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【推理〔文芸〕21位】霧都ヴァル・ロンドリア探偵事件簿ー怪物に戸籍のある街で  作者: 虫松
規制虫

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第8話 告発と逮捕

大広間。


高い天井。長い食卓。

燭台の炎が並び、影が壁を揺らす。


住人たちが集められていた。


記者ライル・ハートマン

半狼人ドーラン。

影喰いのリゼル。

堕天使ノア。

悪魔セレスティア


皆、どこか疲れた顔をしている。


階段上

吹き抜けの回廊から、静かに見下ろす影。


大家のレオナ・グレイフォード。


尾がゆらりと揺れる。


「それで?」


静かな声が降りる。


「誰がやったんですか?」


まるで他人事のように。


アレクシスは中央に立つ。

チェス盤が卓上に置かれている。

白と黒。


整然。


「説明しよう」


静寂が落ちる。


第一の駒、 完璧なアリバイ


□白のポーンが進む。


「全員のアリバイは完璧だ」


♞黒のナイトが動く。


地下室。

屋根裏。

各住人の部屋。


誰も犯行時刻には動いていない。


少なくとも“そう記録されている”。


「だが」


アレクシスは微笑する。


「盤面は常に正面から戦うとは限らない」


ざわめき。


第二の駒、 凶器


♖黒のルークに触れる。


「凶器は持ち去られた、と考えられている」


だが。


「凶器は殺害現場にあった」


ミレイアが小さく息をのむ。


「地下室に?」


「いや」


△白のビショップが斜めに走る。


「地下室ではない」


住人たちの視線が交差する。


第三の駒 、現場の再定義


「死体は地下室で発見された」

「だが殺害はそこで行われていない」


通風孔の擦れ跡。

外からの施錠偽装。

ロープ繊維。


「管理人は呼び出されたのだ」


午前一時四十分。


通話。

争いではない。

“誘導”。


♕黒のクイーンが前進する。


「外階段へと」


霧の踊り場。

背後からの打撃。

重い金属。


倒れる管理人。


「地下室は遺棄場所に過ぎない」


どよめき。


規約を口に詰めた理由


ミレイアが問う。


「なぜ管理規約を口に?」


アレクシスは■ポーンを倒す。


「メッセージだ」


黙らせるための規則。

その規則で、管理人を黙らせる。


象徴。


だがそれだけではない。


「怪物に罪を着せるためだ」


広間が一瞬、凍る。


「規則に恨みを持つ者」


「最も疑われやすい立場」


半狼人が拳を握る。


影喰いが歯を鳴らす。


堕天使の翼がわずかに震える。


アレクシスは静かに言う。


「犯人は、最も疑われやすい立場を恐れた者だ」


「だから怪物に罪を着せようとした」


ミレイアがはっとする。


「つまり……」


アレクシスの視線が、ゆっくりと上へ向く。


回廊。


高い位置。


館を見下ろす影。


「監視ってのは、一度覚えたら手放せない」


声が大広間に響く。


「“安心”の裏に潜むのは、支配の快感だ」


「人間は、自分の目で自分を縛るんだ」


沈黙。


誰も息をしない。


ガルム警部補が低く言う。


「動機は?」


アレクシスは♚白のキングに触れる。


「規制を規制する者」


管理人は規則を乱発した。


だがその規則を最終的に承認する立場は誰か。


建物の所有者。


管理権限の再定義。


衝突。


そして。


管理人は気づいた。


自分の上に、さらに“見下ろす者”がいると。


その瞬間。


レオナの尾が止まる。


住人たちの怒号が爆発する。


「俺たちを疑わせたのか!」


「規則で縛っておいて!」


「怪物だからって利用したな!」


半狼人の低い唸り。

影喰いの黒い霧。

堕天使の翼が広がる。


レオナは一歩後ずさる。


「証拠は……」


声がわずかに震える。


アレクシスは最後の駒を進めた。


「燭台の底部の擦れ」


「外階段の血痕微粒子」


「麻紐繊維の一致」


「そして通話」


静寂。


「通話は“存在する”だけだ」


「内容は誰にも証明できない」


呼び出し。


死角。


移動。


偽装。


を追い詰める。


逃げ道はない。


レオナの膝が崩れる。


「違う……」


尾が床に落ちる。


「価値を守ろうとしただけだ……」


怒号が再び広間を揺らす。

アレクシスは駒を倒した。


「そのために管理人を殺し、我々に罪を?」


ライルの声が鋭い。


沈黙。


ガルム警部補が前へ出た。


重い靴音。


「レオナ・グレイフォード」


静かな、だが逃げ場のない声。


「詳しい話は署で聞きましょうか?」


レオナは何も答えない。


ガルム警部補は続ける。


「それと」


視線がゆっくりと上階の廊下へ向く。


「暖炉脇の燭台、調べさせてもらいますよ」


広間が静まり返る。


「底部のへこみ跡と、被害者の頭部損傷を照合しますので」


その一言で、すべてが止まった。

尾が、かすかに震える。

逃げ道は、もうない。


大広間に、重たい沈黙が落ちた。


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