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【推理〔文芸〕21位】霧都ヴァル・ロンドリア探偵事件簿ー怪物に戸籍のある街で  作者: 虫松
なき猫

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第9話 ライバル誕生

霧都ヴァル・ロンドリア警察署。


夜はまだ深い。


石造りの建物の中、ランプの灯りが廊下を

照らしていた。


次の朝


研究員クロフトは両腕を掴まれ、警察官に連行されていた。


前を歩くのは

ガルム警部補。


背の高い狼獣人の警官で、霧都の事件を多く扱ってきた人物だ。


クロフトは必死に叫ぶ。


「私は悪くない!」

「私は命令に従っただけだ!」


ガルム警部補が振り向く。


鋭い目。


「命令?何のことだ」


クロフトは叫んだ。


「ドクター・ハロルドだ!」

「すべてはあの人の研究だ!」

「私は助手だ!」

「命令通り実験しただけだ!」


オズワルドが思わず言う。


「やっぱり黒幕じゃないですか!」


ミレイアは何も言わない。


ただ静かに廊下の奥を見ている。


そのときだった。

廊下の奥から

ゆっくりと歩いてくる人物。


白衣。

落ち着いた表情。

眼鏡の奥の知的な瞳。


ドクター・ハロルド。


まるで散歩でもしているかのように、穏やかな足取りだった。


クロフトが叫ぶ。


「ハロルド先生!」

「先生言ってください!」

「これはあなたの研究だ!」


ハロルドは一瞬だけクロフトを見た。

そして淡々と言う。


「残念だよ」

「クロフトくん」


静かな声。


「私の助手の研究員が」

「勝手に行った実験だ」


クロフトの顔が凍る。


「な……」


ガルム警部補が腕を組む。


「研究棟の地下は火災でほぼ焼失した」


低い声。


「証拠はほとんど残っていない」


警官の一人が言う。


「猫の檻や虐待装置は」


「クロフトが購入、設置した形跡がある」


ガルム警部補はハロルドを見る。


「そして」

「その情報を警察に通報したのは」


少し間を置く。


「ドクター・ハロルド本人だ」


クロフトが絶叫する。


「裏切ったのか!?」


ハロルドは感情のない顔で答える。


「私は研究者だ」

「犯罪者ではない」


クロフトは連行されていった。


廊下に静寂が落ちる。

ハロルドがゆっくり歩く。


そして


アレクシスの前で止まった。


二人の天才。

視線が交わる。

ハロルドが微笑んだ。


「見事な推理だ」

「アレクシス・グレイヴン」


オズワルドが小声で言う。


「名前知ってる……」


ハロルドは続ける。


「都市規模の音響実験」

「よく見抜いた」

「君は実に興味深い」


アレクシスは冷たく言う。


「黒猫を実験に使うのが研究か」


ハロルドの表情は変わらない。


「真理には」

「犠牲が必要だ」


沈黙。


ミレイアの胸に

冷たい感情が流れ込む。


この男には

罪悪感がない。

ただ知的好奇心だけ。


ハロルドはゆっくり言った。


「アレクシス・グレイヴン」

「君は」

「素晴らしい頭脳だ」


少し目を細める。


「いつか」

「私の研究の」

「障害になる」


そして微笑んだ。


それは

宣戦布告の笑みだった。


「その時は」

「全力で排除しよう」


静かな声。

しかしそこには

恐ろしい確信があった。


ハロルドは背を向ける。


白衣が廊下の奥へ消えていく。


オズワルドが顔をしかめる。


「……嫌な人ですね」


ミレイアが小さく言う。


「危険な人です」


アレクシスはしばらく黙っていた。

そして静かに言った。


「いや」


二人が振り向く。

アレクシスの目は

少しだけ楽しそうだった。


「素晴らしい裏切り逆転劇だ。」


霧都ヴァル・ロンドリア。

霧に包まれた街。


こうして

名探偵アレクシス・グレイヴンには

一人の宿敵が現れた。


ドクター・ハロルド。


二人の天才。

天才探偵と天才科学者。


この夜から


霧都の歴史に残る

長い知能戦が

始まったのである。


『なき猫』事件  終幕


つづく

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