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引退した最弱中年探索者、AIと融合して全属性魔法を極める  作者: 甲賀流


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第2話 戦場に立てることが嬉しい


 そして行き着いたのは――

 広大な遺跡のような空間だった。


 出口も、入口もない。

 あるのは、ただ一つの巨大なホール。


 通常のダンジョンは入り組んだ迷路状になっており、雑魚モンスターを倒しながら奥へ進む構造だ。

 だが、ここは違う。

 迷宮ではなく、戦場そのもの。

 最初から終点が用意されている。


 この単純すぎる構造――ユニークダンジョン特有の異常ってところか。


 そしてその中心にいたのは、

 八つの腕を持つ悪魔のようなモンスター。

 全身を黒い靄に包み、眼孔からは赤い光を放っている。

 その前で、ひとりの探索者が地に崩れ落ちていた。


「なんなんだよッ! 最先端のAI武器と防具があれば、どんなモンスターにも勝てるって聞いたのに!」


 絶叫する青年。

 Sランク探索者顔負けの最新装備を身につけているが、その防具は砕け、長刀は真っ二つ。

 まさに絶体絶命の状況だった。


『私は、最善の策を提示したまでです』


 長刀の剣柄部分に埋め込まれた球状の赤いコアが、点滅しながら冷たい音声を放つ。


「くそ……っ!」


 生成AI機能が搭載された武器。

 研究段階と聞いていたが、実際に使う探索者がいるなんてな。

 

 そして八つ手の悪魔が、ゆっくりとその視線を男に向ける。


 ヴォアアアアアアア――!


 鼓膜が破れそうな咆哮。

 その八本の腕のひとつひとつに、漆黒のエネルギー球が生まれる。

 黒い光が空気を歪ませながら膨張していく。


「う、うわぁぁぁぁ! だ、誰かっ!」


 青年の悲鳴が響く。


「まずいっ! 撃つつもりか!?」


 迷っている暇はないと、俺は右手を突き出して急いで詠唱した。


「〈ファイアランス〉!」


 炎で創られた槍が一直線に走る――が、悪魔の身に纏われた黒いもやに触れた瞬間、掻き消えてしまう。


 だが同時に黒いエネルギーの生成も止まり、その赤い眼光は俺に狙いを変えてきた。


「……よし、いいぞ」


 これで彼が狙われる可能性は低くなった。


 あとはアイツをどう倒すか、だが……。


 とにかく考える前に――


「〈アイスショット〉!」


 できることをする!


 水弾が飛び散り、悪魔の体表に命中する。

 だがそれは蒸気を上げて溶け落ちた。


 まるで通用していない。


 その後、間髪入れず他の魔法を起動。


「〈グラウンドウォール〉!」


 地を盛り上げ、悪魔に突き刺す。

 だが岩の方が脆く、粉々に砕け散ってしまった。


「なっ……!」


 魔力がごっそり抜けていく。


 魔法の威力、落ちちまったかなぁ。


 なんせ発動も三年ぶりだし。


「……あの人、火も、水も、土も……三つの属性も使ってる!? 一人で……? そんなの、Sランク探索者にも真似できないんじゃ……」


 そんな中、青年が唖然とした声を上げた。


 俺は短く息を吐く。


「……努力すりゃ、誰でもできるさ」


 そう言いつつも、胸の奥が痛かった。


 別にSランク探索者が複数の魔法を扱えないわけじゃない。

 する必要がないんだ。


 なぜなら、単一魔法を極める方が強いから。


 魔法とは、使えば使うほど熟練されていく。

 だがそれぞれに成長限界ってものがあって、俺はその限界が極めて低かった。


 だから火、水、風、土、雷……ありとあらゆる系統を練習した。

 どれか一つでも突き抜けることができたら――そう思っていた。


 けど全部、中途半端だった。


 威力も、速度も、制御精度も、S級探索者が極めた単一属性魔法の足元にすら及ばない。


 努力すれば、発動くらいはできる。

 けど、俺の全部はただの中途半端だったんだ。


 すると、突然空気が軋んだ。

 骨が震えるほどの重圧。

 

 この場に立っているだけで、体が拒絶するほど。

 八つ手の悪魔の魔力がさらに膨れ上がっていく。


 悪魔が八本の腕を振り上げる。

 漆黒のエネルギーが収束し、黒い閃光となって放たれようとしている。


 そしてその矛先はなぜか、俺ではなくルーキーの方だった。


「くそっ――!」


 俺は無我夢中に飛び出した。


 後先なんて考える暇がなかった。

 そしてその場に立ち尽くす彼を、咄嗟に突き飛ばす。


 よし、間に合った――


 ホッとした瞬間、突然膝の力が抜ける。


「あ、れ……」

 

 直後、腹部に焼けるような痛みが走った。


「……っ!?」


 咄嗟に腹部を押さえるが、赤い液体が留まることなく流れでている。

 臓器が焼け焦げる臭いが鼻を突く。


 そう、か。

 俺はあの攻撃をくらったんだ。


「うわぁぁぁぁ!!」


 俺の姿を見た青年は恐怖慄き、その場に腰を抜かした。

 

「おい……早く、逃げろ……!」


 逃げる場所なんてない。

 そんなことは分かってる。

 けど、それが俺の振り絞った精一杯の言葉だった。


「ごめんなさい……ごめんなさい。僕がこんなところに足を踏み入れたから……。父さんが造った最新の武器だったら、勝てると思って……」


 青年はその場にうずくまり、懺悔する。


 が、すでに俺の耳には半分も届かなかった。


 視界も暗くなりかけて、意識もどことなく朧気な状態。

 死というのが明確に感じ取れる瞬間、といってもいいだろう。


『致命的損傷を確認。探索者の生命反応、低下』


 そんな時、俺の傍で声が聞こえた。

 いや、声と言うにはあまりにも無機質すぎた。


 暗い視界の中、俺の手元が赤く光っている。

 それはあのルーキーの長刀――AI搭載型の最新武器だった。


『生命維持のための提案。コアの移植を推奨します。そうすれば、生命活動を一時的に維持することができるでしょう』


 ……は?


 コアの移植?

 コアってこの柄に埋まってる赤い球のことか?


『生か死か。決めるのは貴方。私は最善の策を提示したまでです』


 胸に走る激痛。

 呼吸が浅くなり、血の気が引いていく。


「……ど、どうすりゃいいんだ」


 もはや俺に最善を選べる思考はない。


 そして偶然か必然か、コアは武器から綺麗に抜け落ち、何かに手繰り寄せられるように、俺の手元へ転がり込んできた。


「わかった。生き残るためなら――」


 俺はコアを掴み、そのまま腹部に押し込んだ。


「……うぅっ!!!!」


 体内に電流が走る。

 神経が焼かれ、視界がノイズで満たされた。

 思考が分解されるような感覚。

 視界の端に、無数の文字列が流れ込む。


『融合開始。ホスト適合率、七二%……』


 次第に痛みが引き、視界もクリアになる。

 

『攻撃可能点、検出。成功確率、九二%』


 脳に直接響く無機質な音声。


『融合、完了。これより、あなたをホストとして登録します』


 何が起こったのか、分からない。

 気づけば俺は立っていた。

 無傷の身体で、あの悪魔と向かい合って。


 なんだ、この感覚?

 痛みも恐怖も消えてるはずなのに――なぜか胸の奥が燃えるように熱い。


 いや、考えるまでもないな。


 俺は今、戦場に立てることが嬉しい。


 ――そう、ワクワクしているんだ。


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