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引退した最弱中年探索者、AIと融合して全属性魔法を極める  作者: 甲賀流


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第17話 試練完了



 


 灼熱の渦が、この広間を満たす。


 俺の肩に絡みつく小さな火竜が、俺にエネルギーを分けてくれている。

 

「これが……俺の、精霊……」


 炎が答えるように身体を這う。

 腕を包み、背中を覆い、上半身に広がっていく。


 俺の全身を包む炎。もはや痛みじゃない。

 鼓動だ。


 肩に絡みついた炎の竜が、俺と同じように呼吸をしていた。


「行くぞ、イフリート」


 体を纏う紅蓮の光が淡く光り、火竜が小さく「アァー」と鳴く。

 まるで炎が意思を持って答えたようだった。


「ほう……ようやく火と対話できるか」


 老人の声が静かに響いた。


 そして彼の纏うエネルギーが赤く染められていく。

 燃え上がる炎が、衣のようにまとわりついた。


「見せてみよ。己の精霊魔法を」


 老人が杖を前方に掲げた瞬間、床全体が唸りを上げた。

 纏った炎が腕を伝い、杖に集約していく。


 空間の温度が一瞬で跳ね上がった。


「〈炎精霊術・天翔焔てんしょうえん〉」


 それは炎というより生き物だった。


「なっ!?」

 

 翼を広げた炎の巨鳥が、一瞬にして創り上げられる。


「あんなもん、どうやって対処しろと」


『ホスト、すでに同様の精霊魔法を獲得しています』


「っ……!?」


 今は驚いている暇はない。


 だったら、俺のやることはただ一つだ。


 俺は手を差し出し、自分にだけ視えるスキル欄に記載された魔法名を叫んだ。


「〈炎精霊術・天翔焔〉」


 内に秘めた魔力、それとイフリートの体内から出力されたエネルギーが混ざる。

 そして生み出された炎の巨鳥を俺は放った。


 炎鳥同士が激しくぶつかり合う。

 広間の中心で光が爆ぜ、圧力が肌を切り裂くほどの熱量で押し寄せた。


『警告:魔力衝突。敵の出力、ホスト比およそ四倍』


「まだ……いける!」


 立っているだけで、全身が焼けそうに熱い。

 だが、ここで負けるわけにはいかない。


 今、できることをする!


「〈ヴォルカニック・バースト〉!」


 炎と雷を混ぜ、複合魔法を放つ。

 老人の攻撃に、少しでも食らいつくために。


 だが駄目だ。

 全く押し返せない。


 それどころか、俺の魔法が喰われていく。


 飢えたように、相手の炎が膨張した。


 轟音とともに、形を変える。

 さらに大きな巨鳥。


 炎の翼が広がった瞬間、空気そのものが悲鳴を上げた気がした。


「嘘、だろ……?」


 床を砕き、爆風を巻き起こしながら、炎の鳥が迫る。


「っ……!」


 防御を張る暇も、身を躱す余裕もない。


 赤い光が視界を埋め、空気が焼ける。

 俺は――ただ目を瞑るしかなかった。


 くそっ……完全に押し負けた……!


 そして、炎が直撃する瞬間――

 

「まだ終わりではないぞ、一式碧斗」


 その言葉に、心臓が再び跳ねる。


 俺はゆっくりと目を開けた。


 炎の衝突が止んでいた。

 赤熱した空気の中、ただ焦げた匂いと、燃え残る余光だけが漂っている。


『炎精霊術の消滅を確認。術師本人が、自ら消滅させたと思われます』


 老人の放った精霊の炎は霧散し、広間の中心には、俺とイフリートだけが残っていた。

 その小さな体が、肩の上で静かに揺れている。

 俺の呼吸と、炎の揺らめきが重なっていた。


「――見事だ」


 低く響く声に、自然と背筋をピンと張る。


「お前は精霊と心を通わせた。それが、クリア条件だ」


「……条件?」


 老人は頷き、炎を小さく灯す。

 掌の上に小さな火の玉が生まれ、それが生き物のように脈打っていた。


「精霊魔法とは、力でねじ伏せる術ではない。自然と心を交わし、己の理を重ねること。お前はそれを成した。……故に、試練は終わりだ」


 言葉とともに、老人は優しく微笑む。

 これまで見せたことのない表情だった。


『試練完了。ユニーク職業――【精霊術師】のスキルを獲得しました』


 アルゴの声が、静かに脳を満たす。

 ウィンドウが開かれ、淡い金色の光で浮かび上がった。


 

 ───────────────


 ユニーク職業:【精霊術師】


 習得スキル:


〈精霊召喚〉――精霊を顕現させる(契約の保証は無し)


〈精霊融合〉――精霊の属性を身に纏い、能力を増幅。


〈精霊継承〉――精霊を他者へ宿すことができる。


 ───────────────

 


 肩の上で、イフリートが小さく吠えた。

 その体が赤く光り、尾の先が俺の頬をなぞる。


 まるで「よろしく」と言っているようだ。


 老人は目を細め、ゆっくりと微笑んだ。


「その炎を絶やすな。一式碧斗」


 その声が響いた瞬間、老人の体が光に包まれる。

 光が花弁のように舞い上がり、彼の姿を少しずつ溶かしていった。


 最後に、声だけが残る。


「精霊とは、ただ力を貸す存在ではない。共に歩み、灯す存在だ。それだけは……忘れるな、精霊術師よ」


 白い光が視界を満たした。


 次に目を開けたとき、そこは俺の部屋だった。

 深夜の静けさの中、俺は呆然と立ち尽くしていた。


 イフリートの姿はもうない。

 けれど、胸の奥では今も微かに燃えている。

 心臓と同じリズムで――小さな炎の意志が。


 視界に浮かぶウィンドウが、淡く光を放った。


 【職業:精霊術師】


 その文字を見た瞬間、息が少しだけ震える。


 あれは夢じゃなかった。

 俺は新しい仲間、新たな力を手に入れたんだ。


「――必ず、Cランクに昇格してやる」


 静かな部屋の中、胸の奥の炎だけが確かに燃えていた。



 * * *



 ――そして、数日が過ぎた。


 朝、ベッドの脇で端末が小さく震える。

 画面には、見慣れた名前が浮かんでいた。


『碧斗くん、メンバー揃ったよ! あとはダンジョンが発生するだけだね!』


 澪からのメッセージ。

 明るい絵文字と一緒に届いたその言葉が、妙に胸に響いた。


「……よし、もう少しで準備が整うな」


 そう呟きながら、俺は端末を見つめる。

  


 そしてさらに数日後。

 朝、端末に通知が届いた。


 協会発信――【C級ダンジョン(パーティ向け)発生報告】

 これは事前に登録した希望難易度のダンジョンのみ、通知される設定になっている。


 発生地点は、都市南部区域。


『碧斗さん、発生しましたね』


 カイからのメッセージが続く。

 俺は短く息を吐き、返信の代わりに端末を握りしめた。


「あぁ、いよいよだな」


 

 そしてその日の午後、俺たちはダンジョンの前に集まった。


 昼の刺すような暑さが、俺の戦意を刺激する。

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