは
ガルム警部補。
「グレイヴン氏。応援要請だ。」
「劇場に来てもらう」
オズワルドが振り向く。
「また何か?」
ガルムは短く言った。
「オベラ劇場にて、第二の死体だ」
ミレイアが目を伏せる。
数十分後。
星霧探偵社の全員、ヴァル・オペラ劇場にいた。
舞台裏は警察で騒然としている。
ガルム警部補が説明する。
「今朝発見された」
「舞台監督」
「カーペンター氏が死亡した。」
オズワルド
「舞台監督が?」
ガルムがうなずく。
「死因は前回と同じ毒だ」
ミレイアが言う。
「歌姫ときと同じ……」
ガルム警部補
「つまり連続殺人だ」
さらにガルム警部補は続ける。
「もう一つある」
「被害者はすべて人間だ」
「吸血鬼劇団員は無事」
オズワルドがつぶやく。
「人間だけ……」
アレクシスは舞台を見上げた。
舞台中央。
巨大な舞台装置。
《血の王女》の演出。
王座。
血の噴水。
赤い照明。
そして
複雑な機械仕掛け。
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ガルム警部補が指さす。
「カーペンターは」
「この装置の点検中に倒れていた」
オズワルド
「でも毒って」
「舞台装置でどうやるんです」
その時
後ろから声がした。
「装置は条件を満たせば」
「結果を再現する」
静かな声。
振り向くと
白衣の男が立っていた。
ドクター・ハロルド。
整った白衣。
眼鏡の奥の冷静な瞳。
ハロルドは舞台装置を見上げた。
「私はこの装置の設計者だ」
ガルムが言う。
「今回の舞台演出装置」
「すべてハロルド博士の設計だ」
ハロルドは淡々と説明する。
「王座昇降機」
「舞台回転機構」
「霧発生装置」
「血液噴射装置」
「すべて精密機械だ」
オズワルド
「……すごいですね」
ハロルド
「機械は人間と違って嘘をつかない」
そして
舞台装置の一部を指さす。
「もし霧発生装置に毒を混入すれば」
「吸入した人間は死ぬ」
ミレイア
「でもそれは」
「上演中に動く装置では?」
ガルム警部補が言う。
「そうだ」
「カーペンターが死んだのは朝だ」
ハロルドは静かに言う。
「ならば」
「別の条件が存在する」
アレクシスを見る。
「論理的には」
「そうなる」
アレクシスは舞台に上がる。
装置を観察する。
金属の歯車。
導管。
魔導管。
赤い照明。
ハロルドが言う。
「科学は」
「観察」
「仮説」
「実験」
「再現、その順序で進む」
そして
アレクシスを見た。
「君は」
「どこまで観察できた?」
アレクシスは舞台装置の導管を指さす。
「霧ではない」
ハロルドの眉がわずかに動く。
アレクシスは続ける。
「毒の経路は」
「別にある」
ハロルドの口元が
わずかに上がった。
「ほう」
「興味深い仮説だ」
二人の視線が交わる。
舞台の上。
巨大な装置の前。
まるで
実験室のようだった。
オズワルドは舞台を見上げる。
「この劇場、装置だらけですね」
ミレイアは静かに言う。
「ええ」
「まるで巨大な機械」
その時
遠くで警官の声が響いた。
「警部補!」
「観客席で!」
ガルムが振り向く。
「何だ」
警官が叫ぶ。
「人が倒れています!」
沈黙。
ガルムの顔が険しくなる。
「まさか……」
アレクシスが静かに言う。
「第二の死体だ」
舞台の上。
霧がゆっくり流れていた。
そして
ドクター・ハロルドは
まるで実験結果を観察する研究者のように
静かに舞台を見つめていた。
「興味深い」
ハロルドは小さくつぶやいた。
「実験は、まだ続いているらしい」
星霧探偵社による
霧都ヴァル・ロンドリア探偵事件簿
『吸血鬼歌劇場連続殺人』事件の幕が上がった。




