第4話 港湾中央銀行強盗事件
市警本部・地下資料室。
埃をかぶった記録箱が開かれる。
黄ばんだ新聞が広げられる。
【当時の見出し】
港湾中央銀行、地下金庫破り
犯人は地下から侵入か
ガルム警部補は報告書を読み上げる。
「侵入経路は正面ではない」
銀行の裏手。
港湾倉庫地区。
その地下に、古い排水坑道があった。
犯人はそこを掘り進めた。
三週間。
夜ごと少しずつ。
湿った土。
梁を支える木材。
音を消すための布。
五人が交代で作業した。
銀行地下金庫の真下まで到達。
床石を内側から破壊。
侵入成功。
奪われたのは金貨、紙幣、証券。
だが
もう一つ。
特別保管庫にあった品。
“海賊時代の希少な黒銀貨”
数枚しか現存しないとされる文化財級の古銭。
展示予定だった品。
それも消えている。
報告書には赤字で記されている。
黒銀貨五枚 紛失
警部補の目が細まる。
「金だけではない」
「象徴を持ち去った」
強盗当夜。
警報が鳴る。
五人のうち一人が囮となり、地上で警官隊を引きつけた。
逮捕。
残る四人は地下から逃走。
捕まった男は黙秘。
仲間の名を明かさなかった。
獄中で病死。
事件は迷宮入り。
星霧探偵事務所
夜。
資料が机に広げられる。
「奪われた黒銀貨は五枚」
警部補が言う。
「そして破滅のコインが三件の現場と屋敷に現れた」
アレクシスが静かに呟く。
「一致しますね」
ミレイアが言う。
「五人。1枚ずつ」
警部補が続ける。
「事件後半年以内に資産を急増させた四人」
霊具商人。
投資家。
古物商。
そしてラドック。
「偶然ではない」
沈黙。
霧の向こうで鐘が鳴る。
「破滅の時は近い」
ガルム警部補は去る。
◇◇◇
その夜。
屋敷の書斎。
ラドックは一人、酒をあおる。
手が震える。
■過去の記憶
十年前。
湿った土の匂い。
汗と泥。
シャベルの音。
「もう少しだ」
若い声。
坑道の中、五人がいた。
顔は布で隠している。
だが互いを知っている。
ラドックは地図を持っていた。
「この位置で間違いない」
金庫の真下。
床石を押し上げた瞬間。
冷たい空気。
光。
金庫室。
山のような金。
誰かが笑う。
だがラドックの目は別の棚に向く。
黒く鈍い光。
小箱。
「なんだこれは」
開ける。
五枚の黒銀貨。
古くて汚い。
だが価値は分からない。
「持っていくか?」
「証拠になる」
「いや、成功の記念だ」
笑い声。
五人は一枚ずつ懐へ入れる。
「これで俺たちは一蓮托生だ」
誓いのように。
だが警報が鳴った。
囮が走る。
「時間を稼ぐ!」
叫び。
地下へ戻る四人。
振り返らない。
振り返らなかった。
回想が途切れる。
ラドックの手からグラスが落ちる。
砕ける音。
「俺は……悪くない」
だが脳裏に焼きつく。
あの夜、逃げた四人の足音。
■ 現在
屋敷内部で現れた破滅のコイン。
三人は死んだ。
残るはラドック。
五枚のうち何枚が戻ったのか。
誰が回収したのか。
ラドックは静かに考える。
「黒銀貨は成功の証だ」
霧が窓を覆う。
三日目が近づく。
盤上の駒は揃った。
そして誰かが、ラドックを狙っている。




