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霧都ヴァル・ロンドリア探偵事件簿ー怪物に戸籍のある街で  作者: 虫松
苦渋の決断

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第9話 真実の残響

ハントマンの自殺による死は、終わりではなかった。


それはむしろ

新たな嵐の始まりだった。


ハントマンが命を絶った翌日から、世界は静かに、しかし確実に揺れ始めた。

過去に封じ込められていた数々の警察の組織の不正が、一斉に表面へ浮かび

上がってきたのだ。


まるで長年押し込められていた闇が、堰を切ったようにあふれ出すかのように。


その朝。


ヴァン・ロドリアの新聞は、異様な緊張感に包まれていた。

朝刊の一面には、大きな見出しが躍っていた。


「警視庁幹部の自殺 背後に政治スキャンダル」


しかしこれで終わりではない。

バロックノートの裏表紙にあった。


第二の暗号。


そこにはこう書かれている。


=============


王は沈黙し 女王はすべてを知る


騎士は跳び 僧侶は斜めに進む


塔は真実を守り歩兵は血を流し倒れ


すべては 最初の右端の配置に戻る


余計な同じ終わりは捨て


そして、真実の扉を開けろ


============


アレクシスが言う。


「これは詩じゃない」


「チェスの暗号だ」


チェスの駒には初期配置のマスがある。

アレクシスはチェス盤を取り出す。


そして言う。


「最初の配置に戻る」


「つまり初期位置の座標を数字に変える」


駒の初期位置

駒位置

♚キングe1

♕クイーンd1

♞ナイトg1

✚ビショップf1

♖ルークh1

■ポーンは倒れる


アレクシスが説明する。


「チェス盤は」


縦=数字

横=アルファベット


つまり


a=1

b=2

c=3

d=4

e=5

f=6

g=7

h=8


数字に変換


駒 座標 数字

キングe1 51

クイーンd1 41

ナイトg1 71

ビショップf1 61

ルークh1 81

ポーンなし


アレクシスが言う。


バロックの詩の順番。


女王

騎士

僧侶

余計な同じ終わりは捨てろ

1を斬り捨てる。

そして血を流すボーンを消す。

左の数字の一桁目だけ取る。


5

4

7

6

8



暗証番号

54768


ミレイアが息をのむ。


「まさか……」


「ハントマンの貸金庫の暗証番号?」


アレクシスは静かに頷く。


「そうだ」


「バロックさんは死ぬ前に」


「貸金庫の暗証番号を残した。」


「ハントマンは度々、貸金庫のある銀行へと

出入りしていた。鍵を見つけた。銀行にいくぞ」

ガルム警部補が言う。


そして、金庫担当者に「開けろ」


貸金庫が開く。


中には


警察幹部の裏金リスト

監視カメラ削除ログ

警察内部協力者の名前。

政治家協力者の名前。

企業協力者の名前。


彼に協力していた者たちの名前が、冷酷なほどに正確に羅列されていた。


このリストは、マスコミに公開をされた。

新聞記事には、ハントマンが裏で結びついていた企業群、

そして政治家たちの名前がびっしりと並んでいた。


警察内の賄賂。

企業内の談合。

政治家の選挙操作。


腐敗の構造は、まるで巨大な蜘蛛の巣のように広がっていた。


新聞を手にしたアレクシスは、低く言った。


「ハントマンの死は、自分の罪を隠すためじゃない……」


紙面を睨みながら続ける。


「むしろ、闇を照らす導火線になった。」


その隣で、ミレイアは黙って記事を読んでいた。


彼女の表情は、いつになく硬い。


「……ここまで警察内部が腐っていたなんて。」

ミレイアは静かに言った。

「バロックさんは、これを一人で追っていたんですね。」


ガルム警部補は拳を強く握った。


「だが、まだ終わりじゃない。」


机の上に資料を叩きつける。


そこには黒塗りされた文書が並んでいた。


「名前の消された契約書……黒塗りにされた証拠……」


ガルムの声は低くなる。


「背後には、もっと大きな連中がいる。」


ミレイアはその資料を見つめた。


そして小さく呟いた。


「それでも……」


二人を見る。


「ここまで来たなら、止めるわけにはいきません。」


その瞳には、はっきりとした覚悟が宿っていた。


その頃。


ヴァル・ロンドリアの政治街。


ある大物議員の事務所では、秘書たちが蒼白な顔で動き回っていた。


「急げ!全部燃やせ!」


書類が次々と焼却炉に投げ込まれていく。


「ハントマンが口を割ったわけじゃない……!」


秘書が震えながら言う。


「だが奴が死んだことで、封印が解けてしまったんだ……!」


しかし。


もう遅かった。


数日後。


その政治家の事務所に、重い足音が響く。


警察と検察の合同部隊が突入した。


「家宅捜索だ!」


扉が開かれる。


秘書たちは凍りついた。


そして数分後


大物議員は手錠をかけられ、報道陣の前へ引き出された。


テレビの速報が流れる。


「大物議員 収賄容疑で逮捕」


そのニュースは、瞬く間に国中を駆け巡った。


ヴァン・ロドリアの街は、表向き平穏を取り戻しつつあった。


人々は仕事へ向かい、

店は開き、

子供たちは学校へ通う。


だが。


市民の心には、疑念が残っていた。


「本当に正義は守られているのか?」


「政治と警察は信用できるのか?」


その声は、静かな波紋となって広がっていった。


やがてそれは、社会そのものを見直すうねりへと変わっていく。






夜。


三人は墓地にいた。


蝉の声が、夏の静寂を震わせている。


そこに建てられた一つの墓。


バロックさんの墓。


アレクシスは深く頭を下げた。


「バロックさん。」


静かに言う。


「あなたが残した真実は……確かに広がり始めています。」


ミレイアは花を供えた。


「あなたは最後まで、一人で戦っていた。」


少しだけ笑う。


「でも、もう一人じゃありません。」


その声には、優しさと強さが混じっていた。


ガルム警部補は、墓前で無言で立っていた。


アイゼンハワードは墓石を見つめた。


そして低く呟く。


「一人の大物政治家は捕まった。」


夜風が墓地を吹き抜ける。


「だが……これで終わりじゃない。」


アレクシスとミレイアは、静かに空を見上げた。


雲の隙間から星が見えている。


事件は終わった。


しかし、その影はまだ消えていない。


それでも


ミレイアは小さく言った。


「それでも、前に進みましょう。」


アレクシスは頷いた。


「そうだな。」


真実は、時に人を傷つける。

だが同時に世界を変える力にもなる。


ラストシーン

https://kakuyomu.jp/users/mushimatsu/news/822139846514680836


夜空の満天の星は、静かに輝いていた。

まるで、まだ続く物語を見守るように。



『苦渋の決断』事件 終幕



つづく




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