第7話 犯人の告白
エヴァンの指が震える。
「違う……俺は……」
その瞬間、張り詰めていた空気が裂けた。
「違う、ですって?」
リディア・クロウリーが立ち上がる。
椅子が激しく床を擦る。
「父はあなたを信じていたのよ!」
震える声。
「才能があるって、誇らしそうに話していた!」
エヴァンは顔を上げられない
マルコム・レイヴンウッドが鼻で笑う。
「誇り、ねぇ。あの男は利用価値でしか人を見なかった」
老執事ハロルド・ベインズが低く反論する。
「お嬢様の前でそのような」
「事実でしょう、ハロルド」
マルコムの目が鋭く光る。
「研究の功績を誰が横取りしていたか、協会では噂になっていましたよ」
リディアがエヴァンを睨む。
「だから殺したの?」
沈黙。
ミレイアが一歩前へ出る。
彼女はそっと目を閉じる。
「あなたは……怒っていた」
静かな声。
「でも、それだけじゃない」
エヴァンの呼吸が荒くなる。
「認められたかった」
「奪われたと思った」
「でも本当は」
彼女は目を開ける。
「怖かったんですね」
その言葉に、エヴァンの肩が揺れた。
「師に否定されるのが」
「才能がないと、証明されるのが」
「違う……!」
叫びが書斎に響く。
アレクシスが静かに告げる。
「師はあなたの不正に気づいた」
「霊術記録の改竄。成果の水増し
告発される前に、あなたは殺した」
「そして幽霊に罪をなすりつけた」
ガルム警部補が一歩前に出る。
「地下霊室での圧迫痕。遮断布の繊維。
結び癖、補充インク」
「言い逃れはできん」
リディアの瞳に涙が滲む。
「父は……あなたを家族みたいに……」
エヴァンの膝が崩れる。
「家族?」
乾いた笑い。
「俺はいつも影だった」
「紹介されるときは“優秀な弟子”」
「でも名前は出ない」
「研究発表は全部、師の功績」
涙が落ちる。
「俺は……幽霊になりたかっただけだ」
「存在を恐れられる側に、なりたかった」
書斎が静まり返る。
マルコムは視線を逸らす。
ハロルドは目を閉じる。
リディアは拳を握り締めたまま、
何も言えない。
アレクシスは冷ややかに、だが静かに言う。
「幽霊は責任を取らない」
「だが人間は取れる」
一瞬の沈黙。
「ならば生きて償え」
ガルム警部補が手錠をかける。
金属音がやけに大きく響いた。
霧の街は、再び静寂を取り戻す。
■ ■■
夜。
星霧探偵社。
チェス盤の前。
黒と白い駒が静かに並ぶ。
ミレイアが問う。
「本当に幽霊はいないんですか?」
アレクシスはナイトの駒を動かす。
コトリ、と軽い音。
「いるさ」
駒が静かに置かれる。
「だが犯人にはならない」
少しだけ間を置き、続ける。
「罪を選ぶのは、いつも生きている者だ」
霧の向こうで、鐘が鳴る。
霧都ヴァル・ロンドリア。
怪物に戸籍がある街で。
偏見という怪物が、また一つ倒れた。
つづく




