第3話:暴落の予言と、夜の蝶
ライブドアショックの予兆
美月に「何者?」と問い詰められた翌日から、俺を取り巻く空気は一変した。 学校一の令嬢である彼女が、廊下ですれ違うたびに俺を凝視し、時には放課後の部室へ執拗に誘ってくるようになったからだ。
「蓮、昨日のポンドの動き……どうして調整が入るってわかったの? まるで未来を知っているみたいじゃない」
美月の瞳には、猜疑心と、それ以上の「好奇心」が渦巻いていた。 俺は彼女のノートPCを指差し、鼻で笑う。
「言っただろ、勘だよ。それより、ライブドアの株……まだ持ってるのか? 早く売らないと、火傷じゃ済まないぞ」
2006年1月、東京地検特捜部がライブドアに強制捜査へ入る――。 それが引き金となり、日本株全体がパニック売りに見舞われる「ライブドアショック」まで、あとわずかだ。
「ありえないわ。あの会社は時代の寵児よ? 堀江社長が失脚するなんて、誰が信じるのよ」
美月は反論するが、その指先は少しだけ震えていた。俺の「予言」が、ことごとく的中し始めているからだ。
新たなヒロイン、夜の街の誘惑
週末。俺は100万円を超えた軍資金をさらに増やすため、高校生には不釣り合いな「大人の場所」へと足を運んでいた。 向かったのは、六本木の裏通りにある会員制のバー。 ここで、3人目のヒロインとの出会いが待っていた。
「あら。ボウヤ、ここはジュースを飲む場所じゃないわよ?」
声をかけてきたのは、派手なブランド服に身を包み、いかにも「遊び慣れている」風貌の少女、リナだった。 彼女はこの界隈で読者モデルをしながら、金持ちの男たちを渡り歩く、クラスに一人はいる「早熟なギャル」だ。
「ジュースじゃない。……ここのオーナーに、面白い儲け話を持ってきただけだ」 「へぇー、生意気。その歳で儲け話? 面白いじゃん。アタシが聞いてあげようか?」
リナは面白がって俺の隣に座り、身を乗り出してきた。 彼女から漂う甘い香水と、隠しきれない若さのフェロモン。 前世の俺なら気圧されていただろうが、今の俺には「金」という名の絶対的な自信がある。
俺は彼女に、携帯で見れる最新のチャートを見せた。 「リナって言ったっけ。お前、今持ってる貯金、全部ドルに替えておけよ。一ヶ月後、お前の持ってるそのバッグが、10個買えるくらいの小銭にはなる」
「は? なにそれ、占い? ウケるんだけど!」
リナは爆笑したが、俺がポケットから取り出した「厚みのある封筒」を見て、その笑いが止まった。 中には、今日引き出したばかりの50万円。
「これ、今日のチップだ。俺の言うことを信じるなら、お前を『ただのモデル』以上のステージに連れて行ってやるよ」
俺は彼女の顎をクイと持ち上げ、不敵に笑う。 リナの瞳に、金への欲望と、俺という男への強烈な興味が灯ったのがわかった。
支配者の孤独と悦楽
帰宅すると、幼馴染の結衣が玄関の前で待っていた。 「蓮……最近、帰りが遅いよ。悪いことしてないよね?」
不安そうな結衣を、俺は優しく抱きしめる。 「悪いことなんてしてない。……お前との未来を、買ってるだけだよ」
結衣の温もり、美月の執着、そしてリナの野心。 2026年、誰にも見向きもされなかった俺が、今やこの世界の「中心」にいる。
数日後。 テレビの速報が流れた。 『東京地検、ライブドア本社を家宅捜索』
市場が阿鼻叫喚に包まれる中、俺の携帯が鳴った。美月からだ。 震える声で、彼女はこう告げた。
「蓮……あなたの言う通りにしたわ。持ち株、全部売っておいた。……私、あなたがいなきゃ、もうダメかもしれない」
モニターの中で、空売りを仕掛けていた俺の資産が、一気に1,000万円を突破した。




