第8話 告発と逮捕
大広間。
高い天井。長い食卓。
燭台の炎が並び、影が壁を揺らす。
住人たちが集められていた。
記者ライル・ハートマン
半狼人ドーラン。
影喰いのリゼル。
堕天使ノア。
悪魔セレスティア
皆、どこか疲れた顔をしている。
階段上
吹き抜けの回廊から、静かに見下ろす影。
大家のレオナ・グレイフォード。
尾がゆらりと揺れる。
「それで?」
静かな声が降りる。
「誰がやったんですか?」
まるで他人事のように。
アレクシスは中央に立つ。
チェス盤が卓上に置かれている。
白と黒。
整然。
「説明しよう」
静寂が落ちる。
第一の駒、 完璧なアリバイ
□白のポーンが進む。
「全員のアリバイは完璧だ」
♞黒のナイトが動く。
地下室。
屋根裏。
各住人の部屋。
誰も犯行時刻には動いていない。
少なくとも“そう記録されている”。
「だが」
アレクシスは微笑する。
「盤面は常に正面から戦うとは限らない」
ざわめき。
第二の駒、 凶器
♖黒のルークに触れる。
「凶器は持ち去られた、と考えられている」
だが。
「凶器は殺害現場にあった」
ミレイアが小さく息をのむ。
「地下室に?」
「いや」
△白のビショップが斜めに走る。
「地下室ではない」
住人たちの視線が交差する。
第三の駒 、現場の再定義
「死体は地下室で発見された」
「だが殺害はそこで行われていない」
通風孔の擦れ跡。
外からの施錠偽装。
ロープ繊維。
「管理人は呼び出されたのだ」
午前一時四十分。
通話。
争いではない。
“誘導”。
♕黒のクイーンが前進する。
「外階段へと」
霧の踊り場。
背後からの打撃。
重い金属。
倒れる管理人。
「地下室は遺棄場所に過ぎない」
どよめき。
規約を口に詰めた理由
ミレイアが問う。
「なぜ管理規約を口に?」
アレクシスは■ポーンを倒す。
「メッセージだ」
黙らせるための規則。
その規則で、管理人を黙らせる。
象徴。
だがそれだけではない。
「怪物に罪を着せるためだ」
広間が一瞬、凍る。
「規則に恨みを持つ者」
「最も疑われやすい立場」
半狼人が拳を握る。
影喰いが歯を鳴らす。
堕天使の翼がわずかに震える。
アレクシスは静かに言う。
「犯人は、最も疑われやすい立場を恐れた者だ」
「だから怪物に罪を着せようとした」
ミレイアがはっとする。
「つまり……」
アレクシスの視線が、ゆっくりと上へ向く。
回廊。
高い位置。
館を見下ろす影。
「監視ってのは、一度覚えたら手放せない」
声が大広間に響く。
「“安心”の裏に潜むのは、支配の快感だ」
「人間は、自分の目で自分を縛るんだ」
沈黙。
誰も息をしない。
ガルム警部補が低く言う。
「動機は?」
アレクシスは♚白のキングに触れる。
「規制を規制する者」
管理人は規則を乱発した。
だがその規則を最終的に承認する立場は誰か。
建物の所有者。
管理権限の再定義。
衝突。
そして。
管理人は気づいた。
自分の上に、さらに“見下ろす者”がいると。
その瞬間。
レオナの尾が止まる。
住人たちの怒号が爆発する。
「俺たちを疑わせたのか!」
「規則で縛っておいて!」
「怪物だからって利用したな!」
半狼人の低い唸り。
影喰いの黒い霧。
堕天使の翼が広がる。
レオナは一歩後ずさる。
「証拠は……」
声がわずかに震える。
アレクシスは最後の駒を進めた。
「燭台の底部の擦れ」
「外階段の血痕微粒子」
「麻紐繊維の一致」
「そして通話」
静寂。
「通話は“存在する”だけだ」
「内容は誰にも証明できない」
呼び出し。
死角。
移動。
偽装。
を追い詰める。
逃げ道はない。
レオナの膝が崩れる。
「違う……」
尾が床に落ちる。
「価値を守ろうとしただけだ……」
怒号が再び広間を揺らす。
アレクシスは駒を倒した。
「そのために管理人を殺し、我々に罪を?」
ライルの声が鋭い。
沈黙。
ガルム警部補が前へ出た。
重い靴音。
「レオナ・グレイフォード」
静かな、だが逃げ場のない声。
「詳しい話は署で聞きましょうか?」
レオナは何も答えない。
ガルム警部補は続ける。
「それと」
視線がゆっくりと上階の廊下へ向く。
「暖炉脇の燭台、調べさせてもらいますよ」
広間が静まり返る。
「底部のへこみ跡と、被害者の頭部損傷を照合しますので」
その一言で、すべてが止まった。
尾が、かすかに震える。
逃げ道は、もうない。
大広間に、重たい沈黙が落ちた。




