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霧都ヴァル・ロンドリア探偵事件簿ー怪物に戸籍のある街で  作者: 虫松
破滅のコイン

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第5話 アレクシスの自室にて推理

市警本部、応接室。


夜は更けている。


重い扉が開き、

ガルム警部補が姿を現す。


その表情は、地下資料室で見た時よりも硬い。


星霧探偵事務所


資料が机に広げられる。


古い写真。

坑道の見取り図。

黒く変色した古銭の複写。


警部補が低く告げる。


「十年前。港湾中央銀行強盗事件」


「犯人は五人」


「地下坑道を三週間かけて掘り進め、金庫の真下から侵入」


ミレイアが息を呑む。


「大胆すぎる……」


警部補は頷く。


「奪われたのは現金、証券、金貨。そして」


一枚の資料を差し出す。


写真。

黒く鈍い光を放つ古銭。


「海賊時代の黒銀貨。五枚」


アレクシスの目がわずかに細まる。


「文化財級の品ですね」


「展示予定だった。だが消えた」


警部補は続ける。


「犯人の一人は囮となり逮捕。獄中で病死」


「残る四人は逃走」


「事件後半年以内に急速に資産を増やした四人の人物」


霊具商人。

投資家。

古物商。

そしてラドック。


静寂。


「三人は死んだ」


「現場には“破滅のコイン”」


警部補の声が沈む。


「五人。黒銀貨五枚」


「今、三枚が現れた」


「残りは二枚」


アレクシスはゆっくりと言う。


「復讐、ですか」


「あるいは“裏切りの清算”」


警部補は帽子を取る。


「一人は獄中で死んだ」


「ならば、動けるのは残りの誰かだ」


ミレイアが呟く。


「屋敷の中に……」


警部補は視線をアレクシスに向ける。


「破滅の三日目が来る前に止めたい」


「頼む」


短い沈黙。


アレクシスは頷いた。



◇◇◇



その夜アレクシスの自室


蝋燭の灯り。

窓の外は霧。

机の上にチェス盤。


アレクシスは無言で駒を並べる。


霧が窓を叩く。


盤上には白の♚キング

屋敷の王であるラドック。


周囲に五つの駒。


アレクシスは指を顎に当て、静かに駒を見つめる。


「条件は三つ」


一つ。

屋敷を外へ自由に出入りできること。


二つ。

三人を殺しても“すぐには怪しまれない”立場であること。


三つ。

破滅のコインを扱える、あるいは意味を理解していること。


♖ルーク ハロルド・ヴェイン(執事)


一直線に動かす。

屋敷の鍵を全て管理。

確かに出入りは可能。


だが


アレクシスは首を振る。


「老執事が頻繁に外出すれば目立つ」


三十年仕える男。

行動は使用人や来客に常に見られている。

さらに三件の犯行時間。


いずれも屋敷内で彼の姿を見た証言がある。


♖ルーク(城)は強固だが重い。

静かに元の位置へ戻す。


✚ビショップ クラリス・モーン(秘書)


斜めに滑らせる。

財務担当。

資産流入を扱う。

十年前の金の痕跡に辿り着ける立場。


「動機を知り得る」


だが。


アレクシスは資料を思い出す。

三件の事件当日。

彼女は銀行との会合、監査立会い、証券会社との契約。


複数の第三者証言。

時間の空白が、ない。

✚ビショップ(僧侶)は遠くから刺せる。


だが今回は“現場”に残されたコイン。

犯人は直接置いている。

斜線だけでは足りない。


駒を戻す。


♕クイーン マリア・ラドック(遠縁)


大胆に盤上を横断させる。

動機は明白。

相続。


三人の名前で揺れた表情。

怪しい。


だが。


「三人を殺す理由が弱い」


殺された三人は過去の共犯者。

彼女に直接の利益はない。


むしろラドック一人が死ねば良い。

回りくどい復讐劇は不要。


そして。


屋敷外での行動履歴。

彼女は社交界に頻繁に出入りしている。

隠密行動には向かない。


強すぎる駒。

だが目立ちすぎる。

♕クイーンを下げる。


□ ポーン エドウィン(書庫管理人)


一歩前へ。

古銭に詳しい。

破滅のコインを見て“珍しい”と呟いた。

知識は十分。


だが。


三件の犯行は屋敷に雇われる前から始まっている。

彼が雇われたのは“最近”。

時系列が合わない。


□ポーン(一般兵)は昇格できるが、

この局面では遅すぎる。


駒を止める。


♞ ナイト ドーラン(警備責任者)


アレクシスの指が止まる。

♞ナイトを中央へ跳ねさせる。

L字。


予測不能。

元傭兵。

外出は“警備巡回”で説明可能。


武器の扱いに長ける。

溺死。刺殺。放火。

いずれも実行力を要する。


「三人を殺しても怪しまれない立場」


むしろ。


事件後に最初に現場へ入れる。

証拠を触れる。

破滅のコインを“発見した張本人”。


アレクシスはゆっくりとナイトを動かす。

♞ナイトは他の駒を飛び越える。


「屋敷の構造を把握」


秘密の出入口。

死角。

夜間の抜け道。


三件の事件当日。


警備強化の名目で外出。


「自由だ」


さらに。


♞ナイトを♚キングの背後へ。


「怪しまれない」


警備責任者は“守る側”。

疑いは最も向きにくい。


そして


十年前。

強盗は五人。

一人は獄中死。

四人は富を得た。


だが。


資料の片隅。

当時の坑道補強技術。

軍用爆破の知識。

元傭兵の経歴と一致。


アレクシスの目が光る。


♞ナイトが最後の跳躍。

♕黒のクイーンと連動する位置。


「内側に入り込み、外に出られる」


「殺せる」


「置ける」


♞ナイトが♚白キングの逃げ道を塞ぐ。


静寂。

蝋燭が揺れる。

アレクシスは盤上を見渡す。


「犯人には順番がある」


三人は過去の仲間。

残るはラドック。

♞ナイトが最後の一手を打つ。


♚キングを追い詰める。

アレクシスは静かに♚キングを倒した。


「謎は解けた」


わずかな微笑。


「チェックメイトだ」

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