第4話 白亜党の女
霧都の霧が流れる。その霧の向こう。
白亜党本部。
重厚な石造りの建物の奥に
静かな会議室があった。
机の上には資料の山。
怪人犯罪統計。
怪人医療費。
怪人社会コスト。
その前に立つ女性。
銀の眼鏡。整った黒いスーツ。
エリザ・クレイド。
彼女は静かに資料を整理する。
幹部たちは沈黙していた。
クレイドが言う。
「怪人は社会コストが高い」
机の上に新しい資料を置く。
怪人分布図。
警察内部資料。
彼女は続ける。
「これは感情ではなく」
一拍。
「統計です」
議員の一人が言う。
「だが怪人失踪事件は問題になっている」
「新聞が騒いでいる。これ以上は危険でないか」
クレイドは落ち着いた声で答える。
「問題ありません」
彼女は一枚の紙を取り出す。
そこには
次の対象と書かれていた。
クレイドは言う。
「整理は段階的に行います」
「社会に影響の少ない対象から」
「危険対象へ」
彼女は静かに名前を読む。
「次の対象は」
一拍。
「警察関係者です」
議員たちがざわめく。
「警察だと?」
クレイドは冷静に言う。
「はい」
彼女は資料を回す。
そこにはガルム警部補の名前。
議員の一人が言う。
「彼は人間の市民を守るものだろう」
クレイドは首を振る。
「いいえ」
彼女は資料を示す。
極秘資料。
怪人登録記録。
クレイドは言う。
「彼は怪人側です」
沈黙。
「警察内部の怪人でもっとも影響力があり」
「怪人側の情報源」
「非常に危険です」
一人の幹部が言う。
「証拠は?」
クレイド
「必要ありません」
冷たい声。
「統計上危険です」
その時。
部屋の扉が開く。
ギィ…
白衣の男が入ってくる。
若い。
三十前後。
長身で細身。
乱れた髪。
白衣。
眼鏡。
そしてその瞳は
異様なほど鋭かった。
ドクター・ハロルド。
幹部の一人が言う。
「来たか」
ハロルドは会議室を見渡す。
資料。
統計。
政治家。
彼は小さく笑う。
「また怪人の話ですか」
クレイドは言う。
「ドクター・ハロルド」
「装置の準備は」
ハロルドは椅子に腰掛ける。
「問題ありません」
「怪人消滅機は完璧です」
彼は興味なさそうに聞く。
「次は誰です」
クレイドは答える。
「ガルム警部補」
沈黙。
ハロルドの目が少し細くなる。
「警察ですか。」
クレイド
「彼は怪人です。」
「警察内部に影響力があり」
「とても危険です」
ハロルドは静かに笑う。
「面白い」
彼は資料を見る。
そこには警察の写真。
そして
別の写真。
星霧探偵事務所。
ハロルドの指が止まる。
写真に写る男。
長いコート。
鋭い目。
アレクシス・グレイヴン。
ハロルドは小さく呟く。
「なるほど」
彼の頭の中で
すべてが繋がる怪人失踪事件。
そして
霧都最高の探偵。
ハロルドは眼鏡を押し上げる。
その瞳が光る。
「つまり」
彼は静かに言う。
「これは」
一拍。
「彼との次の対局になる」
クレイドが聞く。
「彼?」
ハロルドは微笑む。
「霧都で一番厄介な男ですよ」
彼は立ち上がる。
白衣が揺れる。
「いいでしょう」
「盤面を広げましょう」
彼は出口へ歩く。
扉の前で止まり
振り返る。
「ガルム警部補の処理は簡単です」
そして
小さく笑う。
「ですが」
「この探偵がどう動くか」
一拍。
「それは非常に興味があります」
霧都の霧が、窓の外で揺れる。見えない場所で怪人消滅機が静かに
次の影を狙っていた。




