第3話 現場にない毒殺
列車は走り続けている。
黒い魔導鉄道レム=エクスプレス。
霧の海を切り裂く巨大な鋼鉄の獣。
その内部で。
一人の男が殺された。
魔導工学者
アルトゥール・レンブラント。
完全密室。
毒殺。
だが
その毒が見つからない。
個室車両。
アレクシスが遺体を調べている。
ガルム警部補が腕を組む。
「どうだ」
アレクシスは答える。
「奇妙ですね」
ミレイア
「何がですか?」
アレクシス
「神経毒の症状は確かにある」
「呼吸停止」
「瞳孔反応」
「筋肉の硬直」
ガルム
「だが毒がない」
アレクシスは静かに言う。
「毒は存在します」
オズワルド
「え?」
アレクシス
「ただし」
一拍。
「形が違う」
彼は窓を見る。
外では
魔導機関から吐き出される蒸気が
霧と混ざりながら流れている。
白い蒸気。
アレクシスは言う。
「毒は」
「空気です」
沈黙。
ガルム
「空気?」
ミレイア
「まさか…」
アレクシス
「神経ガス」
オズワルド
「ガス!?」
その時。
背後から拍手が聞こえた。
ドクター・ハロルド。
「見事だ」
「そこまで早く辿り着くとは」
アレクシスは振り向かない。
ハロルド
「神経毒は」
「液体とは限らない」
「気体化すれば」
「証拠は残りにくい」
ガルム
「だが」
「どうやって密室に入れる」
アレクシスは机の上の紙を見る。
列車の図面。
魔導機関の設計図。
そこには
無数の線。
配管。
ミレイア
「これは…」
オズワルド
「管?」
アレクシス
「蒸気管です」
図面を指差す。
「魔導蒸気は」
「機関車から各車両へ送られる」
「暖房」
「圧力調整」
「機械補助」
その配管は
全部屋に接続されている。
ガルムが言う。
「つまり」
アレクシス
「蒸気に毒を混ぜれば」
「全ての部屋に届く」
ミレイア
「神経ガス…」
ハロルドが微笑む。
「そして」
「密室でも」
「侵入可能」
オズワルドが震える。
「じゃあ」
「犯人は機関室?」
アレクシスは首を振る。
「まだ分かりません」
彼は図面を見つめる。
そして
静かに言う。
「ですが」
ガルム
「なんだ」
アレクシス
「この事件」
「少し考え方を変える必要があります」
ハロルドが楽しそうに目を細める。
「ほう?」
アレクシスは言う。
「凶器を探していました」
「毒」
「針」
「食事」
「しかし」
図面を指差す。
「違う」
沈黙。
アレクシス
「凶器は」
「もっと大きい」
ミレイア
「え?」
アレクシス
「この事件の凶器は」
ゆっくり言う。
「この列車です」
静寂。
ガルム
「列車…?」
アレクシス
「魔導蒸気」
「配管」
「密閉車両」
「換気制御」
「すべてが揃っている」
彼は窓の外を見る。
霧の中を走る黒い機関車。
「このレム=エクスプレスは」
「走る密室」
「そして」
「巨大な毒ガス装置にもなる」
オズワルド
「そんな…大掛かりな凶器なんですか」
ハロルドが静かに笑う。
「素晴らしい」
彼は拍手する。
「実に美しい推理だ」
アレクシス
「嬉しくありません」
ハロルドは言う。
「だが」
「まだ半分だ」
アレクシス
「分かっています」
ガルム
「何が半分だ」
アレクシスは言う。
「毒の入り方は分かった」
「しかし」
「誰が」
「なぜ殺したのか」
沈黙。
ハロルドは微笑む。
「動機の解明それが」
「ゲームの本番だ」
黒い魔導列車は
霧の中をひたすら走り続けていた。




