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霧都ヴァル・ロンドリア探偵事件簿ー怪物に戸籍のある街で  作者: 虫松
首吊る部屋

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第1話 亡霊の復讐

霧都ヴァル・ロンドリア。

怪物に戸籍がある街。


人狼は警官となり、吸血鬼は商人となり、悪魔は弁護士になる。


そして幽霊もまた、登録対象である。

だが“登録されていない霊”の噂が立つとき、

街は理性よりも恐怖を選ぶ。


その朝、新聞は霧よりも濃い見出しを躍らせた。


《亡霊の復讐か》

《名門霊術家、降霊実験中に怪死》



現場は霊術師アルバート・クロウリー

の邸宅。


名門王侯貴族も依頼する降霊の権威。

その彼が、自室で首を吊って発見された。


梁から垂れる縄。

転倒した椅子。

足先は床から数寸浮き。


扉は内側から施錠。

窓は封印結界。

完全な密室。


そして

部屋には強い“霊障反応”。



星霧探偵社の応接室。


水晶通信機が淡く光る。


映し出されたのは、狼貌の男


ガルム警部補。


「グレイヴン氏、現場に来てほしい」


低く、しかし理性的な声。


「形式上は自殺だ」


「だが?」


「……気に入らない」


アレクシスは立ち上がった。


黒い外套を羽織りながら、淡々と言う。


「幽霊か」


「新聞はそう騒いでいる」


通信が切れる。


ミレイアは小さく息を吸った。


「霊術師が、自室で首吊り……」


彼女の指先が震える。


霧の街では、死体は珍しくない。


だが。


“霊障反応”という言葉が、胸の奥をざわつかせる。


現場。


石造りの邸宅の前には、野次馬と記者が群がっていた。


「亡霊が出たらしいぞ」


「自分で呼び出した霊に殺されたんだ」


「だから霊術なんて」


偏見は、霧よりも早く広がる。


屋内。


縄はまだ梁から垂れている。


部屋の空気は重く、ひやりと湿っている。


ミレイアが一歩足を踏み入れた瞬間、立ち止まった。


「……」


ガルム警部補が振り返る。


「どうした」


彼女は目を閉じる。


この能力は、彼女の秘密。


共感型魔導感応体質。


怪物の“本音”を感じ取る力。


だが今、流れ込んでくるのは


冷たい、強い感情。


未練。


恐怖。


そして、言葉にならない“否定”。


アレクシスは静かに死体を見上げる。


首にかかった縄。


足元の椅子。


机の上の遺書。


壁に浮かび上がる、淡い“怨”の文字。


ガルム警部補が報告する。


「扉は内側から鍵。破壊なし。

 窓は封印結界。侵入痕なし」


「霊障反応は?」


「強い。だが霊術師の部屋だ。常在反応とも言える」


沈黙。


アレクシスは死体の足元にしゃがみ込む。


床の埃を指でなぞる。


視線は、首の縄へ。


そして低く言う。


「幽霊は犯人ではない」


部屋の空気がぴたりと止まる。


ガルム警部補の瞳が細くなる。


「なぜそう言い切れる」


アレクシスは死体の首元を見つめたまま答える。

「幽霊は縄を結ばない」


ミレイアは静かに呟いた。


「……でもこの部屋、強い未練があります」


彼女の瞳は震えている。


「亡くなった方の……声が、否定している」


これは違うと。


霧都ヴァル・ロンドリア。


怪物に戸籍がある街で。


今度は幽霊が霊媒師を殺したと

騒がれている。


だが


死体は語る。

そして、現場は嘘をつく。


星霧探偵事務所による、

霧都ヴァル・ロンドリア探偵事件簿

『首吊る部屋』事件が幕を開ける。


静かな密室が、論理によって解体される。

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