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【推理〔文芸〕21位】霧都ヴァル・ロンドリア探偵事件簿ー怪物に戸籍のある街で  作者: 虫松
地の血判

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第7話 村の地主たちの聴取と魔獣犬

霧がまだ低く垂れ込める午後、

アレクシスとミレイアはブラッドフォージの地主たちを訪ね歩いていた。


村の血判の掟。

それが土地と深く結びついているのなら、最も重く背負っているのは彼らのはずだ。


だが

セシリア・モーレン(55)農園経営


果樹園の奥、剪定ばさみを持つセシリアは、穏やかな笑みで二人を迎えた。


「血判? ああ……昔話ですよ。土地を守るための誓い。悪いものではありません」


「誓いを破った者はどうなったのですか?」

アレクシスが静かに問う。


彼女の手が一瞬止まる。


「……昔のことです。今は関係ありません」


ミレイアは胸の奥に小さなざわめきを感じた。

共感型魔導感応体質――他人の感情の波が流れ込む。


(怖れている。でも怒りもある……)


「セシリアさん」

ミレイアは優しく言う。

「守るための誓いが、今も誰かを縛っているとしたら?」


セシリアは目を伏せた。

「土地は、血より重いこともあるのです」


それ以上は語らなかった。


ガブリエル・ロウ(70)古家系の長老


古い屋敷の書斎。壁一面に歴史書。


「血判を調べているのか」


低く響く声。


「ええ。あなたほどの長老なら、真実をご存知でしょう」


アレクシスは正面から向き合う。


老いた瞳が光る。


「誓いは村を救った。だが同時に、鎖にもなった」


「鎖?」


「誓いは破られたことがある。だからこそ“刑”が必要だった」


ミレイアの心に、冷たい影が流れ込む。

(正義と信じている……でも後悔も混ざっている)


「夜の裁き、ですか?」


アレクシスが踏み込む。


ガブリエルはゆっくり首を振った。


「若い者は知らなくていい。過去は掘り起こすものではない」


会話はそこで断ち切られた。


イザベラ・クロフト(43)牧場主


広い放牧地。風に髪をなびかせながら、彼女は率直に言った。


「血判? 迷信よ」


「では今回の事件も?」

ミレイア。


「人間の仕業に決まってる。犬が文字を書くわけないでしょう」


アレクシスの目が細くなる。


「魔獣犬パブスの噂は?」


「守り神? 笑わせないで。あれはただの野獣よ」


だがその言葉の裏に、かすかな動揺があった。


ルパート・ダイン(60)調停役


彼は終始穏やかだった。


「争いは避けるべきです。血判の話題は、村を不安にさせる」


「しかし既に血は流れています」

アレクシス。


「だからこそ、静めるのです」


「真実を隠して?」

ミレイアが問いかける。


ルパートはわずかに微笑んだ。

「真実は、時に刃より鋭い」


誰も核心を語らない。

知っていて、口を閉ざしている。


そのとき。


森の奥から、低い唸り声。


グルル……


アレクシスが立ち止まる。

「気づいたか?」


ミレイアも振り返る。


霧の向こう、黒い影。


魔獣犬パブス。


巨大な体躯。赤く光る瞳。

だがその目は、ただの獣のそれではない。


(……狩る前の獣の感情)


ミレイアの心に流れ込む。

緊張。観察。計算。


「私たちを試している……」


彼女は囁く。


パブスは距離を保ち、草むらの影に溶ける。

攻撃しない。ただ隙を窺う。


「犯人か、守護者か」


アレクシスが低く言う。


「わからない。でも」


ミレイアは胸を押さえた。


「明確な悪意は感じない。狩人の本能はある。でも……命令を待つような」


「誰かの意思で動いていると?」


霧が濃くなる。


魔獣犬パブスの影が、再び移動する。


地主たちの沈黙。

語られぬ血判の掟。

そして、様子を窺う魔獣。


アレクシスは静かに結論づけた。


「魔獣は刃かもしれない。だが握っている手がある」


霧の奥で、赤い瞳が瞬いた。

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