表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
霧都ヴァル・ロンドリア探偵事件簿ー怪物に戸籍のある街で  作者: 虫松
破滅のコイン

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

17/40

第3話 屋敷の影

港湾区の霧は重い。


石畳の坂を上った先に、その屋敷はあった。


三階建て、灰色の石造り。

窓枠には黒鉄。

門には市警の警官が二名立つ。


扉が開く。


現れたのは、

バルトロメオ・ラドック(52)。

港湾区で名の知れた高利貸し。


贅沢な絹の上着。

だが目の下には濃い隈。


「よく来てくれた……」


声は震えている。


「案内しよう。ここが私の屋敷だ」


その背後に、アレクシスとミレイアが入る。


■ 屋敷内部

大理石の玄関ホール。

二階へ続く螺旋階段。

壁には高価な絵画。


「十年前から、少しずつ手を入れてな」


ラドックは言う。


だが“十年前”という言葉に、

アレクシスの視線がわずかに動く。


応接間

深紅の絨毯。

重厚な暖炉。


「ここで客を迎える」


書斎

金庫、帳簿棚。


「財務は秘書が管理している」


扉の横に、若い女性が一礼する。


「秘書のクラリス・モーンです」


感情の見えない瞳。


食堂

長机。

すでに数名が控えている。


ラドックが紹介する。


① 執事:ハロルド・ヴェイン(68)

「三十年仕えてくれている」


無表情。

視線は主の背後へ流れる。


② 秘書:クラリス・モーン(29)

「財務を任せている」


完璧に整った姿勢。


③ 警備責任者:ドーラン(41)

「元傭兵だ。今回の警備強化を任せた」


筋肉質。

屋敷内部の巡回計画を把握。


④ 書庫管理人:エドウィン(55)

「最近雇った。古銭に詳しい」


視線が一瞬、アレクシスの懐を見る。


⑤ 遠縁の親戚:マリア・ラドック(33)

「身寄りのない娘でね」


財産に興味を隠さない目。


ミレイアが小さく息を呑む。


空気が重い。


恐怖。


だがそれだけではない。


焦燥。

隠蔽。

罪悪感。


誰かが、何かを抱えている。


彼女はアレクシスに囁く。


「この屋敷、静かすぎます」


アレクシスは頷く。


「守られている場所ほど、内部に隙が生まれる」




深夜二時。


巡回中の警官が音を聞く。


カラン。


金属が転がる音。

廊下の端。

誰もいない。


だが床に黒ずんだ銀貨。


破滅のコイン。


ラドックの持つものとは別。


二枚目。

窓は施錠。

侵入痕なし。


屋敷内部にあった。


翌朝。

ラドックの寝室の扉に刻まれた文字。


【三日目に破滅する】


外部からは不可能。

警官は証言する。


「廊下は常に視界にありました」


ラドックが叫ぶ。


「中にいる!」


「犯人は屋敷の者だ!」




◇◇◇




■ 市警本部

ガルム警部補 は三人の死を再検証する。


霊具商人。

投資家。

古物商。


接点はない。


だが十年前まで遡る。

同じ銀行の利用記録。


同じ港湾倉庫地区への出入り。


そして。


ラドックもまた、その銀行を利用していた。


十年前。


その直後から、資産が急増。


出所不明。

税記録曖昧。

警部補が呟く。


「偶然にしては多すぎる」




夜。


アレクシスは食堂の長机に紙を広げる。


怪しい人物を書き出す。

屋敷内の容疑者は五名。


① 執事:ハロルド・ヴェイン(68) 三十年仕える老執事。

屋敷の鍵をすべて管理。 十年前の主の転機を知っている。 無表情。


② 秘書:クラリス・モーン(29) 三年前から雇用。

財務管理担当。 資産流入の記録を扱う。 必要以上に冷静。


③ 警備責任者:ドーラン(41) 元傭兵。 今回の警備強化を主導。

屋敷内部構造を把握。 破滅のコインを発見した張本人。


④ 書庫管理人:エドウィン(55) 最近雇われた。 古銭に詳しい。

破滅のコインを「珍しい」と呟いた。


⑤ 遠縁の親戚:マリア・ラドック(33) 突然現れた相続候補。

財産に関心が強い。 三人の被害者の名前を聞いたとき、

微妙に表情が動いた。


アレクシスは静かに答える。


「壁への文字を書いた人物は、この中にいる。

外部、侵入は困難」


「ならば内部犯行」


「少なくとも協力者がいる」


ラドックが震える。


「誰なんだそいつは、」


沈黙。


アレクシスがゆっくりと問う。


「十年前、何があったのですか」


「昔の話だ」


「どうやって財産を築いたのです?」


「……運だ」


即答。


だが目は逸れる。


嘘だ。


ミレイアが感じる。


“裏切り”


その感情は、ラドックから滲み出ている。


「三日目」


低く呟く。


「犯人は、期限を切っている」


霧は濃くなる。

そして破滅のコインの三日目が近づいている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ