第2話 ヴァン・ロンドリア連続殺人事件
霧都ヴァン・ロンドリア
街ではすでに、それは正式名称になっていた。
『破滅のコイン』
新聞がそう書き、民衆がそう囁き、子どもまでがそう呼ぶ。
だが、それが何なのかは、まだ誰も知らない。
材質も年代も、由来も不明。
ただ一つ。
三件の殺人現場に、同じ古びた黒ずんだ銀貨が残されていた。
それだけだ。
被害者(三名死亡)
■ 霊具商人 エレノア・ヴァルシア(47)
旧霧街区の店舗兼住居で焼死。
魔導炉の異常燃焼。事故の可能性も否定できず。
■ 投資家 ルーカス・グレイナー(44)
再開発地区の桟橋から転落し溺死。
外傷は軽微。第三者関与は断定できない。
■ 古物商 ヨナス・ヘルム(61)
旧市街の店舗裏で刺殺。
唯一、明確な殺人事件。
そして三件すべてに
“破滅のコイン”。
生存者
港湾区の高利貸し
バルトロメオ・ラドック(52)
重厚な屋敷に住む、金貸し。
その男が、星霧探偵事務所を訪れた。
顔色は土気色。
目は落ち着きなく揺れている。
彼は言う。
「俺は狙われている」
コートの内側から封筒を取り出す。
机に置く。
震える指。
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三日目
破滅は巡る
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差出人なし。
筆跡は崩してある。
そしてもう一つ。
彼は懐から黒ずんだ銀貨を出す。
「これが届いた」
「三日前だ」
アレクシスは黙って観察する。
摩耗が激しい。
刻印は判別困難。
由来は不明。
警察の鑑定もまだ結論を出していない。
街が“破滅のコイン”と呼んでいるだけだ。
「警察には?」
「もう屋敷に警備を置いた!」
ラドックは声を荒げる。
「俺は死にたくない!」
ミレイアが静かに尋ねる。
「なぜ狙われると思うのです?」
一瞬の沈黙。
わずかな逡巡。
「……知らん」
だが目が逸れる。
アレクシスは見逃さない。
「理由に心当たりは?」
「ない」
即答。
だが呼吸が浅い。
汗が滲む。
恐怖だけではない。
何かを隠している者の反応。
しかし今は追及しない。
彼は依頼人だ。
そしてまだ、生きている。
市警本部
ガルム警部補 は報告を受ける。
「脅迫文か」
「屋敷の警備は三交代制だ」
「外部からの侵入は不可能に近い」
だが警部補は低く呟く。
「不可能は、三人を止めなかった」
街は騒ぐ。
酒場では賭けが始まる。
「次は誰だ」
「四人目は確実だ」
新聞は煽る。
破滅のコイン
四人目は現れるのか?
だが
殺人の被害者は三人。
そして一人は生きている。
理由は不明。
接点も不明。
順番も不明。
ただ共通するのは、
黒ずんだ一枚の銀貨。
こうして。
星霧探偵社による、
霧都ヴァル・ロンドリア探偵事件簿
『破滅のコイン』事件が幕を開ける。




