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霧都ヴァル・ロンドリア探偵事件簿ー怪物に戸籍のある街で  作者: 虫松
首吊る部屋

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12/40

第5話 謎の解体と推理

霧の夜。


星霧探偵社の灯りは、いつもより低い。

チェス盤上に並ぶ白と黒の駒。


アレクシス・グレイヴンは一人、

チェス盤の前に座っている。


ガルム警部補は壁にもたれ、腕を組む。

ミレイア・ルーンベルは窓辺で霧を見つめている。


駒が、ひとつ動く。


アレクシスは静かに呟く。


「犯人は――」


□白のポーンを前へ。


「霊術知識を持つ」


✚ビショップを滑らせる。


「建物の密室構造を理解している」


♞ナイトが跳ぶ。


「被害者に近しい」


♕クイーンを中央へ。


「九時前後に室内にいたように見せられる」


♖ルークを一直線に進める。


「物理的に絞殺可能な力を持つ」


盤面は静かに狭まる。


「霊障を演出する意図がある」


指先が止まる。


「霊気操作が可能」


ミレイアが振り返る。


さらに駒が進む。


「霊気遮断布を扱える」


「船乗り結びを習得している」


「遺書に後から手を加えられる」


駒がぶつかり、■黒のポーンが落ちる。


静寂。


ガルム警部補が低く言う。


「……誰だ」


アレクシスは答えない。


ただ盤面を見下ろし、指先で倒された

駒を一つ起こす。


「人はなぜ密室を作るか」


静かな声。


「閉ざすためではない」


「“物語”を完成させるためだ」


ミレイアが息を呑む。


霧が窓を叩く音だけが響く。


「首吊りは象徴だ」

「幽霊は装飾だ」

「遺書は幕引きだ」


アレクシスは♕クイーンを横に滑らせる。


「だが、盤上には必ず“無理”が残る」


彼は♚黒のキングを指で軽く押す。

逃げ場はない。


「力は嘘をつかない」

「時間も嘘をつかない」

「霊気でさえ、痕跡を残す」


振り返る。


その瞳は冷たく、しかし澄んでいる。


「怪異を語る者ほど、論理を恐れる」

「幽霊に罪を着せた瞬間」


一歩、踏み出す。


「あなたは“人間”に戻った」


沈黙。


霧の向こうで、遠く鐘が鳴る。


アレクシスは盤上の♞ナイトを立て直し最後に告げる。


「霧は視界を奪う」

「だが真実までは隠せない」


指先が、静かに♚キングを倒す。

コトリ、と乾いた音。


「幻想はここまでだ」


そして、低く、鋭く。


「理性の光から逃げられる怪物は存在しない」


一瞬の静止。


「これは怪談ではない」

「証明だ」


わずかな微笑。


「謎は解けたチェックメイトだ」


ヴァル・ロンドリアの霧は濃い。

だが、包囲は完成しつつある。

次は最終推理の大演説だ。


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