第3話 消えた証拠とノート
バロックが殺された
あの夜から二日。
捜査は
早くも異常を見せ始めていた。
警察庁・鑑識ラボ。
白いライトの下で
一人の男が静かに報告する。
鑑識主任
リッツ・クイン(47)
理論派で無口。
数字と証拠しか信じない女性だった。
リッツは資料を机に置く。
「……妙です」
アレクシスとミレイア
ガルム警部補が顔を上げる。
リッツは淡々と続ける。
「現場の証拠が一部消えています」
ガルム警部補の眉が動く。
「消えただと?」
リッツは指で資料を示す。
「本来あるはずのものが三つ消えています」
静かな声。
しかし
その内容は重かった。
【犯行ナイフ】
発見されたが
保管庫から消失。
【指紋データ】
照合データが削除。
【監視カメラ映像】
事件時間だけ
データ破損。
ガルム警部補が机を叩く。
ドン!
「ふざけるな!!」
怒号がラボに響いた。
「警察庁の証拠がそんな簡単に消えるか!!」
リッツは静かに答える。
「普通ならありえません」
少しだけ間を置く。
「ですが」
「これは事故ではない」
「誰かが意図的に消しています」
沈黙。
ミレイアが小さく言う。
「警察の内部の人間……」
リッツは否定も肯定もしない。
ただ静かに言う。
「その可能性は高いです。」
その時
ガルム警部補が呟く。
「まさか……ライオネスか」
名前が出る。
ライオネス・フィン(40)
捜査一課刑事。
荒っぽく
型破りな捜査で有名。
彼は生前の刑事バロックと
何度も衝突していた。
「あんたの古い捜査はもう通用しない」
と怒鳴ったこともある。
当然、疑いは彼に向かった。
その日の午後。
アレクシスたちは
捜査一課に向かった。
ドアを開ける。
刑事たちの視線が集まる。
その奥で。
足を机に乗せている男。
鋭い目。
短い黒髪。
傷のある頬。
ライオネス・フィン。(獣人)
彼は三人を見る。
そして吐き捨てる。
「外部のものが探偵ごっこか」
ガルムが睨む。
「ライオネス」
「お前!バロック殺人の」
「証拠を消したのか?」
一瞬
空気が凍る。
ライオネスは椅子から立つ。
ゆっくり歩いてくる。
そして言う。
低い声で。
「俺がやるなら」
「もっと上手くやる。足がつくようなことはしない。」
ガルム警部補が拳を握る。
だが
ミレイアが口を開いた。
「違う」
二人が振り向く。
ミレイアは言う。
「これは、
ライオネス刑事の仕業ではありません。」
アレクシスも頷く。
「むしろ逆だ」
「これは」
「誰かが」
「証拠を意図的に消して、混乱させている。」
ライオネスが少し目を細める。
「……内部の誰かか」
その言葉で
空気が変わった。
警察内部の妨害。
それは
すでに
始まっていた。
その夜。
アレクシスたちは
もう一つの手がかりを調べる。
バロックの死の前の言葉。
「苦渋の決断」
ダイイングメッセージ。
その意味を探るため
彼らは
関係者に話を聞き始めた。
まずは
マルコ・ディアス(52)
警察内部監査官。
政治家タイプの男。
ディアスは苦笑する。
「苦渋の決断?」
「警察ではよくある言葉ですよ」
「不祥事を処理する時などね」
意味深な言葉だった。
次に
サラ・エヴァンス(33)
情報分析官。
冷静な女性。
彼女はデータ端末を見ながら言う。
「バロック刑事は。暗号のようなメモを残しています」
一冊のノート。
【バロックのノート】
ページには
奇妙な文字列。
記号と数字。
サラが言う。
「これ」
「普通のメモじゃない」
「暗号になってます。」
アレクシスがノートを閉じる。
静かに呟く。
「バロックは」
「何かを知っていた」
ミレイアが言う。
「だから」
「殺された」
遠くで夜のパトカーのサイレンが鳴る。
事件はまだ始まったばかりだった。
そして
アレクシスはまだ知らない。
このバロックの暗号ノートが
やがて
警察庁を揺るがす
巨大な真実に繋がることを。




