第2話 警察監査室
霧都 ヴァル・ロンドリアの中心部にある。
重厚な石造りの建物。
ヴァル・ロンドリア警察庁本庁舎。
その中でも
最も静かで
最も緊張感のある部署。
監察官室。
警察内部の不正を調査する
組織の“内側の目”。
刑事であろうと幹部であろうと
例外なく監視する部署だった。
重い扉の前に
三人が立つ。
アレクシス。
ミレイア。
ガルム警部補。
ガルム警部補が低く言う。
「ここだ」
ノック。
コンコン。
中から声が返る。
「どうぞ」
ガルムが扉を押し開ける。
ギィ
静かな室内。
整然と並ぶ書棚。
中央の机。
そして
一人の男が座っていた。
三人が入った瞬間。
男はすぐに立ち上がった。
椅子を静かに引き
ゆっくり歩み寄る。
背の高い男だった。
整ったグレーのスーツ。
無駄のない姿勢。
落ち着いた表情。
男は穏やかな声で言った。
「よく来てくれました」
そして手を差し出す。
「私はハントマン」
「監察官室を任されています」
ロージャース・ハントマン。
警察庁 監察官。
握手。
その手は
強すぎず
弱すぎない。
絶妙な力加減だった。
「あなた方の噂は聞いています」
ハントマンは穏やかに微笑む。
「難しい事件を何度も解決に導いたとか」
声には
皮肉も
誇張もない。
ただ静かな敬意だけがあった。
ミレイアが少し驚いた顔をする。
(思っていた人と違う……)
監察官といえば
冷酷で
高圧的で
疑い深い
そんな人物を想像していた。
だが
目の前の男は違う。
穏やかで
理性的で
どこか、教師のような雰囲気すらある。
ハントマンは机から資料を取り
三人に差し出した。
「今回の事件ですが」
「どうやら内部に関係者がいる可能性が高い」
ガルム警部補が腕を組む。
「つまり俺たちに内部から探れというわけか」
ハントマンは静かに頷く。
「ええ」
「だからこそ外部の目が必要です」
彼は資料を指で軽く叩く。
「警察の人間だけで調査すれば」
「どうしても遠慮や圧力が生まれる」
「それでは真実に辿り着けない」
そして
真っ直ぐ三人を見た。
その瞳は
とても澄んでいた。
「警察は」
静かな声。
「市民の信頼で成り立つ組織です」
部屋の空気が変わる。
「もし内部に腐敗があるなら」
「必ず明らかにしなければならない」
少しだけ
言葉を区切る。
「それが――」
「我々の責任ですから」
沈黙。
部屋は静まり返る。
アレクシスは思った。
(この男は……)
(本物だ)
理想を語るだけの人間ではない。
それを
本気で守ろうとしている。
そんな目だった。
ハントマンは
穏やかに微笑んだ。
「協力、感謝します」
「亡きバロック元刑事のためにも」
「必ず真相を明らかにしましょう」
ガルム警部補は黙って彼を見る。
そして言う。
低い声で。
「俺は最初から言っている」
「この事件」
「警察の中に犯人がいる」
一瞬
部屋の空気が止まる。
だが
ハントマンは動じなかった。
ゆっくり頷く。
「私も」
「同じ考えです」
そして静かに言った。
「だからこそ」
「当、監察官室が全面的に協力します」
その言葉は
あまりにも誠実だった。
しかし
この時
まだ誰も知らなかった。
物語は
静かに警察組織の
闇の中心へ近づき始めていた。




