第5話 アレクシスの過去
夜。
炎に染まる霧都。
星霧探偵事務所。
出発の準備をしながら。ミレイアが静かに言う。
「アレクシス……」
「ドクター・ハロルドって……」
「もしかして、知っているんですか?」
沈黙。
アレクシスは窓の外を見る。
燃える街。
遠くで機動隊の銃声。
そして静かに言う。
「知っている」
「いや……」
帽子をかぶりながら
彼は言う。
「知りすぎている」
ミレイアが驚く。
オズワルドも振り向く。
アレクシスは続ける。
「ドクター・ハロルドは……」
「昔の俺の恩師だ」
空気が凍る。
ミレイア
「え……?」
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■過去の回想
魔導科学研究所
数年前。
霧都郊外。
巨大な施設。
魔導科学研究所。
魔法と科学を融合させる
霧都最高の研究機関。
そこで働いていた若き研究者。
アレクシス・グレイヴン。
そして
研究所の天才。
ドクター・ハロルド。
彼は若き研究者たちの憧れだった。
理論。
魔導工学。
精神科学。
すべての分野で突出した頭脳。
アレクシスも彼を尊敬していた。
だが
ハロルドには一つの研究があった。
それが
人間と怪物の感情研究。
危険な研究
ハロルドは言っていた。
「争いの原因は」
「力ではない」
「感情だ」
彼は研究していた。
怒り。
恐怖。
憎悪。
それらを魔導エネルギーに変える方法。
最初は理論研究だった。
だが
次第に変わる。
研究は人の心を
直接操作する実験へ変わった。
感情を増幅する。
怒りを引き出す。
恐怖を植え付ける。
アレクシスはドクター・ハロルドへ反対意見をした。
「ドクターそれは危険です」
「都市で使えば」
「社会が崩壊します」
だが
ハロルドは笑った。
「だから面白い」
その笑みは
もう
科学者のものではなかった。
ある夜。
研究所の実験室。
ハロルドは
写真を見せた。
黒い石。
古代魔導文明の遺物。
ハロルドは言った。
「これは素晴らしい」
「感情を増幅する触媒だ」
アレクシスは
背筋が凍った。
「これを都市で使えば」
「戦争になります」
ハロルドは静かに言う。
「そうだ」
「戦争になる」
彼は微笑む。
「だが」
「その時」
「人間の本質が見える」
アレクシスは叫んだ。
「狂っている!」
研究所の空気が凍る。
ハロルドは言った。
静かに。
ゆっくり。
「アレクシス」
「君は優秀だ」
「だが」
「一つだけ間違っている」
彼は写真の黒い石を眺めながらいう。
「世界は」
「論理では動かない」
「感情だ」
別れ
その日。
アレクシスは研究所を去った。
ハロルドの研究を止めることはできなかった。
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そして今。
星霧探偵事務所。
アレクシスは言う。
「だから」
「俺が止める」
ミレイア
「……」
オズワルド
「師匠の先生がドクター・ハロルドということは師匠の師匠?」
アレクシスは扉へ向かう。
「ガルム警部補へ連絡だ」
外では炎。煙。銃声。
霧都はまだ戦っている。
アレクシスは机の上に置かれた
通信魔導水晶に手をかざす。
古い魔導装置。
水晶球が
青く光る。
魔導通信回線が開く。
ノイズ。
そして
荒い声が聞こえる。
「……こちら」
「機動隊指揮」
「ガルム警部補だ」
その背後では
激しい戦闘音。
盾がぶつかる音。
銃声。
怒号。
機動隊がまだ
一万人の暴徒と戦っている。
アレクシスは言う。
「ガルム警部補」
一瞬の沈黙。
ガルムの声が低くなる。
「グレイヴン氏か」
「今は忙しい」
アレクシスは冷静に答える。
「この暴徒の元凶が分かった」
周囲の音が一瞬止まる。
ガルム警部補
「……どこだ」
アレクシスは言う。
「白亜党議員会館」
ミレイアが横で頷く。
オズワルドも息を呑む。
アレクシスは続ける。
「おそらくそこに、装置がある」
「黒い石碑」
「都市の魔力を吸い上げている」
通信の向こうで
ガルム警部補が唸る。
「なるほどな」
「だから街が狂ってやがる」
アレクシスは言う。
「ドクター・ハロルド」
「そこにいる」
その名前を聞いた瞬間
ガルムの声が鋭くなる。
「狂った科学者野郎か」
アレクシス
「この戦争の中心だ」
「奴を止めない限り」
「霧都は終わる」
短い沈黙。
遠くで爆発。
そして
ガルム警部補が言う。
「了解した」
「機動隊を再編する」
ガルム警部補の声は
戦場の指揮官の声だった。
「議員会館へ向かう」
アレクシスは静かに言う。
「そこで合流だ」
ガルム警部補
「グレイヴン氏」
「死ぬなよ」
アレクシスは答える。
「その台詞」
「そのまま、そちらへ返す」
通信が切れる。
水晶球の光が消える。
静寂。
ミレイアが言う。
「警察機動隊と…」
「合流するんですね」
アレクシスはコートを羽織る。
帽子をかぶる。
「街の戦争は」
「もうすぐ終わる」
オズワルド
「師匠」
アレクシスは扉を開く。
夜の霧都。
炎。
瓦礫。
煙。
遠くに見える白亜党議員会館。
そこが
この戦争の中心。
アレクシスは言う。
「行くぞ」
「♚キングの城だ」
そして
霧の中へ歩き出す。
同じ頃。
装甲車の上で
ガルム警部補が
叫ぶ。
「機動隊!」
「進路変更!」
「目標!」
彼は牙を見せる。
「白亜党議員会館だ!」
機動隊の装甲車が一斉に動き出す。
霧都の未来をかけた
最終決戦が始まろうとしていた。




