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引退した最弱中年探索者、AIと融合して全属性魔法を極める  作者: 甲賀流


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15/18

第15話 ホスト、上位職を獲得です



 

 カフェに集まった日の夜。

 外は暗く、街の灯りがすでに消えきった頃。

 六畳半の部屋で、俺は深呼吸を繰り返していた。


 机の上には半分飲みかけのコーヒー。


 生活感溢れる中、俺は強ばった表情で視界のウィンドウを凝視する。

 


───────────────

 【ユニークキー:現在使用可能】

 使用条件:人目のない場所

───────────────

 


「……本当にここでいいのか?」


『はい。人目さえなければ、どこでもユニークキーは発動可能です』


「なるほど……なら、ここでいい」


 赤いウィンドウの鍵をタップする。

 空間が震え、わずかに発光する。


 そして現実が捻じれ、目の前に紅い渦が現れた。


『転送フィールド安定化。無事ユニークダンジョンへのゲートが現れました』


「……赤い、ゲートか」


 俺は三ヶ月前に見た、世田谷のユニークダンジョンを思い出す。


 そしてこれはあの時の攻略報酬。


 ユニーク職になれるとかって記載があったよな。


 ユニーク職どころか職すら名称にない探索者に対して、不気味なワードだとは思う。


 だがそこに強くなれる可能性があるのなら――


 俺は迷わず、この手を伸ばす。


「――よし、いくぞ」


 息を吸い込み、俺は一歩踏み込んだ。



 * * *

 


 全身を包む浮遊感。

 空間の流れに身体が溶けていく。


『ホスト、転送完了まで三秒』


 眩い光が視界を覆い、


 次の瞬間、硬い石床の感触が足元に戻ってきた。


 

 そこは、見渡す限りの古代遺跡。

 

 崩れた柱、刻まれた碑文、天井に走る光の脈。

 空気そのものが何百年も眠っていたような、重たい静けさを纏っていた。


「……ここが、ユニークダンジョン」


『空間特性:封印遺跡。敵性反応、複数あり。ご注意を』


 緩やかに右へカーブする一本道。

 奥から足音がコツ、コツ、と聞こえてくる。

 骨の音。黒い靄。

 

 現れたのは――スケルトンソルジャー。


「こいつ……」


 昔戦ったことのあるモンスターだ。


 体に魔力を纏う、身体強化。

 

 踏み込み、一閃。

 拳が骨を砕き、光の粒が散っていく。


『撃破確認』


「よしっ!」


 この程度の相手なら、俺の物理技も通用する。


 昔の俺なら無理だった。


 だが今はアルゴがいる。

 俺は魔力の出力コントロールをアルゴに教えてもらい、この三ヶ月間、徹底的に磨き続けた。


 以前は魔法だけで戦っていた俺だったが、今後C級以上のダンジョンに挑んでいくなら、物理攻撃も確実に必要になってくる。

 なんせ魔力による身体強化は、魔法に比べて、消費魔力量が格段に少ないからな。


 そして次に現れたのは、かつてD級ダンジョンで殺されかけたオーガ。


「大丈夫。今の俺なら、確実に倒せる」


 迫るオーガに向けたのは、魔力出力30%の拳攻撃。


 今、俺が無傷で放てる範囲の最大出力だ。


「ハァァァッ!!!!」


 渾身の一撃が、オーガのボディにめり込む。

 壁に衝突したオーガはそのまま光の粒子となって、散っていった。


 その先に進むと、黒狼。

 そしてさらにその次は氷トカゲ。


 見覚えのある敵ばかりだった。


「どいつもこいつも……昔戦った奴らばかり」


 まるでこのダンジョンが、意図的にそうさせているかのような。


 仮にそうだとしたら、


 このユニークダンジョンは何が目的なんだ?


 俺に過去を振り返らせて、楽しいか?


「……いや、本当に楽しんでいるのは、俺か」


 今、体の芯から熱が走っている。

 

 あの頃死ぬ思いで戦った、あるいは一人じゃ勝てなかったモンスターたち。

 

 それを今、容易に倒すことができている。


 もう昔のような恐怖はない。

 むしろ興奮を感じている自分がいる。


『成長の実感はありますか?』


 アルゴからの問い。

 

「あるさ。数値になってる分だけ、よく分かる」


 笑みが自然とこぼれる。


 強くなった実感とともに、俺はさらに先へと足を進ませた。

 


 奥に辿り着いた。

 そこは完全に行き止まりで、五角形の形をした大広間だった。

 壁の五辺にそれぞれ扉があり、その上には各属性の紋章が輝いていた。


 〈炎の間〉

 〈雷の間〉

 〈水の間〉

 〈風の間〉

 〈土の間〉


「……五属性から一つ選ぶってわけか。ならもうすでに、答えは決まってる」


 俺は〈炎の間〉の扉に手を伸ばした。

 熱が伝わり、掌がじりじりと焼ける。


「最初に覚えたのは炎魔法だったからな」


 ゴゴゴ、と重く開いた扉の先、そこに広がっていたのは、さっきの大広間よりもさらに広大な空間。


 崩れた柱が並び、床には赤い魔法陣の跡。

 そしてその中心――巨大な石の円壇に、ひときわ強い熱源があった。


 真紅の巨竜だ。


 赤鱗の隙間から赤光が漏れる。

 その翼がわずかに動くだけで周囲の瓦礫が震えた。


『個体名:イフリート。危険度――不明』


 息を吸うだけで喉が焼けそうだ。


『試練クリア条件、解析完了。目的:五分間の生存。もしくは個体の討伐です』


「……なるほど、耐久戦ってわけか」

 

 喉の奥が焼けるような熱風。

 だが目の前の炎の巨影は、ただ立っているだけで圧を放っていた。


『警告。敵性存在、臨戦態勢に移行』


「上等だ、やってみろよ――!」


 ヴォォォォオオオオォォッ――!!


 そして爆ぜるように放った咆哮。

 その衝撃波に合わせて、イフリートの口から爆炎が放出される。


「〈ウォーターエッジ〉!」


 水の刃を広げ、正面からぶつけた。

 衝突の瞬間、白い蒸気が弾け、空気が爆ぜる。

 炎と水がせめぎ合い、爆風が押し寄せた。


 床に転がりながらも、俺は息を吐く。


 一撃でもくらえば、間違いなく死ぬ。


 昔の俺なら、イフリートを見ただけで逃げ出したくなっていただろう。


 でも――今は違う。


 アルゴがいる。

 戦闘のたびに、敵の癖、間合い、呼吸をすべて記録し、それを武器変えてくれる。


『戦闘データを解析。敵の動きを予測します』


 視界の中に、赤い線が浮かび上がった。

 イフリートの爪の軌道――次に来る攻撃だ。


 俺はめいっぱいサイドに飛び跳ね、完璧なタイミングで躱した。


「さすがアルゴさん、助かったよ」


『否。いつもお伝えしていますが、これは今まであなたが培ってきた経験と私の分析を元に導き出した未来。決して私一人の力ではありません』


「……あぁ。そうだったな!」


 そうだ、これは二人の力!


 そして次はその巨体を使ったプレス攻撃。

 俺はいち早く身体を横へ滑らせる。


『回避成功。次の動作を予測――!』


「〈サンダーブレイク〉!」


 雷撃が竜の胴を貫き、火花が散る。


 だが、イフリートはまるで何事もなかったかのように、すぐさま炎のブレスを吐き出した。


「っ……はやっ!」


『警告。攻撃予測では処理しきれません。〈加速同期アクセルリンク〉を発動させます』


 神経を、アルゴの処理速度に同期させる。

 そして俺の思考と反射を極限にまで加速させる、もう一段階上の戦闘技術だ。


「……分かった!」


 瞬間、世界が遅くなる。

 時間の流れが一拍伸び、音が粘つく。

 鼓動の合間に、炎の粒子が止まって見えた。


『感覚処理を強化。反応速度、四十五%上昇』


 イフリートの動きが、線と点に変わる。

 予測と現実が重なり、俺はその隙間を縫うように駆け抜けた。


「そこだ――〈フレイムランス〉!」


 掌から放った炎槍が、竜の腕で軽く弾かれる。


「くそ、全く効いてない……っ!」

 

 だが後悔する暇はない。

 俺は反動で後退しながらも、さらに魔力を重ねる。


「だったら次は水を混ぜてやる!」


 掌の中で、紅と蒼――二色の魔力が、渦を巻くように融合していく。


「いけ、〈スチームバースト〉!」


 俺は水で包んだ炎の奔流を放った。

 生じた高圧蒸気の塊が、イフリートの硬鱗をわずかに砕く。


『成功。イフリートの損傷率、二%』


「……全く倒せる気がしないな」


 魔力は半分以上尽きた。

 それに極限下の戦闘が続いて、体力もかなり削られてしまっている。


 一方のイフリート、奴はほぼ無傷。

 立て続けの攻撃も、止む気配すら感じられない。

 

 ヴォォォォォォッ――!!


 イフリートの咆哮が空気を裂く。

 それにより起こった赤い熱波が押し寄せる。


『全方位攻撃です!』


 くそ、端から逃がす気はないってか。


「だったら――ぶつけるしかねぇな!」


 雷と炎。

 二つの属性を同時に練り上げる。

 これが、今の俺ができる最高火力の魔法だ。


『属性混合、完了』


 魔力が暴れ、掌が焼ける。


「〈ヴォルカニック・バースト〉!」


 轟音。

 炎と雷の奔流が、イフリートの熱波とぶつかる。


 灼熱がねじれ、世界が真っ白に弾ける。

 爆風がすべてを飲み込み、俺の視界を煙で染め上げていく。


 そして目の前が切り開かれたのち、


『……五分経過。生存条件、達成』


 堂々とした姿で佇んでいたイフリートが、光の粒になり、静かに消えていく。


 その瞬間、膝が砕けるように力が抜ける。


 呼吸が荒い。

 全身が焼けるように痛い。

 それでも、俺の口元は自然と笑っていた。


「っはぁ……はぁ……そうか……。制限時間なんて、すっかり忘れてた……」


 あの灼熱の中で、ただ必死に、目の前の怪物に食らいついていた。

 時間のことなんて頭になかった。


 生き残るよりぶつかり合う――あの時の俺には、そのことしか見えていなかった。


 イフリートを倒すことは叶わなかった。

 傷ひとつ付けることさえできなかった。


 けれど、それでも。


 胸の奥で高鳴る鼓動が、すべてを物語っていた。

 悔しさでも敗北でもない。


 純粋な興奮だ。


 まるで、何かを取り戻した子供のように。

 俺はその戦いを、心の底から楽しんでいた。

 

 そしてこの部屋の最奥にもう一つ扉、〈継承の間〉と、黒い文字が扉の上に。


「継承、ってなにを――」


『ホスト、ユニーク職を獲得です』


「え……?」


 すると視界の端。

 俺のステータス画面。

 HOST:一式碧斗、の下にある職業欄に新たな文字が刻まれていたのだ。


 ――職業:精霊術師と。


「精霊……術師!?」

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