第1話 弟子は交渉の達人
霧都ヴァル・ロンドリア
霧の朝。
星霧探偵事務所の窓から
灰色の街が見えていた。
机の上には書類の山。
アレクシスは椅子に座り、静かに紅茶を飲んでいる。
その静寂を破ったのは
ドアが勢いよく開く音だった。
「おはようございます!」
オズワルドが元気よく入ってくる。
手には紙袋。
「朝食のパン買ってきました!」
アレクシスは新聞から目を上げる。
「……君は」
「なぜ毎朝いる」
オズワルドは笑顔で答える。
「弟子ですから!」
アレクシス
「正式に認めた覚えはない」
オズワルド
「でも追い出されてもいません!」
「つまり半分認めてます!」
アレクシス
「論理が破綻いや雑すぎる」
ソファに座っていたミレイアが微笑む。
「でも助かってますよ」
「掃除もしてくれますし」
オズワルドは胸を張る。
「洗濯もできます!」
「聞き込みも任せてください!」
アレクシスはため息をつく。
「……君は探偵ではない」
オズワルド
「弟子です!」
アレクシス
「まだ違う」
そのとき。
机の上の封筒をミレイアが手に取る。
「新しい依頼ですね」
オズワルドが身を乗り出す。
「事件ですか?」
ミレイアは紙を読む。
「猫が消える事件」
オズワルド
「猫?」
アレクシスは紅茶を置く。
「くだらない野良猫かなんかだろう」
「私は忙しい」
オズワルドが拳を握る。
「じゃあ僕が調べます!」
アレクシス
「勝手にするな」
オズワルド
「弟子ですから!師匠が忙しいなら
弟子の出番です。」
アレクシスは静かに言う。
「……まだ弟子ではない」
オズワルドはにやっと笑う。
「なら」
「事件解決したら」
「弟子ってことでいいですよね?」
沈黙。
ガルム警部補がドアから顔を出す。
「お前」
「交渉うまいな」
アレクシスは額を押さえる。
「……好きにしろ」
オズワルドが笑う。
「やった!」
ミレイアが小さく笑う。
霧の街。
星霧探偵事務所。
こうして
奇妙な探偵チームが
静かに動き出した。




