第3話 初日公開日のアリバイ確認
レオナルド・アシュクロフトが転落死した夜。
劇場では新作映画の初日公開日。
舞台挨拶が行われ、主要俳優と監督が一堂に会していた。
華やかな拍手。
フラッシュの閃光。
笑顔。
その裏で、屋上では別の幕が上がっていた。
さらに警備室から拳銃一丁が盗まれていたことが発覚する。
ガルム警部補が関係者を順に呼ぶ。
アレクシストミレイアは隅で静かに観察している。
アリバイ聴取
● オリバー・グラント(若手俳優)
「私は舞台上にいました。
十時四十五分から十一時十分頃まで」
観客、司会者、写真。
証言は揃う。
だが秒単位で語る口調が硬い。
● ヴィクトリア・ヘイル(主演女優)
「私も壇上です」
そう言った直後、彼女は一瞬言葉を詰まらせた。
顔色がわずかに悪い。
ガルムが質問を続けようとしたとき、
ヴィクトリアは口元を押さえ、視線を落とす。
「……失礼」
席を立ち、控室へ向かう。
ミレイアが自然に後を追う。
廊下の奥で、
ヴィクトリアは壁に手をつき、浅く息をしている。
「大丈夫ですか」
「……少し、貧血で」
だがそれは貧血の呼吸ではない。
吐き気を堪えるような、波のある息。
ミレイアは何も言わない。
ただ静かに観察する。
手の震え。
下腹部を無意識にかばう仕草。
香水を嫌がる反応。
ミレイアの瞳がわずかに細くなる。
● チャールズ・ウィットモア(監督)
「私は舞台袖と楽屋を往復していた」
証言は曖昧だが、周囲が補強する。
「ドミニクもずっと袖にいましたよ」
と自然に付け足す。
● ドミニク・ショウ(マネージャー)
落ち着き払っている。
「私は進行補助をしていました。
レオナルドは“風に当たる”と言って出ていきました」
時間は十時五十八分頃。
その時刻を、
全員が同じように口にする。
拳銃の件
警備室の管理台帳。
十時三十分頃、
“舞台確認”の名目で立ち入りがある。
許可を出したのは監督。
だが誰が持ち出したかは不明。
銃はまだ見つかっていない。
聴取が終わる。
ミレイアが静かに言う。
「ヴィクトリアさん……体調が」
アレクシスは目を上げる。
「どう見えた」
「一過性ではありません。
周期的な吐き気です」
沈黙。
「妊娠の可能性があります」
アレクシスは何も言わない。
視線は別の方向へ向いている。
「全員の証言が揃いすぎている」
「揃いすぎている?」
「時間。位置。言い回し」
十時五十八分頃。
舞台袖にいた。
レオナルドは一人だった。
「まるで脚本があるようだ」
ミレイアが小さく息を飲む。
アレクシスは続ける。
「俳優は演じる職業だ。だが日常でここまで正確には演じない」
オリバー・グラント(若手俳優)
レオナルドの後継者と言われる若手俳優。
動機として、疑いはある。
だが証拠はない。
そしてもう一つ。
ヴィクトリアの異変。
もし妊娠しているとすれば、
動機は強い。
だが彼女の証言もまた、
誰かの言葉に沿っている。
アレクシスは静かに呟く。
「この劇場は、舞台が一つ多い」
観客のいない舞台。そこでも、誰かが演じている。




