第20話 精霊継承
「遅くなってごめんよ、澪ちゃん」
澪、カイ、秀次、千捺。
多少傷はあるものの、皆無事みたいだ。
『敵性機体の立ち上がり完了。出力百三〇%まで上昇。注意を』
「わかってる。行くぞ、ライリィ」
俺の骨盤から上にかけて、渦状に巻き付く。
それが雷の精霊『ライリィ』。
これは『イフリート』の次に契約した精霊。
どうやら各精霊ごとに能力は違うらしく、このライリィの場合は――速度特化の身体強化バフ。
しかも魔力による身体強化と掛け合わせも可。
おかげでこのレベルの敵にも、一撃与えられるというわけだが……。
「碧斗さん! 奴は、魔法をコピーできます!」
カイからの助言。
「ありがとう。だけど――」
俺は纏う稲妻の出力をさらに上げた。
そして一歩踏み込み、視界が線になる。
稲妻が脚へ落ち、加速が骨格の内側を駆け上がる。
「精霊魔法はコピーできない――そうだろ?」
これはさっき倒した中枢守護機ですでに実証済みだ。
俺はアンドロイドのボディへ拳を叩き込んだ。
直撃――のはずが、奴はやや後退したのみで、姿勢を崩すまでにも至らなかった。
「何かが、攻撃を阻んだのか?」
一発目に吹っ飛ばした時よりも、明らかに手応えが感じられない。
見えない壁のようなものがあるような。
「〈アース・ガード〉。貴様の仲間のスキルだ」
「なるほど」
コイツ自体はさっき倒した個体とほぼ同じ。
だがここにいる澪たちの魔法やスキルをコピーしてるとなると、
これは相当厄介だぞ。
「〈フィジカル・ブースト〉」
千捺が胸の前で手を組み、静かに祈る。
彼女の周囲に淡い光の波紋が広がり、俺たちの足元へと流れ込んだ。
筋肉が一瞬、熱を帯びる。
体が軽くなった。
「一式さん!」
千捺のサポートスキルだ。
「碧斗くん、ありがとう。おかげで少し……休めた」
澪が俺の横に並ぶ。
手には生み出した〈アクアブレード〉が。
「碧斗さん! 僕も!」
カイが剣を握って立ち向かう。
「守りは任せてくれ!」
そして秀次は俺たち前衛全員に〈アース・ガード〉を展開してくれた。
Bランクともなれば、複数同時に支援できるのか。
心強いメンバーだ。
そして一方のアンドロイド。
奴は魔法を複数展開した。
〈アクアヴェール〉
〈アース・ガード〉
これら防御を身に纏い、
空間に〈アクアバースト〉を無数に展開。
左腕には〈アクアブレード〉を生成してみせた。
「碧斗くん、カイくん、同時に攻めて、一気に叩こう!」
澪からの提案。
いくらスキルで守りを固めても、その耐久力にはもちろん限界がある。
つまり堅さを上回るほどの攻撃を撃ち続ければいいわけだ。
「わかった!」
「はいっ!」
「まずは俺が――」
先陣を切るッ!
俺は一歩、前に踏み出した。
全身を駆け抜ける稲妻が、骨格の芯まで鋭くしていく。
「行くぞ、ライリィ!」
稲光が脚に落ち、俺は空気を裂くように飛び込む。
拳を放つ。
だが手応えがない。
水の膜のような抵抗が、拳の軌道を逸らしていた。
拳が空気ごと押し返される。
まるで濃密な水槽の中で殴っているような鈍重さ。
見えない膜が衝撃を吸い取っている、そんな感覚だった。
「……くそっ!」
すぐに立て直して二発目、三発目。
そしてそれに続く澪の〈アクアブレード〉と、カイの斬り込み。
畳み掛けた攻撃、どれもが上手く流された。
「だったら、次は速さで――!」
俺は奴の周りを駆け回った。
稲妻のように曲折した軌道を描きつつ、アンドロイドの視線追従が間に合わない速度で。
「まだだ……っ!」
加速と制止を繰り返す。
地を蹴るつま先が燃えるほどに熱い。
「……碧斗くん、すごい」
「碧斗さん……速すぎて、みえない!」
澪とカイ、二人がこの後の追撃を決めやすいよう、俺は確実な一撃を決める。
「もっと速く――」
そして俺の視界にようやく視えた。
敵の弱点を見透かした証。
〈Weakpoint〉の文字が。
「ここだァッ!」
サイドから、右の脇腹に一撃叩き込んだ。
よし、〈アクアヴェール〉も間に合ってない。
装甲にめり込む感覚。
『ホスト、威力が不足しています。追撃を』
「分かった!」
まだ〈アース・ガード〉は壊しきれてない。
さらに殴打。
まだ足りない。
もう一発。
澪とカイも隙を見て斬り込んできたが、その頃には奴の〈アクアヴェール〉が発動していた。
一度、俺たちは距離を取る。
「守りが、堅い! せめて私の一撃が、碧斗くんくらいあれば……」
澪の言う通り、威力が高ければあの防御を打ち破れる可能性がある。
それともう一つ付け足すのなら、手数。
あの〈アクアヴェール〉、同時に受け流れる攻撃の数に上限があるからだ。
そのための秘策、実は俺の胸の内に一つある。
精霊術師のスキル〈精霊継承〉。
それは、精霊を他者へ宿す力。
万が一のために、そのための一体を契約しておいた。
パーティの中で最も付き合いが長く、
そして俺が一番信頼している彼女――朝霧澪を想定した『水の精霊』を。
「澪ちゃん! 一度だけ、試したいことがある!」
声が自然と強くなる。
「何をするの?」
「水の精霊の継承。君の魔法に宿らせて、威力とバフを底上げする」
澪の瞳が、まっすぐ俺を見返す。
その眼差しに、一片の迷いもなかった。
「分かった!」
間髪入れずの即答。
ほんの一瞬、口元に浮かんだ笑みが優しかった。
「俺も初めてだから、正直リスクとか」
「大丈夫。碧斗くんを信じてるから」
その言葉に息が詰まる。
あの頃と同じだ。
探索者になったばかりの頃、何をしても失敗続きだった俺に、最初に信じてるって言ってくれたのも彼女だった。
全員の視線が俺に集まる。
仲間の信頼と期待、そのすべてが背中にのしかかる。
俺は託されたんだ。
――だったらそれに応えるしかない。
「行くぞ……」
俺は小さく息を吸い、手を合わせる。
周囲の魔力がざわめいた。
「〈精霊召喚――アクアランス〉!」
その瞬間青白い光が弾け、蒼い子竜のような影が俺の目の前に現れる。
澪の髪が風に舞い、瞳が輝いた。




