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【推理〔文芸〕21位】霧都ヴァル・ロンドリア探偵事件簿ー怪物に戸籍のある街で  作者: 虫松
魔女裁判

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第4話 笑う男

霧の森。


三人は木々の間を走っていた。


前方。


黒いフードの男たち。

彼らは一人の怪人女性を担いでいる。

猫耳の少女。


意識はない。


オズワルドが叫ぶ。


「止まれ!」


男たちは振り向く。


しかし逃げない。


ゆっくりと道を開ける。

その中央に。

一人の男が立っていた。


白衣。

細い身体。

長い指。

丸い眼鏡。


そして。


鋭すぎる瞳。


ドクター・ハロルド。

彼は拍手した。


パチ、パチ。


「素晴らしい」


軽く笑う。


「さすがだアレクシス」


霧が流れる。


アレクシスは立ち止まった。


表情は変わらない。


「やはりお前か」


ハロルドは肩をすくめた。


「いやいや」


「私はただの見学者だ」


後ろの男たちを見る。


「魔導音波の実験の進行状況を確認していただけだ」


オズワルドが怒鳴る。


「誘拐しておいて何が実験だ!」


ハロルドは眼鏡を押し上げた。


「誘拐?」


少し考えるふりをする。


「そうだな」


「社会学的には」


「そう呼ぶのかもしれない」


ミレイアが小さく震える。


「この人……」

「感情が」

「楽しんでる」


ハロルドは彼女を見る。


「おや相変わらず優秀だ」


「共感体質のお嬢さん」


そしてまたアレクシスを見る。


「だが驚いた」


「もう少し早く来ると思っていた」


アレクシスは言う。


「鐘の音」

「魔導音波」

「黒い石碑の音波増強」

「魔導研究所での、お前の研究だ」


ハロルドは笑う。


「正解」


指を鳴らす。


「満点だ」

「さすが霧都一の探偵」


オズワルドが怒る。


「だったら止めろ!」


ハロルドは楽しそうに首を傾げた。


「なぜ?」

「実験は順調なのに」


オズワルドが言葉を失う。


ハロルドは森を見回す。


霧。

黒い石碑の影。

そして言う。


「人間は面白い」


「ほんの少し」


「音を調整するだけで」


指を軽く振る。


「恐怖」


「憎悪」


「正義感」


「全部」


「増幅する」


彼は微笑んだ。


「怪人を憎む社会」


「実に美しい」


アレクシスが言う。


「最低だな」


ハロルドは声を出して笑った。


「相変わらずだ」


「君は道徳家だ」


少し近づく。

二人の距離は数歩。


「だが」


「現実は違う」


静かな声。


「人間社会は」


「いつだって」


「こうやって動く」


オズワルドが言う。


「止めますよ」


ハロルドは彼を見る。


そして笑う。


「坊やの君が?」


「可愛いね」


再びアレクシスを見る。


「弟子は勇ましい」


「だが」


「師匠はどうだろう」


アレクシスは何も言わない。


ハロルドはゆっくり言った。


「止めてみたまえ」


「探偵」


微笑む。


「君はいつも」


「真実に辿り着く」


少し間を置く。


「ただ」


眼鏡の奥の瞳が光る。


「一歩」


「遅い」


沈黙。


霧が流れる。

ハロルドは背を向けた。


「行こう」


フードの男たちが動く。


怪人女性を担いだまま。


森の奥へ。

去り際に。


ハロルドは振り向いた。


「そうだ」


楽しそうに言う。


「アレクシス」


「これは」


霧の向こう。


黒い石碑。


「まだ」


「序章だ」


そして。


男たちは霧の中へ消えた。


オズワルドが拳を握る。


「くそ……」


ミレイアが呟く。


「街の感情が」


「どんどん悪くなってる」


アレクシスは黒い石碑を見る。


そして静かに言った。


「分かっている」


霧の谷。


シュトレゴイカバール。

この村で。

本当の魔女裁判が始まろうとしていた。

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