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霧都ヴァル・ロンドリア探偵事件簿ー怪物に戸籍のある街で  作者: 虫松
苦渋の決断

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第1話 元老刑事の死

夜のビル。


人気のないオフィス街に建つ

古い雑居ビルの廊下を――


ひとりの男が走っていた。


息を荒くしながら。


背中を振り返る余裕もなく。


ただ必死に。


人狼刑事 バロック。


警察の名刑事と呼ばれた男だった。


数十年にわたり

凶悪事件を追い続け

何人もの犯人を逮捕し続けた老刑事。


だが今


その男が追われていた。


廊下に響く足音。


タッ

タッ

タッ

タッ


その音は

静まり返ったビルに


死のリズムのように響いていた。


背後。


暗闇の中から

もう一つの足音が迫る。


ゆっくり

だが確実に。


逃げ場を塞ぐように。


バロックの額を汗が流れる。


息が苦しい。


胸が破裂しそうだ。


(くそっ……このままじゃ……!)


廊下の突き当たり。


非常階段。


バロックは扉を押し開けた。


鉄の扉が軋む。


ギィィィ……


そのまま

階段を飛び降りるように駆け下りる。


二段飛ばし。


三段飛ばし。


しかし――


背後の足音は

確実に近づいていた。


ドン!


踊り場でバロックの体が止まる。


背後から

男の影が現れた。


ナイフが

蛍光灯の光を反射する。


冷たい銀色。


バロックは振り返った。


荒い息のまま叫ぶ。


「まて!」


「お前のためだと思って

黙ってたんだ!」


「変なことを考えるな!」


必死だった。


「これからも別に

誰にも話すつもりはない!」


「だから――」


男は

静かに答えた。


まるで

感情のない声で。


「このような事になり」


「私は誠に残念です」


次の瞬間。


男は距離を詰めた。


バロックの襟を掴む。


ドン!


壁に叩きつけられる。


ナイフが振り上げられた。


「苦渋の決断ではありますが」


バロックの目が見開かれる。


「あなたを殺します」


ザシュッ!!


ナイフが

首筋に突き刺さる。


「うっ……がああああ!!」


血が飛び散る。


バロックの体が崩れる。


階段の踊り場へ。


ドサッ……


男は冷たく見下ろした。


そして


静かに言う。


「これがお前の望んだ結末か?」


バロックは答えない。


もう声は出ない。


ただ


ゆっくりと目を閉じた。


その時。


遠くから声が響く。


「誰だ!!」


「そこにいるのは!」


ビルの夜勤の警備員

ナダルだった。


犯人の影は


暗闇の奥へ消える。


足音だけが遠ざかる。


ナダルが駆け寄る。


「大丈夫ですか!!」


「しっかりしてください!」


地面は血の海。


呼吸はもう浅い。


バロックは


最後の力で口を開いた。


「……苦渋の……決断……」


それが


彼の


最後の言葉だった。




■■■



警察署。

現場報告書が机に叩きつけられた。


バン!!


男が怒鳴る。


「ふざけるな!!」


机を殴った。


ガルム警部補。


顔は怒りで歪んでいた。


拳が震えている。


「あのバロックさんが……」


「殺されただと……?」


声が震える。


怒りと悲しみで。


彼は叫んだ。


「誰がやった!!」


「誰があの人を殺した!!」


周囲の刑事たちは

黙っている。


重い空気。


ガルムの拳が

さらに机を叩いた。


ドン!!


「バロックさんはな……」


低い声。


震える声。


「俺を育て上げ刑事にしてくれた男だ」


「俺の刑事の恩人なんだ」


若い頃。


未熟だったガルムを


叩き上げて育てたのが

人狼刑事のバロックだった。


ガルム警部補の目に怒りの炎が宿る。


「絶対に許さねえ」


「犯人が誰だろうと」


「必ず捕まえる」


しかし。


彼はそこで


あることに気づく。


報告書。


そこに書かれた内容。


監視カメラなし


証拠消失


不自然な捜査指示


ガルムは低く呟く。


「……おかしい」


「これは」


「警察の中に犯人がいる」


彼は決断した。


そして


あの探偵の名前を口にする。


「グレイヴン氏。協力を要請する」


「頼む」


「この事件を警察の外から調べてくれ」


「内部監査室へ案内する」


静かな夜。


こうして


霧都ヴァル・ロンドリア警察署

警察内部を揺るがす事件


星霧探偵事務所による

ヴァル・ロンドリア探偵事件簿

「苦渋の決断」事件の捜査が始まった。

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