第9話 事件の余波 就職活動を開始
事件の数日後。
夜葬ホテルの玄関には
【営業停止】の張り紙が貼られていた。
かつて亡霊ツアーで賑わっていた建物は、
今は静まり返っている。
ロビーに従業員たちが集められていた。
ホテルの実質経営者であるチョイナ国のリンが前に立つ。
深く頭を下げた。
「……申し訳ない」
「今回の殺人事件の影響で」
「ホテルはしばらく営業停止になる」
重い空気が流れる。
キャロラインが俯き、
イルミも帽子を握りしめていた。
リンは続ける。
「皆には迷惑をかける」
「本当にすまない」
静かな沈黙が落ちた。
その時。
入口の方から妙に元気な声が響く。
「アレクシス師匠!」
全員が振り向く。
そこには――
オズワルドが立っていた。
アレクシスは一瞬だけ目を細める。
「誰が師匠だ」
オズワルドは勢いよく頭を下げた。
「弟子にしてください!」
即答。
「弟子はとっていない」
オズワルドは顔を上げる。
「ならば」
拳を握る。
「弟子と認めるまで」
「どこまでもついていきます!」
アレクシスが即座に言う。
「迷惑だからやめてくれ」
オズワルドは真顔だった。
「いいえ」
「男は一度決めたら」
「どこまでもついていくものです」
アレクシス
「勝手なことをするな」
その横で腕を組んでいたガルム警部補が言う。
「お前」
「ストーカーの才能あるぞ」
オズワルド
「違います!」
「弟子です!」
ガルム警部補
「まだ許可されてないだろ」
オズワルド
「心は弟子です!」
ガルム警部補
「それが一番怖い」
アレクシスは額を押さえた。
「……頼むから」
「勝手に弟子になるな」
オズワルド
「でも師匠!」
アレクシス
「師匠じゃない」
オズワルド
「アレクシス師匠!」
アレクシス
「やめろ」
ガルム警部補がぼそっと言う。
「諦めろ」
「こういうタイプは」
「一生ついてくる」
アレクシス
「……最悪だ」
ミレイアがくすっと笑う。
少し離れた場所で
キャロラインがぽつりと言った。
「幽霊より」
少し考えて。
「人間の方が怖いね」
ミレイアは小さく笑った。
道路の遠くで
アレクシスとオズワルドがまだ言い合っている。
「師匠!」
「違う」
「師匠!」
「違うと言っている」
「師匠!」
「やめろ!」
ガルム警部補が言う。
「もう弟子でいいんじゃないか」
アレクシス
「よくない」
オズワルド
「師匠!」
アレクシス
「やめろ!」
ミレイアは静かに言う。
「にぎやかですね」
その時。
アレクシスがふと空を見上げた。
夜葬ホテルの最上階。
あの亡霊祭壇の場所だ。
アレクシスは静かに言った。
「事件とは」
少し間を置く。
「人間の欲望の舞台だ」
ミレイアが頷く。
そして穏やかに言う。
「でも」
「真実は必ず現れる」
遠くで。
オズワルドの声が響く。
「師匠ーー!」
アレクシス
「やめろと言っている!」
ガルム警部補
「グレイヴン氏、もう諦めろ」
ミレイアはくすっと笑った。
こうして
霧都ヴァル・ロンドリアに
また一つ
奇妙な事件が刻まれた。
『夜葬ホテルの亡霊』事件 終幕
つづく




