第4話 証拠品の再検証
アレクシス・グレイヴンは言った。
「推理は盤上だけで完成しない」
「現場にて証拠品を洗い直す」
霧の夜。
三人は再び現場へ戻る。
■ 証拠品再検証
① 遺書(自筆鑑定中)
机上に置かれた一枚の羊皮紙。
■ 表面所見
文体は被害者本人に酷似
思想傾向も一致
“霊に取り憑かれた”という告白文
だが
■ 不自然な点
アレクシスは紙を傾ける。
「筆圧が変化している」
前半は強く、一定。
後半はわずかに震え、弱い。
ガルム警部補が言う。
「精神の動揺では?」
「違う」
アレクシスは指摘する。
「ペン先の角度が変わっている」
つまり
「書き手の姿勢が変わったか」
あるいは
「書いた人物が違う」
さらに。
■インク分析
二種類のインクが混在
色味はほぼ同
乾燥時間に差異
ミレイアが囁く。
「……途中で書き足された?」
アレクシスは頷く。
「“完成品”ではない」
② 首吊り縄
梁から回収された縄。
■ 出所
被害者所有の倉庫保管品
古いが十分な強度
アレクシスの最大の違和感
「結び目だ」
ガルム警部補が眉をひそめる。
「特殊か?」
アレクシスは示す。
「船乗り結び」
港湾労働者や水夫が使う技法。
「被害者は海に出た経験がない」
使用人にも確認済み。
「この結びを知る人物が犯人だな」
③ 壁の“怨”の文字
血ではない。
■ 成分
霊気増幅塗料
霊術儀式用に使用される素材
乾燥が早い
ガルム警部補が低く言う。
「市販はされていないな」
ミレイアが目を閉じる。
「指で書いています」
筆ではない。
掌紋の微細な跡あり。
さらに。
「文字の高さがやや低い」
被害者の身長なら、もっと上になる。
「書いたのは別人」
そして、
「恐怖を煽るための演出」
■ 三点の共通項
アレクシスが整理する。
遺書は完全自筆ではない可能性
縄は被害者が知らない結び
“怨”は霊術知識を持つ者の演出
ガルム警部補が言う。
「全部、意図的だな」
「そうだ」
アレクシスは静かに答える。
「幽霊に見せるための工作」
ミレイアが震える声で言う。
「この部屋には……殺意よりも“焦り”が残っています」
アレクシスは窓を見た。
「証拠は揃った」
あとは
“誰がそれを組み上げたか”だけだ。
最終推理前夜。
霧は、まだ晴れない。




