プロローグ 星霧探偵社(せいむいたんていしゃ)
霧都ヴァル・ロンドリア
この世界には、三つの真実がある。
一つ。
人間は万能ではない。
一つ。
魔法は奇跡ではない。
そして最後の一つ。
怪物は夜だけに現れるとは限らない。
大陸西端に位置する魔導都市
霧都ヴァル・ロンドリア
街並みは煉瓦造りの長屋と尖塔。
煤煙を吐く魔導機関塔。
石畳を走る魔導蒸気車。
霧が年中漂う灰色の空。
見た目は、どこか古き英国ロンドンに似ている。
だが違う。
街角では角のある亜人が新聞を読む。
石橋の下では水棲魔族が契約交渉をする。
夜になれば屋根の上を魔獣が跳ぶ。
吸血鬼は議会に席を持ち、
人狼は警備隊に所属し、
悪魔は法的に契約業を営む。
ここは怪物に戸籍がある世界。
しかし。
差別は消えない。
偏見は消えない。
魔法はあっても、理性は希少品だ。
だからこそ、この都市には必要だった。
「怪異を論理で解体する者」が。
霧の奥、旧天文観測塔。
塔の最上階、歯車と星図が並ぶ部屋。
そこに掲げられた銀の紋章。
《星霧異端調査局》
通称
星霧探偵社
“魔法は解体できる”と主張する異端者の拠点。
怪物の罪を暴くのではない。
怪物と人間の間にある“歪み”を暴く。
その局長の名は。
アレクシス・グレイヴン
かつて王立魔導学院で“魔法理論の革命児”と呼ばれ、
同時に“神を否定した男”と糾弾された人物。
彼の信条は一つ。
「魔法に奇跡はない。あるのは誤認と誤差だ」
彼は今日もチェス盤を前に霧を眺めていた。




