第2話:初めての「力」の使い方
5万円が導いた、100万円の夜
モニターに表示されたポンド円のレートは、200円を突破し、なおも上昇を続けていた。 レバレッジ400倍という、2026年では考えられないほどの狂った倍率。5万円という元手は、わずか一晩で120万円の利益に化けていた。
「……ふっ、はははは!」
暗い部屋で、俺は一人笑い声を上げた。 時給800円のコンビニバイトなら、1,500時間働かなければならない金額。それが、未来の知識(答え)を知っているだけで、クリック一つで手に入る。
この120万をさらに複利で回せば、億まで時間はかからない。 だが、その前にやるべきことがある。 俺は翌日、利益の一部を現金で引き出した。
幼馴染への「恩返し」
放課後、校門の前で待っていた結衣は、俺の顔を見るなり頬を膨らませた。
「蓮! また授業中寝てたでしょ。先生に目つけられてるんだからね?」 「ごめん、ごめん。……お詫びと言っちゃなんだけど、今日は寄り道していかないか?」
俺が連れて行ったのは、駅前に新しくできたイタリアンレストランだった。 当時の女子高生が行くようなファミレスではない。大人たちがディナーを楽しむ、ドレスコードがあるような店だ。
「え、ちょっと蓮!? ここ、すごく高いよ……?」 「いいから。俺、実はネットの懸賞で大金が当たったんだ」
嘘は方便だ。俺は戸惑う結衣を強引に中へ誘い、コース料理を注文した。 運ばれてくる豪華な料理に、結衣の目がキラキラと輝く。
「おいしい……! こんなの初めて食べた!」
幸せそうに笑う結衣。2026年の世界で、生活に疲れ果て、愚痴ばかりこぼしていた彼女とは別人だ。 俺はこの笑顔を守るために、未来の知識を使うと決めた。
帰り道、俺は近くのデパートに立ち寄り、ショーケースの中からシルバーのネックレスを選んだ。 「これ、結衣に似合うと思って」 「……え、これって、有名なブランドの……無理だよ、受け取れない!」 「いいんだ。俺が、お前に受け取ってほしいんだよ」
俺が強引に首にかけてやると、結衣は顔を真っ赤にしてうつむいた。 「……ありがとう、蓮。一生、大事にするね」
小さな、、でも確かな独占欲。 金があれば、欲しかった笑顔も、憧れだった関係も、すべて手に入る。
第2のヒロイン:投資部の令嬢
翌日、俺は学校の片隅にある「経済研究部」……通称・投資部の部室のドアを叩いた。 そこには、この高校で最も美しく、そして最も冷徹と言われる令嬢、**美月**がいた。
彼女は、大手証券会社の重役を父に持つ、金融教育のサラブレッドだ。 ノートパソコンに向かっていた彼女は、入ってきた俺を一瞥して鼻で笑った。
「あら。一般生徒がこんなところに何の用? ここはお遊びの部活じゃないの。株のチャートも読めないなら、帰りなさい」
美月は、2005年当時の日本市場を楽観視していた。ライブドアを筆頭に、IT企業が日本を塗り替えると信じている。 だが、俺は知っている。あと数ヶ月で「ライブドアショック」が起き、日本の新興市場が崩壊することを。
「日経平均、今は強いけど……近いうちにホリエモンの会社、大変なことになるよ。あんまり新興株に突っ込まない方がいい」
俺の言葉に、美月の手が止まった。 彼女は鋭い視線で俺を射抜く。
「……面白い冗談ね。根拠は?」 「勘だよ。……あ、それと、ポンド円。205円で一回利確したほうがいい。その後、少し調整が入るから」
俺がそれだけ言って去ろうとすると、美月が立ち上がって俺の腕を掴んだ。
「待ちなさい……あなた、何者?」
俺の「全知」の知識が、学校一の令嬢の心を、早くも揺らし始めていた。




