第6話 チェス盤にて推理
夜の応接間。
燭台の炎が、静かに揺れている。
中央の卓上にはチェス盤。
白と黒が整然と並ぶ。
ガルム警部補が低く告げる。
「盗まれた拳銃が見つかった。一発発射されていた。
屋上で弾丸も発見。だが……真上に向けて撃たれている。」
静寂。
アレクシスは盤上に手を伸ばす。
♚ キング
レオナルド・アシュクロフト(玄人俳優 ・自殺?)
♕ クイーン
ヴィクトリア・ヘイル(主演女優)
♞ ナイト
オリバー・グラント(若手俳優)
♖ ルーク
チャールズ・ウィットモア(監督)
✚ ビショップ
ドミニク・ショウ(マネジャー)
■ ボーン
アレク・サンドルス(大道具)
♚ 黒のキングを指で弾き、中央へ置く。
「レオナルドは裸の王様」
次に■黒のポーンを一つ前へ。
「アレクは告発と仕掛け」
さらに♞黒のナイトを跳ねさせる。
「オリバーは嫉妬と演技」
♖ルークを進める。
「チャールズは悪評と対立」
✚ ビショップを斜めに移動
「ドミニクは怒りと守り」
そして
♕白のクイーンをゆっくりと持ち上げる。
「発端はヴィクトリアだ」
盤上の駒が、炎の影で揺れる。
「ヴィクトリア・ヘイルの妊娠」
誰も息をしない。
「強姦。認知拒否。堕胎の強要」
♕ クイーンは盤の中央へ。
「レオナルドは追い詰められた」
アレクシスは♚黒のキングを動かす。
逃げ道を示すように、斜めへ。
「拳銃は脅し」
✚白のビショップを上へ滑らせる。
「弾丸は真上」
盤の上で、駒が交錯する。
乾いた音が、静かな応接間に響く。
「追い詰められた王は、逃げ道を失ったとき何を選ぶと思う?」
向かいで書類を整えていたミレイアが顔を上げる。
「降伏……ではないのですか」
アレクシスはゆっくりと首を振る。
「王は滅多に降伏しない」
盤上の♚キングを指先で押す。
退路はすでに細い。
「王は守られる存在だ。責任を取る駒ではない」
燭台の炎が揺れる。
「民衆を置き去りにしてでも、自分だけが助かる道を探す」
♚キングを端へ滑らせる。
「無責任に逃げるのだ」
静かな声。
だが冷たい。
「屋上で糾弾され、銃声が夜に響き、名声も威厳も崩れたとき」
盤の向こう側。だまし絵の“隣のビル”。
「彼は戦わない。償いもしない。無責任に、ただ跳躍して逃げる」
♚黒のキングの前に、♕白のクイーンを置く。
退路は幻。
「王は最後まで王の顔を保とうとする。だがその実、
選んだのは責任ではなく逃走だ」
ミレイアは盤を見つめる。
「……だから、真上への発砲」
「そうだ」
アレクシスは静かに答える。
「撃つ者は、脅しに発砲、王をわざと逃がすために」
そして視線を上げる。
「王は自らの傲慢が作った盤上で、逃げ場を誤った」
♕白のクイーンが✚白のビショップの後ろの位置に立つ。
「謎は解けた」
低く、静かに。
「チェックメイトだ」




