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引退した最弱中年探索者、AIと融合して全属性魔法を極める  作者: 甲賀流


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第8話 ここからがお前の本当の試験だぜ



 電子音が鳴り響いた。


『測定開始』


 ホールの空気が張り詰める。


 オレは魔力測定器に右手をかざし、魔力を込める準備をした。


 体の奥から熱が湧き出る。


 魔力だ。

 俺の中にある魔力が滾っている。


 だが、これじゃおそらくDランク……よくて上位くらいのもの。

 合格基準のBランクにはほど遠い。


 そんな時――頭の奥で電子的な声が響く。


『ホスト、一つ方法があります』


 アルゴが俺に語りかけてくる。


『雷属性は測定系統と最も親和性が高く、魔力数値が出やすい傾向にあります』


(なるほど……つまり、雷を使えってことか)


『いえ、それだけでは出力が足りません。私が制御補助を行いますので、あなたは発動だけに集中を』


(だ、だけどそれじゃ、自分の実力で受かったとは到底……)


『ホスト、これが今の最善です。実力は探索者になってからでも磨けますから』


(……分かったよ、アルゴ)


 そもそも更新切れ後の探索者に対して、ハードルが異様に高すぎることが問題。


 こんなところで探索者の夢が潰えるくらいなら――俺はAIの力だって厭わない。


『同期率八十五パーセント。補助開始』


 わずかなノイズが頭の奥を駆け抜ける。


「おい、一式。いつまで突っ立ってんだ。早くやれよ」


 高良の声が飛んだ。

 周囲の視線が集中する。


「やっぱり怖気付いたのかもよ」

「ま、Bランク級とか、無理ゲーだもんな」

 

 笑いを含んだ空気が肌を刺す。


「あぁ、すぐやるよ」


 アルゴの呼吸に合わせて、魔力に雷の性質を加えていく。


 さぁ、測定だ。


 俺はかざした右手に全身全霊で込めた魔力を放つ。


 瞬間、青白い光が走った。

 雷鳴が弾け、測定器が悲鳴のような電子音を上げる。


 ピピピピピピピ――!


 頭上のディスプレイに数値が表示される。


 総魔力量:3800

 制御精度:A-

 推定探索者ランク:B中位


「なっ……!」


 一瞬、場の空気が止まった。


「バ、バカな……!」

「高良さんと同等の数値だぞ!?」

「嘘だろ……あの人元Dランクだったんじゃ……」


 ざわつきが波のように広がる。


 高良の顔がみるみる変化していく。

 怒りとも焦りともつかない色だった。


「おい一式……何をした?」


「別に。少し鍛えてただけ。ダンジョン記録士って、意外と体を使うんだ」


「ふざけんな……!」


 吐き捨てるような声。

 だが俺は淡々と装置から手を離す。


 コアの声が静かに響いた。


『測定完了。出力最適化は成功しました』


(……ありがとう、アルゴ)


 そうは言ったものの、俺自身、今の結果に納得していない。


 そりゃ自分の力じゃないからな。


 だがいつか、今の嘘が本当になるくらい……いや、それを塗り替えられるくらい――強くなってみせる。


 俺は心の中で一人、そう熱く誓った。



 その後、残りの試験は流れ作業だった。

 軽い反応速度の測定や制御チェック。


 高良も途中から横槍を入れず、ただただ事務的に進行していった。


 魔力測定以降、合格基準も引き上げは無し。

 だが、その沈黙が逆に不気味だった。


 

 * * *

 


 そして全員の試験が終わり、受験者は初めの魔力測定室で整列する。


 試験は全て終わり。


 その合否もまた、その時の試験官の方針次第。

 今ここで発表する者もいれば後日メールにて通達する者もいる。


 高良はどうするつもりだ?


 俺たち受験者に向かい合って立つ高良。


 だが魔力測定試験の時のようなギラつきというか、勢いはもうない。

 今はまるでこの試験に興味がなくなったかのように、彼の目は黒く、彩りを失っている。


「あー、これで一応、探索者証更新試験は一通り終えたわけだが……」


 気だるげな高良の言葉が途切れた。


 そして唐突にポケットからスマホを取り出し、画面を確認する。

 ゆっくりと顔を上げ、にやりと笑った。

 目に潤いが戻った瞬間でもあった。


「……いや、まだ終わりじゃねぇな」


 嫌な予感が背を走る。


「期限切れ後の更新は、筆記や測定だけじゃ足りねぇんだよ」


 視線が、真っすぐ俺を射抜く。


「……どういう意味だ?」


「あの時の並外れた魔力量……不正じゃねぇって証明してみせろよ」


「証明?」


「新しいダンジョンが現れた。しかもC級だ。これを俺と一緒に攻略しろ。それができたら、合格を認めてやる」


 探索者証更新試験で、実際にダンジョンへ?

 そんな事例、今まで一度もなかったはず。


 いや、だが試験の内容に関しては全てその時の試験官に一任されている。


 つまり禁止ってわけじゃないってこと、か。


「怖じ気づいたか? あの時みてぇにな」


 心臓が僅かに軋む。

 ――あの時。


 Dランクになって三年目、初めてのC級挑戦。

 同期の高良、澪ちゃんもいた。

 俺の魔法は一発も通らず、笑われ、倒れ、置き去りにされた。

 「役立たず」と呼ばれた日。

 あの悔しさを、今でも忘れない。


「……分かったよ」


 静かに答える。


 高良の笑みが深まった。


「決まりだな。合格のチャンス、逃すなよ」

 


* * *

 


 日が沈み、空が群青に染まる頃。

 俺たちは都心から外れた郊外の防護区へと車を走らせていた。


 運転席には協会のスタッフ。

 後部座席には俺と高良。


 完全なる無言の空間。

 エンジンの低い唸りだけが、車内の沈黙を埋めていた。


 不思議な静けさだった。

 

 窓越しに外を眺めている高良が、今何を考えているのか。

 俺には検討もつかない。

 

 同期で仲間だった男。

 いつの日か道を違わせ、気づけば嫌悪を向けられるようになっていた。


 強さを求め、力を手に入れた高良。

 強さを諦め、挫折した俺。


 当然交わることのない人種同士。


 それが今、横並びになっている。

 この事実がなんとも不思議で仕方ない。


 そんな感情を胸に、俺も窓の外を眺めていた。



 やがて車が停まる。


 夜の森。

 街の明かりから切り離された闇の中に、淡く光るゲートがあった。


 空気が違う。

 重く、湿っている。

 異世界への入口。


 月明かりの下、青いゲートがゆっくりと蠢いていた。


 背後には見守る協会の職員数名。

 彼らは俺たちを遠巻きに眺めている。


「まさか更新試験でC級ダンジョンに入るとはな」

「しかもあの一式って人、あの歳でDランクらしいぞ」

「マジか。高良さん、あの人を殺す気なんじゃ……」


 そんな声が風に混じって聞こえる。


 高良は剣の柄に手をかけ、無言でゲートを見つめた。


「さぁ、ここからがお前の本当の試験だぜ」


「……分かってる」


 胸の奥が鳴る。

 腹部のコアが、心臓と同じリズムで脈を打つ。


『ホスト。推定危険度:Cランク上位。ホスト単騎で戦うと仮定した生還確率は、五十八パーセントです。それでも、行きますか?』


 静かな電子音が、鼓膜の裏を震わせる。


「――ああ、行く」

 

『了解。ホスト意思を優先。作戦、継続します』


 迷いはなかった。


 俺は高良の後を追って、ゲートに足を踏み入れる。


 ゲートの光が肌を包む。

 視界が白に染まっていく。


 そして俺たちは、闇の中へと歩みを進めたのだった。

 

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