第7話 盤上での推理
夜。
アレクシスの事務所。
外では雨が降っていた。
窓を叩く雨音だけが部屋の静けさを揺らしている。
応接間。
燭台の炎が、静かに揺れている。
中央の卓上にはチェス盤。
白と黒が、整然と並ぶ。
アレクシスは静かに駒を並べていた。
ミレイアとガルム警部補が
黙ってそれを見ている。
■ ポーン
✚ ビショップ
♜ ルーク
♞ ナイト
♛ クイーン
♚ キング
アレクシスが言う。
「この事件は――」
駒を一つ置く。
「バロックさんの死から始まった」
■ ポーン
「末端の警察官」
「現場で動く駒だ」
次の駒。
♞ ナイト
アレクシスが指で弾く。
「荒っぽい刑事」
「型破りな男」
ミレイアが言う。
「ライオネス」
アレクシスが頷く。
「彼は疑われた」
「だが違う」
♞ナイトを大胆に動かす。
♞ナイトは盤面を飛び越える。
「ナイトは直線で動かない」
「だから」
「罠にはめやすい」
♞ナイトを中央から外す。
「彼は」
「犯人に利用された駒だ」
次の駒。
✚ビショップ
斜めに滑らせる。
「理論派」
「裏から動く者」
ミレイア
「鑑識主任リッツ」
アレクシス
「そう」
「証拠に触れる立場」
✚ビショップを
斜めに動かす。
「だが」
そこで止める。
「証拠は消えていた」
ガルム警部補が言う。
「つまり」
アレクシス
「彼女は消した側ではない」
ビショップを盤の端へ。
「彼は」
「気づかなかった駒だ」
次。
♜ ルーク
アレクシスが前に出す。
「組織の駒」
ミレイア
「マルコ・ディアス」
アレクシス
「そうだ」
♜ルークを中央へ進める。
「彼は」
「13年前の警察の不正を知っていた」
ガルム
「そして殺された」
アレクシスが
♜ルークを倒す。
カタン。
「ルークは消された」
部屋の空気が重くなる。
次の駒。
♛ クイーン
ミレイアが言う。
「サラ?」
アレクシスが首を振る。
「違う」
♛ クイーンを盤面の中央へ。
「クイーンは」
「盤上で最も自由に動く」
縦。
横。
斜め。
「情報」
「監察」
「警察内部」
ガルム警部補が眉をひそめる。
アレクシスが言う。
「つまり」
「すべてに関われる立場」
ミレイアが気づく。
「まさか…」
アレクシスは最後の駒を置く。
♚ キング
「警察組織」
そして盤の奥。
アレクシスは黒い駒を置いた。
♛ 黒のクイーン
ミレイア
「それは…?」
アレクシス
「この事件の本当の支配者」
彼は駒を動かす♛黒のクイーン。
■ボーンを消す。
♞ナイトを操る。
♜ルークを消す。
人物を消す。
証拠を消す。
情報を盗む。
次々に駒を倒す。
カタン
カタン
カタン
盤面には
♚ キングだけが残る。
アレクシスが言う。
「犯人は」
「すべての駒を」
「動かしていた」
ミレイア
「つまり」
アレクシスは静かに微笑む。
「警察内部」
「しかも」
♛ 黒のクイーンを
♚ キングの前に置く。
チェック。
そして
最後の一手。
♚キングの逃げ道を
すべて塞ぐ。
「謎は解けた、チェックメイトだ」
アレクシスは、静かに微笑む。
次は警察庁で大演説だ。




