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引退した最弱中年探索者、AIと融合して全属性魔法を極める  作者: 甲賀流


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第7話 探索者証更新試験、開始



 もう一度探索者を志すと決めて、はや二週間が経過した。

 

 探索者協会・更新試験センター。

 都心の外れにある訓練ドームに、俺は足を運んでいた。


 外観は無骨な鉄骨構造。

 一般的な施設という感じ。

 だがドーム状の天井は魔力拡散を防ぐ特殊素材で覆われており、試験中の爆発や魔法の暴発にも対応できるらしい。


 中に入ってすぐ目に入ったのは、更新センターの受付とその頭上にある電子掲示板。

 そこには、今日の試験内容が簡単に表示されていた。


〈本日の更新試験:魔力量測定・魔法制御・身体機動テスト〉


 最初に魔力量の測定。

 次に、制御精度と反応速度を確認する。

 いわば探索者としての基礎的な能力を数値化するものだ。


 そしてそこに並ぶ十数人の受験者。

 皆、装備は簡素なものを身につけ、退屈そうにスマホを触ったり、ぼーっと辺りを見渡したりしている。


 そりゃここは命懸けのダンジョンでもなんでもない。


 年一回必ず受けなければいけない探索者証の更新、ただそれだけだからだ。

 今並んでいる彼らにとって、それはただの日常の一コマに過ぎない。


 だけど俺だけは違う。


 なぜなら探索者証の期限切れから一年以上経過した者に限って、試験難易度は急激が跳ね上がるからだ。


 その合格率は――10%を優に下回るという。

 しかも落ちたら探索者証は剥奪。

 その場合、もう一度イチから資格を取得することになる。


 つまり俺にとってはこの試験、一世一代の大勝負ってわけだ。


「だけどそんなのは関係ない。俺はこの試験、必ず受かる」


 俺の合格を待ち望む天城親子。

 朝霧澪、君の隣に立つというかつての夢。


 そして何より、俺が俺らしくいるために。


 と、施設内で間違いなく一番熱い気持ちを抱いたまま、俺は列の最後尾に並んだ。



 それからの流れはスムーズで、受付で番号札をもらったのち、魔力測定室までの移動を始める。


 移動といっても特別遠いわけではない。

 この会場から出た先にある長廊下を渡った先にあったはず。


 各日、試験官はランダム。

 たしかBランク以上の探索者が順々に行っていき、毎試験ごとの合格基準もその試験官次第、というルールだった気がする。


 Bランク以上の知り合いは比較的少ないはず。

 別に知り合いだったら、少し融通をきかせてもらえる、とか思ってるわけじゃない。


 むしろその逆。

 一人、確実に俺の合格を阻むやつがいる。


 高良隼人。

 元同期のBランク探索者。


 探索者になったばかりの頃は、それなりに会話も交わしていた。


『全員でSまであがろうぜ!』


『蒼斗、強くなろうな!』

 

『せっかくの休みだ、どっか行かねぇ?』


 明るくて気が回せて、おまけに優しい。

 高良は俺たち同期12人の、中心的人物だった。


 みんなで色んな話をした。

 歳も近かったから、プライベートも遊びに行ったりしたっけな。


 だが今じゃ、同期は四人が殉職。


 気づけばみんなバラバラだ。


 そして一番変わってしまったのが高良。

 詳しく理由まで知らないが、弱いやつが許せなくなった。


 そんなアイツがもし今日の試験官だったら、


 間違いなく俺を試験に通さないだろう。


 弱ぇやつはこの世界に要らねぇ――


 きっとそんな言葉を吐きかけてくる。



 そうしてたどり着いた魔力測定室。

 扉を開けた先に、その試験官は立っていた。

 透明な筒状の測定機器に背中を預けるように。


 ソイツは入室した受験者を一通り目でなぞり、その中の俺と目が合った時、目を大きく見開く。

 そして同時に口角を上げ、冷笑した。


「ははっ……まさかお前、また探索者すんのか?」


 言霊とは本当に存在するのか。

 そこにいたのは、金髪を後ろで束ねた男――高良だった。


「おいおい、この歳から本気で探索者やり直すとか、笑わせんなってマジで」


 俺は目を伏せ、口を噤む。


 ここで言い返したところで、試験でプラスになることは何も無い。


 俺に今できることは、この試験で文句の言えないような結果を出すこと。


 それだけだ。


「十年間ずっとDランクだった元探索者が、33にもなってまだ夢見れるとか……お前の頭、お花畑すぎるだろ!」


 高良の罵声に、思わず周りの受験者数人も吹き出してしまう。


 俺を蔑むような周りの目が、胸の奥に刺さる。


 だが、不思議と痛みはなかった。


 大丈夫。

 いくら笑われたとしても、今の俺にとって探索者になれないことよりも辛い現実は他にない。


「ふん、まぁいい。ボチボチ試験始めっか」


 反応を見せない俺が気に食わないのか、鼻を鳴らしてから進行し始める。


 このホールの中央には魔力測定器が一つ。

 あれで魔力の総量と制御精度を測ることになる。

 探索者登録の最も基本的な試験だ。


 もっとも、登録や昇格試験の時と違って今回は更新だけなので、特別いい成績を残したからといって自分のランクが上がるわけではない。


「今更使い方もクソもねぇが、試験官が見本を見せるのが通例らしい。まぁ見とけ」


 そう言って機器の前に立ったのは高良。

 装置に片手を当て、余裕の笑みを浮かべる。


『測定開始』


 短い電子音の後、高良が唸る。


「ウラァッ!!」


 すると測定器が白く発光したのち、機器の頭上にある大型モニターに数値が映し出された。


総魔力量:3,820

制御精度:A-

推定探索者ランク:B中位


 どよめきが起きる。


「さすが高良さん!」

「Bランクは伊達じゃねえな!」


「はっ、久々だがちょっとは上がってたか」


 彼は軽く手を振って、勝ち誇ったように笑った。


「合格の基準はそうだな、自分自身の探索者ランク以上の数値を出すってところだな」


 今回の試験官――高良が決めた合格基準。

 それを上回れば、合格ってわけだが……俺も同じ基準で考えていいのだろうか?


 期限切れから一年以上経った更新試験は、難易度が高いと聞いていたし、あの高良がそう簡単に俺を通すわけもない。


 なら俺に順番が回ってきてから、新しい基準が発表されるとか?


 なんて考えている間に、受験者が次々と魔力測定を済ませていく。

 

 数値はおおむねDランク台。

 中にはC-が出て拍手が起こる者もいた。


 そして、いよいよ――


「次ィ! 受験番号12番! 一式、お前だぞ!」


 名前が呼ばれた。

 

 俺は一度深呼吸をして前へ出る。

 装置の前で立ち止まり、俺は開始の合図を待つ。


 魔力測定……久しぶりだな。

 探索者だった頃、何度測ってもDだった。


 それが俺の現実。

 限界点だった。

 

 今日も同じ結果が出る可能性が高い。


 なんたって久しぶりの測定だ。

 それにこの腹部のコア、アルゴがどこまで魔力総量に関与しているかも分からないからな。


 俺の合格基準も皆と同じならいいけど。


 だがその瞬間、魔力測定器からある音声が流れた。


『……測定基準を変更。受け付けました』


 周囲がざわつく。

 頭上のモニターに赤い文字が浮かび上がった。


《対象:一式碧斗》

《合格基準――Bランク級へ仕様変更》


「Bランク……!?」


 一瞬驚きはした。

 だが、分かっていたことだ。


 期限切れ後の更新の厳しさを。


「え、Bランク級? いや、無理だろ」


 背後からのざわめき。

 誰かが呟いた。


 視線が一斉に集まる。


 そしてこの空間で――ただひとり、楽しそうに笑っている男がいた。


 高良隼人。

 腕を組み、口角を吊り上げている。


「一度探索者の資格を失ったやつが、簡単に這い上がれると思うなよ。そんなこと、オレは絶対に許さねぇからな」


 強圧的な声。

 弱いやつが許せないという、高良の静かな憤りが伝わってくる。


『測定開始』


 そして魔力測定器から、開始の合図。


 そうだ。

 合格の基準がなんであれ、ここでやらない選択肢はない。


「――必ず、合格する」


 俺は周りからの視線を浴びながらも強い覚悟を持って、測定器に手をかざしたのだった。


 

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